
病気と医療の知って得する豆知識
なんとかしたい口内炎。長引くときは気を付けて
監修/阪井 丘芳先生(大阪大学大学院 歯学研究科 顎口腔機能治療学講座 教授)

疲れがたまったときや栄養不足のときに起こりがちな口内炎。経験がある人は多いのではないでしょうか。口内炎とひと口に言っても種類は多様です。代表的な3つのタイプとそれぞれの対処法、口内炎によく似た注意すべき病気などについて、大阪大学大学院 歯学研究科 顎口腔機能治療学講座 教授の阪井 丘芳先生に伺いました。
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口内炎には大きく3つのタイプがある
口内炎は、頬の内側や唇の裏側といった口の中の粘膜に炎症が起こることで生じる「できもの」の総称です。
口内炎の種類は多岐にわたりますが、一般的に多く見られるものとして、「外傷性口内炎」「アフタ性口内炎」「カンジダ性口内炎」の3つがあります。
■主な口内炎の原因、症状、特徴や対処法
| 口内炎の種類 | 外傷性口内炎 | アフタ性口内炎 | カンジダ性口内炎 |
|---|---|---|---|
| 原因 | 頬の内側を噛む、入れ歯や矯正器具が当たる、熱い飲食物によるやけどなどの物理的刺激で生じやすい | 原因は明確ではないが、ストレス、疲労、免疫低下、栄養不足、アレルギー、ホルモンバランスの乱れなどが複合的に関与していると考えられている | 口の中に常在する真菌(カンジダ菌)が過剰に増殖して起こる。免疫低下や口腔の乾燥、抗菌薬の使用などによって増えやすい |
| 症状 | 赤みや痛み、不快感を伴うことがある | 白く浅い潰瘍(アフタ)。潰瘍の周囲が赤く腫れ、強い痛みが生じることもある | 白い苔状の斑点。はがすと赤く腫れたり出血したりする。口角が赤く腫れる「口角炎」が起こることもある |
| 特徴 | 通常は数日で自然に改善 | 1~2週間で自然治癒 | 再発しやすい |
| 対処法 | 刺激物の除去。口腔内を清潔に保つ | 刺激物を避ける。休養。必要に応じて市販薬や医療機関での治療 | 抗真菌薬を使用。口腔内を清潔に保ち、乾燥を防ぐ |
出典:阪井先生の取材を基に作成
外傷性口内炎の原因と対策
3つの口内炎のうち、日常生活の中で最も起こりやすいのが外傷性口内炎です。特に年齢を重ねるほど、リスクが高くなる傾向があります。というのも、加齢に伴って筋肉量や筋力が低下すると、筋肉の塊である舌の位置も下がります。すると常に舌先に歯が当たるため、舌の粘膜が刺激されて傷がつき、その傷口から侵入した細菌が増殖し、炎症が起こるのです。
また、加齢とともに口の粘膜は少しずつ薄くなっていきます。粘膜は薄いほど物理的な刺激に弱く、傷ができやすくなります。歯の詰め物や入れ歯、歯科矯正器具などが特に刺激になりやすいのは言うまでもありません。歯の治療中などで口の片側だけで食べる習慣がある場合も注意が必要です。舌で食べ物を片側の頬の内側にいったん寄せてから、歯の上に乗せて食べようとするため、どうしても舌や頬の内側を噛んで傷つけやすくなるためです。さらに、熱いコーヒーやスープなどで口の中をやけどしたのが原因で外傷性口内炎を生じることもあります。
外傷性口内炎は回復が早く、通常は数日で自然に改善します。ただし、歯の治療中で何度も外傷性口内炎を繰り返す場合は、噛み合わせや入れ歯の高さが合っていない、歯科矯正器具の針金が当たりやすい角度である、といった可能性があります。外傷性口内炎は大体同じ場所に生じるので、どの辺りに発生しやすいのかをかかりつけの歯科医に相談するとよいでしょう。
アフタ性口内炎の原因と対策
