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【検査・治療編】亜鉛欠乏症は薬で改善できる?病院を受診すべきケースと検査・治療法
監修/脇野 修先生(徳島大学大学院医歯薬学研究部 腎臓内科学分野 教授)

皮膚のトラブルや脱毛、味覚異常、性機能障害など、全身のさまざまな不調の原因となる亜鉛欠乏症。どのような場合に病院を受診したらよいでしょうか。その目安となる自覚症状、病院での具体的な検査内容や治療方法について、徳島大学大学院医歯薬学研究部 腎臓内科学分野 教授の脇野 修先生に伺いました。
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亜鉛不足かも……どの診療科を受診したらいい?
亜鉛欠乏症の症状は多岐にわたり、主なものは以下のとおりです。
- 食事がおいしくない
- 傷が治りにくい
- 風邪などの感染症にかかり、治りにくい
- 抜け毛が多い
- 肌が荒れる
- 体がだるい
- 身長の伸びが悪い(小児に関して)
こうした自覚症状があり、どの診療科を受診したらよいか迷う場合は、総合診療科や内科などのかかりつけ医にまずは相談してみるとよいでしょう。症状がはっきりしている場合、例えば味覚異常については耳鼻咽喉科、脱毛については皮膚科、子どもの低身長については小児科の先生に相談すると、より専門的な観点から検査や診断を受けられます。
亜鉛欠乏症の検査と治療法
医師の問診を受け、その症状の原因となるような疾患がほかにないことを確認し、血液検査で血清亜鉛値(血中の亜鉛濃度)を測定します。数値が60~80µg/dLだと「潜在性亜鉛欠乏の疑い」、60µg/dL未満であれば、「亜鉛欠乏症の疑い」となり、薬剤(経口投与)によって亜鉛の補充治療を開始します※1。
亜鉛は体内では作れないため、基本的に食事から摂取します。1回の食事で摂れる亜鉛は5~6mg程度ですが、本来1日の摂取の推奨量は18~29歳の男性で9.0mg、30~64歳の男性で9.5mg、65歳以上の男性で9.0mg、18~29歳の女性で7.5mg、30~64歳の女性で8.0mg、65~74歳の女性で7.5mg、75歳以上の女性で7.0mgとなっています※2。血清亜鉛値が正常値の人はそれで足りますが、食事のみで摂取量を大幅かつ速やかに増やすのは難しく、欠乏状態を補うことはなかなかできません。
一方、薬剤で治療する場合は、学童期以降~成人では1日50~150mg、幼児では1日25~50 mgの亜鉛を補充することが可能になります。薬剤によって十分な量の亜鉛を補充することで、体内で細胞に利用されて代謝や排泄が行われた後でも、必要な亜鉛量を補うことができます。服薬治療の期間はおおむね3カ月を目安とし、1~2カ月ごとに血清亜鉛値を測定します。亜鉛を投与した結果、前述の症状が改善すると、初めて亜鉛欠乏症であるという診断がつきます。
血清亜鉛値が正常値(80~130µg/dL)になった後、さらに補充し続けると、亜鉛過剰になる可能性があるので注意が必要です。ただし、自己判断で薬物治療をやめるのではなく、必ず医師と相談しましょう。
亜鉛欠乏で貧血になることがありますが、亜鉛過剰の場合でも貧血が起こることがあります。亜鉛が過剰になると体内の銅や鉄の吸収が阻害され、それによって貧血を生じることがあるため、注意が必要です。このほか、亜鉛過剰が原因で吐き気や嘔吐、腹痛、下痢、食欲不振といった消化器症状がみられることもあります。服薬治療の期間中も症状の変化の有無をご自身でチェックし、必ず再受診して医師に経過をフォローしてもらうことが重要です。
※1:一般社団法人 日本臨床栄養学会編「亜鉛欠乏症の診療指針2024別ウィンドウで開きます」を2026年2月15日に参照
※2:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書別ウィンドウで開きます」:各論1エネルギー・栄養素(微量ミネラル)を2026年3月9日に参照
亜鉛不足になりやすい疾患がある人は要注意
基礎疾患のある人が、治療のために日ごろ服用する薬剤の中には、亜鉛の排泄を促す成分が含まれているものがあります。例えば、高尿酸血症や痛風の治療薬、抗うつ薬、糖尿病治療薬の中には、亜鉛の吸収を阻害したり、便中に亜鉛を排出しやすくしたりするような作用があるものもあります。また、腎臓疾患や消化管疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎など)は、そもそも亜鉛欠乏を起こしやすい疾患です。こうした疾患のある人は、すでに亜鉛欠乏が起きている可能性があるので、亜鉛を食事で積極的に摂取したり、一度は血清亜鉛値をチェックしたりすることをおすすめします。
学生や社会人の多くは定期的に健康診断を受けていることでしょう。しかし、一般的な健診の血液検査項目では亜鉛の測定はなく、亜鉛欠乏が反映される特異的な数値も、健診項目ではなかなか測れません。
肝機能の異常は、肝細胞のダメージやアルコールの影響が反映されるAST/ALTの数値が指標になります。あるいは、尿検査で尿たんぱくの数値が高いと腎機能の異常が考えられます。しかし、亜鉛については直接的な数値を測る以外で欠乏状態を推測する検査値データは、残念ながらありません。
かつては、アルカリフォスファターゼ(ALP)の数値が低いと、酵素の働きが低下していると判断され、これが亜鉛不足の一つの指標となると考えられていました。しかし、この数値の低さと亜鉛欠乏は必ずしも一致せず、亜鉛欠乏の指標としては不明瞭ということで、最新の亜鉛欠乏症の診療指針では記載が削除されています。このほか、先述した貧血の原因の一つとして亜鉛欠乏もありますが、その割合は決して大きくなく、多くは鉄欠乏が原因と考えられています。
亜鉛欠乏症の治療を行うためには、まずは冒頭に挙げた自覚症状がある場合、自己判断せずにかかりつけの内科などを受診して、血清亜鉛値を測定してもらいましょう。そして数値が低ければ薬剤で補充する、というステップが重要です。補充しても症状の改善がなかなかみられない場合、亜鉛欠乏がその症状の原因ではない可能性も踏まえて薬物治療を中止し、真の原因を突き止めるために次の一手となる治療を医師とともに探ることも大切です。
亜鉛欠乏症チェックリスト
監修者プロフィール
脇野 修先生(徳島大学大学院医歯薬学研究部 腎臓内科学分野 教授)
【脇野 修(わきの しゅう)先生プロフィール】
徳島大学大学院医歯薬学研究部 腎臓内科学分野 教授、徳島大学病院腎臓内科 診療科長
1990年、慶應義塾大学医学部卒業。1999年、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) 医学部留学、2015年、慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科准教授を経て、2021年より現職。主な専門分野は腎疾患全般、透析、内分泌・代謝、高血圧。「亜鉛欠乏症の診療指針2024」作成委員長。










