のどの痛みが長引くときの対処法と受診のタイミング

そもそも「のど」には、主に空気と食べ物、両方の通り道である咽頭（いんとう）と、空気の通り道である喉頭（こうとう）と呼ばれる2つの通り道があり、それらの表面を覆う粘膜に炎症が生じると痛みが出ます。炎症が起こる原因は、ウイルス感染、細菌感染、そしてアレルギーや何らかの刺激物によるものなどが考えられます。

風邪やインフルエンザによるのどの痛み

風邪やインフルエンザにかかると、多くの場合で発熱や咳、鼻水といった症状と共にのどの痛みを感じることがあります。それは、ウイルスがのどの粘膜に感染し、炎症が起こると腫れや痛みがもたらされるためです。

のどの粘膜の表面には粘液が層をつくり、潤いを保っています。これがさまざまなウイルスなどの侵入を防ぐバリアーとして機能しています。ところが、乾燥すると粘液が減り、細胞の隙間が広がって神経が露出するので痛みを感じます。そこに細菌やウイルスが侵入し、炎症が生じるのです。

のどを刺激しないようにこまめな水分補給と保湿を心がけ、炎症を少しでも和らげましょう。適切な治療とセルフケアにより、数日で改善することがほとんどですが、後で述べるように痛みや違和感が長引く場合は注意が必要です。

細菌感染によるのどの痛み（扁桃炎、咽頭炎など）

細菌に感染することで痛みが出ることもあります。細菌感染で多いのが、A群β溶血性レンサ球菌（A群溶連菌）による咽頭炎および扁桃炎です。

細菌感染によるのどの痛みは、ウイルス性咽頭炎よりも強く出る傾向があります。左右の首筋にある頸部リンパ節に腫れがみられ、触れると痛みもあります。口腔内では扁桃が赤く腫れ、多くの場合、咳や鼻水を伴わないのも特徴です。小児は重症化しやすい傾向があるので注意が必要です。

アレルギーや刺激物によるのどの痛み

花粉やハウスダストなどのアレルゲンに反応して、のどにかゆみや腫れが生じることがあります。また、こうしたアレルゲンが鼻水などの症状を引き起こし、鼻づまりのために口呼吸となり、口腔内が乾燥してのどに痛みが生じる場合もあります。

タバコの煙などによる刺激も、のどの痛みを引き起こす原因の一つです。タバコに含まれるニコチンやタールといったさまざまな有害物質がのどの粘膜を刺激し、炎症を引き起こします。これはタバコを吸っている本人のみならず、副流煙によって周りの人にも同様の影響を及ぼします。喫煙歴が長い人は、慢性的にのどの粘膜に刺激が加わり続け、傷みが進行している可能性があります。喫煙習慣があり、のどの痛みを自覚する人は、喫煙量を減らす、もしくは禁煙することをおすすめします。

さまざまな原因で生じるのどの痛み。医療機関を受診して早期に治療するのが有効なのはもちろんですが、セルフケアでできることとして「保湿」があります。のどの粘膜を潤すための水分補給や、適切な湿度管理が大切です。

のどの痛みに効果的な食べ物や飲み物

ハチミツは、のどの炎症や咳を鎮める効果が期待でき、紅茶に溶かして飲むこともおすすめです。紅茶に含まれるカテキンやタンニンは、のどの炎症を和らげ、のどの粘膜を乾燥から守る働きがあるといわれています。熱すぎると、傷んだのどの粘膜を刺激してしまうため、ほどよく温かい紅茶でのどを潤すのがよいでしょう。ただし、ハチミツは乳児ボツリヌス症のリスクがあるため、1歳未満の乳児の摂取は避けてください。

炎症を起こしたのどの粘膜を保護、補修するうえで、唾液の分泌は非常に重要です。出汁などうまみ成分を多く含む物を摂取することがおすすめです。例えば、昆布やキノコなどに豊富に含まれるグルタミン酸やイノシン酸などのうまみ成分は、持続的に唾液腺を刺激します。

のど飴は、飴をなめることで唾液の分泌が促されるため、ある程度の効果は期待できます。ただし、糖分にはのどを刺激する作用があるとの報告もあり、甘すぎるとのどの痛みを逆に強めることもあるので注意が必要です。

のどに炎症が起きているときは粘膜が傷んで知覚過敏の状態になっています。刺激を与えるようなかたい物や辛い物は避け、炭酸飲料も傷んだのどの粘膜をさらに刺激するため控えましょう。