アフタ性口内炎も、外傷性口内炎と同じくらい一般的な口内炎の一つです。仕事が忙しいときや疲れているとき、寝不足のとき、心身ともにストレスがたまっているときなどに、唇や頬の内側にポツッと丸いおできのようなできものが生じた経験がある人は多いのではないでしょうか。それがアフタ性口内炎です。原因ははっきりとは分かっていませんが、ストレスや栄養の偏り、風邪やインフルエンザなどによる免疫の低下、アレルギー、ホルモンバランスの乱れなど、多様な要素が絡み合って起こると考えられています。
アフタ性口内炎は口の中のどこにでも生じる可能性があり、食べ物や歯ブラシなどがアフタ(潰瘍)に触れると強く痛むのが特徴です。熱いものや辛いもの、塩分が多いものを食べたときにしみることもあります。
アフタ性口内炎は自然に治るまでに1~2週間程度要します。強い炎症には、口腔用のステロイド軟膏が有効です。薬局やドラッグストアで販売されている市販薬もありますが、不安な場合は歯科口腔外科や耳鼻咽喉科、内科など口の中を診察できる医師に相談し、処方してもらいましょう。
なお、市販のステロイド軟膏を塗って良くならない場合は別の病気が疑われるので、必ず医療機関を受診することが大切です。
カンジダ性口内炎の原因と対策
口の中には腸内と同じように、善玉菌・悪玉菌・日和見菌という常在菌が生息し、それぞれがバランスを取り合うことで口内の健康が保たれています。カンジダ菌は日和見菌の一つですが、通常は唾液に含まれる抗体(IgA)や抗菌成分によってあまり増えないように抑えられています。ところが加齢に伴い、唾液の分泌量は減少傾向にあります。また、薬の副作用などによっても唾液が減り、口の中が乾く場合があります。すると通常は中性~弱アルカリ性に保たれている口腔内のpH(ペーハー)が酸性に傾き、常在菌のバランスが崩れて日和見菌であるカンジダ菌が増殖しやすくなります。
抗菌薬やステロイド薬の長期間服用、ストレスや栄養不足、疲労、睡眠不足などによる免疫機能の低下も要因の一つです。シェーグレン症候群などの自己免疫疾患が原因になる場合もあります。シェーグレン症候群とは、自分の免疫が涙腺・唾液腺を攻撃してしまう自己免疫の病気で、代表的な症状は「目の乾き(ドライアイ)」と「口の乾き(ドライマウス)」です。また、寒い季節は空気の乾燥によって口の中が乾きやすくなることにも注意が必要です。
カンジダ性口内炎は、口の中を清潔にしたうえで、抗真菌薬を含む塗り薬や内服薬などで治療します。薬は歯科口腔外科や耳鼻咽喉科のほか、皮膚科でも処方してもらえます。ただし、薬の飲み合わせには注意が必要なので、血圧やコレステロールを下げる薬など、いつも服用している薬がある場合は必ず確認しましょう。
口唇ヘルペスはウイルス感染で起こる
唇やその周囲にチクチク・ピリピリするような前兆が起こり、その後、小さな水ぶくれが集まって現れるのが「口唇(こうしん)ヘルペス」です。水ぶくれが破れるとただれやかさぶたになり、痛みや違和感を伴うことも多くありますが、数日~2週間ほどで自然治癒する場合がほとんどです。
口内炎の一種と思う人もいるかもしれませんが、ウイルス感染によって起こる口唇ヘルペスは、先に挙げた3つの口内炎とは異なるものです。口唇ヘルペスの原因となるのは、単純ヘルペスウイルス(HSV-1)です。一度感染するとウイルスは神経に潜伏し、疲労やストレス、発熱、紫外線曝露、免疫低下などをきっかけに再活性化して発症します。まれに口唇ではなく歯茎に生じるヘルペスもあり、口内炎との見分けが難しい場合もあります。正確な診断には血液検査が必要です。
がん化のリスクがある病気に要注意
口内炎とよく似た症状でも、がん化のリスクがある口の粘膜の病気があるので注意しましょう。特に気を付けたいのが、次の3つの病気です。
◆扁平苔癬(へんぺいたいせん)
