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特集(季節のテーマ)

「緊張」や「あがり症」を克服する2つのトレーニング

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監修/清水栄司先生(千葉大学医学部附属病院 認知行動療法センター長)

春は進学、就職、異動などで環境が変わり、新たな出会いも増える季節。人前での自己紹介など、緊張してしまう場面も多いのではないでしょうか。日常生活の中でできる緊張・あがり症対策について、千葉大学医学部附属病院 認知行動療法センター長 清水栄司先生に伺いました。

緊張するのは「自然な反応」

人前で話をするときや、初対面の人に挨拶や自己紹介をするときなど、「緊張して、うまく話せない」「すぐにあがってしまう」といった悩みを抱えている人も多いでしょう。しかし、これは誰にでも起こりうる自然な反応です。

心や体が張り詰めた状態である緊張には自律神経のバランスがかかわっています。普段は交感神経と副交感神経が適度なバランスで働いていますが、不安を感じると交感神経が優位になり、筋肉が緊張して震えたり、顔が赤くなったり、心臓がドキドキしたり、汗をかいたりと、体に反応が表れます。個人差はありますが、どんな人でも不安を感じることはありますし、まったく緊張していないように見える人でも手に汗をかいていたりするものです。

そもそも、不安は生物として必要な感情です。不安や恐怖による警戒心とうまく付き合ってきたからこそ、人類は長く生き延びてこられたといわれています。また、ほどよい緊張感が必要な場面もあります。例えば、アスリートは適度な緊張感があったほうが良い結果につながるといわれます。不安や緊張は必ずしも悪いものではないのです。

「自分は人前ですぐに緊張してしまう」と悩んでいる人は、緊張していることをできるだけ隠そうとする安全のための行動をとりがちです。すると、「顔が赤くなったら、他の人に笑われるのではないか」「汗だくで手や声が震えてしまったら、失礼な人だと周りを不快にさせてしまうのではないか」と考えて、自分にばかり注意が向いてしまい、その自意識が不安を強くしてしまいます。さらに、不安が強くなればなるほど、赤面、発汗、震えなど余計に体が緊張して身体反応が高まるという悪循環が起こります。その結果、頭が真っ白になったり、のどが詰まってうまく話せなくなったりして、ますます「自分は人前に出ると緊張してしまう」「人前に出るのが苦手」という考え(意識)が強くなってしまうのです。

不安・緊張の悪循環

自分以外に注意を向けて、緊張とうまく付き合う

緊張と上手に付き合う方法の一つは、緊張を極端に隠そうとしないことです。緊張することはごく普通の反応なので、「緊張してはいけない」「絶対に隠し通さなければならない」と思う必要はありません。「緊張していることがばれてもいい、相手にわかってしまってもいい」と思えるようになると、不安は和らいでいきます。「人前で話すのって緊張しますよね」などと、不安な気持ちを自分から相手に素直に伝えてみると、かえって初々しさや真面目さを感じてもらえて、好印象を持ってもらえる場合もあります。

また、周りから自分がどう見えているのかという自意識が過剰になると、誰でも不安になり、緊張してしまうものです。緊張しやすい人は特に、不安や緊張を隠そうと自分の体の反応やイメージに注意を向けすぎてしまいがちですが、自分のことばかりを意識するのではなく、他の物事に意識を向けることで、不安や緊張を和らげることができます。

清水先生に、他の物事に注目することで緊張に対処する「注意トレーニング」を2つ教えていただきました。日常生活の中でできる方法ですので、試してみてください。

(1)画家やカメラマンになったつもりで、目の前にある人や物をじっくり観察する「注意トレーニング」

似顔絵を描く画家(あるいはプロのカメラマン)になったつもりで、目の前にいる人の顔をよく観察します。実際に絵を描く必要はありませんが、似顔絵を描くためには、顔の形、目の色、髪の長さなどをかなり細かく観察する必要があるため、相手に注目しなければならず、自分に意識が向かなくなります。人の顔でなくても、目の前にある物や風景を観察してもかまいません。

あるいは、ラジオのアナウンサーになったつもりで、目の前で起こっていることを実況中継してみるのも良い方法です。ラジオには映像がないため、細かく説明しないと聴き手に内容が伝わりません。細かく伝えようと思うと、目の前の様子をじっくり観察しなければならないため、意識が自分から逸れるのです。

(2)さまざまな楽器の音に、順番に意識を向けて音楽を聴く「注意トレーニング」

何気なく音楽を聞いているときは、メインボーカルの声や主旋律だけが聞こえているのではないでしょうか。耳を澄ませて、さまざまな楽器の音に意識を向けてみましょう。例えば、最初はギターの旋律だけを追いかけ、2番目にベース、3番目にドラム、4番目にボーカルというように、時間をかけて順番に注意(意識)を変えていきます。その後、もう一度全体を聞いてみると、集中して聞いていた音が全体の中の一部でしかなかったことに気づいたり、客観的に全体を把握する感覚が得やすくなったりします。これによって、さまざまなところに柔軟に注意を向けるスキルが身につきます。

このように、日頃から自分以外の物事に集中する練習をしておくと、緊張しやすい場面でも、注意を向ける先をコントロールできるようになります。

常に苦しい状態が6ヵ月以上続くなら受診を

人前で話すのがあまりに怖くて、ずっとそのことばかり考えてしまう。人と接することを考えただけで苦しく、学校や会社に行くのが毎日つらい――。このような状態が長く続き、日常生活にも支障が出てしまう場合は、心療内科や精神科を受診することをお勧めします。もしかしたら「社交不安症(社交不安障害)」かもしれません。

社交不安症は、人前に出たり、人と接したりする場面で極端に強い不安を感じる病気で、常に苦痛を感じる状態が6ヵ月以上続くことが診断の目安となります。

社交不安症と診断された場合は、認知行動療法が効果的です。認知行動療法とは、医師の指導のもと、考え方(認知)や行動を変えることで、悪循環から脱して心の状態を改善していく方法です。認知行動療法を受けると、緊張や不安が強すぎてアンバランスになった考え方や行動が調整されるため、今まで感じていた苦しさが減ったり、誤った思い込みに気づいたりして、気持ちが楽になります。

例えば、「人前でうまく話せないと他の人に笑われる」と思い込んでいると、ますます不安が高まって緊張してしまいます。しかし、認知行動療法を受けると、自分を苦しめるような悪い方向に考えるクセがあったことに気づき、「人前で多少うまく話せなくても評価はそれほど下がらない」「そもそも他人は自分のことをそんなに見ていないのだから、緊張を隠す必要はない」といった、役に立つ前向きな考え方に変えていくことができます。たとえ緊張や不安を感じても、自分で対処する方法がわかるようになります。対人不安で苦しくて仕方ないときには、ぜひ医師を頼ってみてください。

監修者プロフィール
清水栄司先生(千葉大学医学部附属病院 認知行動療法センター長)

【清水栄司(しみず えいじ)先生プロフィール】

千葉大学医学部附属病院 認知行動療法センター長
1990年千葉大学医学部卒業。千葉大学医学部附属病院精神神経科、プリンストン大学留学などを経て、現職。千葉大学大学院医学研究院認知行動生理学教授、千葉大学子どものこころの発達研究センター長も務める。専門は認知行動生理学、認知行動療法など。千葉大学にて千葉認知行動療法士トレーニングコースを主宰。著書に『自分で治す「社交不安症」』(法研)などがある。

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