のどの痛みを和らげる生活習慣

のどの痛みを和らげるためには、適切な湿度管理が重要です。のどの乾燥も痛みが起こる原因の一つです。乾燥で炎症を起こしているのどの粘膜を保湿しながら安静に過ごすことが重要です。地域にもよりますが、空気が乾燥する冬場だけでなく、冷房を効かせた夏場の室内も低湿度になりがちです。そのような場合は、加湿器や濡れタオルを使用して室内の湿度を適切に保ちましょう。就寝時に加湿器を使うことで、のどの乾燥を防ぎ、良質な睡眠にもつながります。鼻づまりや咳を伴っている場合には、マスクをするのも有用でしょう。のどや鼻の粘膜を乾燥から守ることで保湿効果が期待できます。

ただし、のどの痛みが長引く場合は、単なる乾燥だけでなく、重篤な病気が原因である可能性も考えられます。特に症状が強く出ている場合は、医療機関を受診し医師に相談することをおすすめします。

のどの痛みに効果的な市販薬

イブプロフェンやアセトアミノフェンは、強いのどの痛みや高熱などの症状を伴う際に市販薬としても多く使われている鎮痛薬です。いずれも薬効が強く、胃に負担がかかりやすいのが特徴です。ただ、のどの痛みのほかに消化器症状がある場合には服用を避けるか、胃を保護する薬も一緒に服用します。薬の飲み合わせについては、自己判断せず薬剤師に相談することをおすすめします。

市販薬でも多く使われているトラネキサム酸は、症状が比較的軽い人や小児で多く使われています。効き目は緩やかですが、のどの痛みや不快感を和らげることが期待できます。

トローチやスプレー式の薬は、のどの痛みを和らげるのに効果的です。トローチは、唾液で薬効成分を少しずつ溶かしながら、のどの粘膜に感染した細菌を殺菌したり、増殖を防いだりする作用があります。薬の使用は用法・用量を守って短期間にとどめ、長期的な使用は避けましょう。痛みが改善されない場合は、医療機関を受診し医師に相談することをおすすめします。

のどの痛みは、その原因にもよりますが、服薬や安静でおおむね3日間程度で徐々に症状が緩和するのが一般的です。ただし、痛みや違和感が長く続く場合には注意が必要です。

のどの痛みに効果的な漢方薬や生薬

症状の出方や時期によって使い分けされますが、のどの痛みに対して効果が期待できる漢方薬もあります。麦門冬湯（ばくもんどうとう）は、唾液が出にくいときや口腔内が乾燥状態のときに服用すると効果が期待されます。半夏厚朴湯（はんげこうぼくとう）は、のどの違和感や粘膜の知覚過敏などを自覚したときに服用すると症状の改善が期待されます。いずれものどの痛みがあるときに有用ですが、急性期にはあまり使われません。

発熱を伴う急なのどの痛みがある場合には、葛根湯（かっこんとう）や麻黄湯（まおうとう）で体を温めて体温を下げつつ、桔梗湯（ききょうとう）や小柴胡湯加桔梗石膏（しょうさいことうかききょうせっこう）などが用いられます。

家庭で手軽に試せる生薬もあります。例えば、先に述べたハチミツも生薬の一種で、のどを潤すのに効果的です。このほか、生姜やシソなどの生薬も有用です。生姜は抗炎症作用、シソには殺菌作用があるといわれています。漢方薬や生薬は体質によって効果も個人差がありますので、漢方医など専門家に相談することをおすすめします。

のどの痛みが長引く場合の受診の目安

服薬や安静でも症状が改善せず3日以上続く場合、もしくは痛みが強まった場合には、専門的な診察ができる耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。長引くのどの痛みは、溶連菌感染症やマイコプラズマ肺炎などの細菌感染症、もしくは喉頭や咽頭のがんの症状であることなども考えられます。自己判断せずに耳鼻咽喉科を早めに受診し、医師の診断を受けることが重要です。

のどの痛みに加えて、39度以上の高熱、呼吸困難、嚥下痛、唾液が飲み込めないといった強い症状が出ている場合は、特に注意が必要です。急性喉頭蓋炎（きゅうせいこうとうがいえん）や、扁桃周囲膿瘍（へんとうしゅういのうよう）などの重篤な感染症が潜んでいる可能性があります。不安を感じたら、迷わず救急外来を受診しましょう。適切な診断と治療を受けることで重症化を防ぎ、早期の回復にもつながります。

【市村恵一（いちむら　けいいち）先生プロフィール】

東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長　自治医科大学名誉教授
1973年、東京大学医学部医学科卒業。同大学医学部附属病院耳鼻咽喉科、浜松医科大学耳鼻咽喉科を経て、1982年より米アトランタ市エモリー大学留学。帰国後、東京都立府中病院耳鼻咽喉科医長、東京大学医学部耳鼻咽喉科講師その後助教授、自治医科大学耳鼻咽喉科学教授、副学長、石橋総合病院院長などを経て、2019年より現職。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医、補聴器適合判定医（厚生労働省）。小児耳鼻咽喉科学会初代理事長。オスラー病鼻出血治療の第一人者。現在は主に補聴診療を担当。