舌や唇の皮膚や粘膜が硬くなり、炎症を伴う病気で、白い線状や網目状の斑点が特徴です。白と赤が混ざり合ったレース状に見えることもあります。熱い飲食物がしみたり、刺激のある食べ物で痛みが生じたりすることも多くあります。金属アレルギーが関係するといわれ、歯の詰め物やブリッジなどの金属が原因となっている場合はそれらを除去する必要があります。
うがいや歯磨きで口の中を清潔に保つセルフケアが重要です。治療にはアレルギー反応を抑えるステロイド軟膏が用いられます。日常生活に支障がない場合も多く、扁平苔癬を持ったまま一生を過ごす人も少なくありません。しかし、まれにがん化するリスクがあるので、歯科口腔外科や耳鼻咽喉科、内科などを定期的に受診するのがおすすめです。
◆白板症(はくばんしょう)
頬の内側の粘膜や舌などに見られる白い膜のような病変が特徴です。カンジダ性口内炎に似ていますが、こすっても白い部分ははがれず、粘膜が硬くなります。
次のような場合は、がん化のリスクが高いと考えられます。
特に舌にできた場合はリスクが高いので注意しましょう。手術で切除し、その後は長期的な経過観察が必要です。
◆紅板症(こうばんしょう)
口の中の粘膜が赤く見える病変で、紅板症=がん、といっても過言ではないほど、がん化率が高い病気です。
手術で切除し、その後は長期的な経過観察が必要です。
いずれも、口の中に病変があっても、痛みが少ないと「大丈夫だろう」と油断しがちです。しかし痛みがあまりないまま、がん化が進行しているケースは少なくないので、口の中の異変に気が付いたらなるべく早く歯科口腔外科や耳鼻咽喉科を受診しましょう。特に、「白い・赤い・硬い」病変には注意が必要です。また、数週間経っても治らない場合も必ず受診しましょう。
口内炎を防ぐ5つのポイント
口内炎を防ぐ方法として、次の5つを心がけましょう。
1 口の中を清潔に保つ
毎食後の歯磨きや適切なブラッシングで清潔に保つことが基本です。ただし硬い歯ブラシで強く磨くと粘膜を傷つけるので注意しましょう。
2 唾液の分泌を促す
唾液には口の中の粘膜を保護する重要な役割があります。アメやガムなどで唾液の分泌を促したり、うがいをしたりするなどして、口の中の粘膜が常に潤っている状態を保ちましょう。市販されているスプレータイプの口腔ケア製品も、口の乾燥予防に効果的です。
3 生活習慣を整える
睡眠不足や疲労、ストレスは免疫機能の低下を招き、口内炎の発症リスクを高めます。規則正しい生活とバランスの良い食事が基本です。
4 定期的に歯科検診を受ける
片側の歯の状態が悪いと、どうしてもそちらを避けて反対側だけで噛むようになります。そうすると、舌や頬の内側の粘膜を誤って噛んでしまい、外傷性口内炎の原因になります。検診を受け、必要な治療を行いましょう。
5 気になる症状は早めに受診を
口内炎が長引く場合、別の病気が隠れている可能性があります。先にも述べたとおり、次の場合は早めに歯科口腔外科や耳鼻咽喉科を受診しましょう。
口内炎は放置しがちですが、正しい治療を行い、口腔ケアを心がけましょう。
監修者プロフィール
阪井 丘芳先生(大阪大学大学院 歯学研究科 顎口腔機能治療学講座 教授)
【阪井 丘芳(さかい たかよし)先生プロフィール】
大阪大学大学院 歯学研究科 顎口腔機能治療学講座 教授
大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部 部長
口腔外科臨床から唾液腺疾患、顎口腔機能、感染症対策まで幅広く診療・研究を展開し、国際的にも研究を推進。Nature・Scienceをはじめとする主要誌に多くの業績を有する。日本唾液腺学会理事長、日本抗加齢医学会副理事長として医療の発展に寄与。日本口腔外科学会認定 口腔外科専門医・指導医、国際口蓋裂・頭蓋顔面異常学会元理事長、日本政府観光局(JNTO)MICEアンバサダーを務める。












