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病気と医療の知って得する豆知識

種類が多くて迷う⁉私に合う「歯磨剤(歯磨き粉)」の選び方

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監修/相田 潤先生(東京科学大学大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授)

スーパーやドラッグストアの商品棚にずらりと並ぶ歯磨き粉。価格、パッケージ、香りなどでそれぞれの製品は特徴づけられていますが、本当に自分に合っているものを選べているでしょうか。歯磨き粉の役割、目的に合った歯磨き粉選びのポイントについて、東京科学大学大学院医歯学総合研究科歯科公衆衛生学分野教授の相田潤先生に伺いました。

※正式名称は「歯磨剤(しまざい)」ですが、ここでは一般的になじみのある「歯磨き粉」で以下、解説します。

改めて知りたい、歯磨き粉の役割とは?

まず、なぜ歯磨きをするのか。一番の目的は、歯垢(しこう)を除去してむし歯を防ぐことにあります。その際、フッ化物が含まれる歯磨き粉を使うことで、歯を強化して酸に溶けにくくしたり、歯の再石灰化を促進してむし歯菌の活動を抑えたりするなど、特に歯ブラシが届かない細かい隙間にはブラッシングだけでは得られない効果が大きいです。市販されている歯磨き粉には、むし歯予防だけでなく、歯茎の病気予防や、歯の白さを維持するホワイトニングなど、さまざまな効果・特徴があります。

厚生労働省は、医薬部外品の薬用歯磨き類の国内の製造業者に対して「薬用歯みがき類製造販売承認基準」を定めています※1。こちらに載っているのは、大きく分けて7つの歯磨き粉の効能又は効果と、有効成分の種類、規格および分量です。

このうち、歯磨き粉の主な効能又は効果として(1)歯肉炎予防(2)歯周炎予防(3)歯石の形成・沈着を防ぐ(4)むし歯の発生・進行の予防(5)口臭またはその発生予防(6)タバコのやに除去(7)歯がしみるのを防ぐ、といった項目が挙げられ、それぞれの製品の目的に応じた有効成分と配合濃度を定めています。多くの製品には、これらにプラスして、汚れを落とす研磨剤や、泡立ちによって歯磨き粉を口の中に拡散させて汚れを落としやすくする発泡剤、滑らかな使用感にするための湿潤剤や粘結剤のほか、爽快感や香りづけのための香味剤が添加されています。

※1:厚生労働省:薬用歯みがき類製造販売承認基準について別ウィンドウで開きますを2025年11月13日に参照。

むし歯、歯周病、入れ歯、知覚過敏……どんな歯磨き粉を選ぶべき?

むし歯予防には、フッ化物が配合された製品を選ぶとよいでしょう。2023年1月、国内の歯科に関する4つの学会が「う蝕(しょく)予防のためのフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」という見解を発表しました※2。これによって、歯が生え始める乳児から高齢者まで、それぞれの年齢に応じて使用量は異なるものの、フッ化物配合の歯磨き粉を積極的に使用することが推奨されました。具体的な使用量と使用方法は次のとおりです。こちらを参考にして、パッケージに配合量がしっかり明記されているものを選びましょう。

<歯が生えてから2歳まで>

歯磨き粉の使用量:約2cmの歯ブラシに対し米粒(1~2mm)程度
フッ化物濃度:900~1000ppmF
使用方法:

  • フッ化物配合の歯磨き粉を利用した歯磨きを、就寝前を含め1日2回行う。
  • 900~1000ppmFの歯磨き粉をごく少量使用する。歯磨きの後にティッシュなどで歯磨き粉を軽く拭き取ってもよい。
  • 歯磨き粉は子どもの手が届かない所に保管する。
  • 歯磨きについて歯科医師等の指導を受ける。

<3~5歳>

歯磨き粉の使用量:約2cmの歯ブラシに対しグリーンピース(5mm)程度
フッ化物濃度:900~1000ppmF
使用方法:

  • フッ化物配合の歯磨き粉を利用した歯磨きを、就寝前を含め1日2回行う。
  • 歯磨きの後は、歯磨き粉を軽くはき出す。うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。
  • 子どもが歯ブラシに適切な量の歯磨き粉をつけられない場合は、保護者がつける。

<6歳~成人(高齢者を含む)>

歯磨き粉の使用量:約2cmの歯ブラシ全体(1.5~2cm程度)
フッ化物濃度:1400~1500ppmF
使用方法:

  • フッ化物配合の歯磨き粉を利用した歯磨きを、就寝前を含め1日2回行う。
  • 歯磨きの後は、歯磨き粉を軽くはき出す。うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。
  • チタン製歯科材料(インプラントなど)が使用されていても、自分の歯がある場合はフッ化物配合の歯磨き粉を使用する。

歯周病で歯茎が下がってくると、本来は歯茎に埋まっているはずの歯根が露出してきます。この部分は、根面う蝕(むし歯)が特に進みやすいので、フッ化物濃度の高い(1400~1500ppmF)製品を選ぶとよいでしょう。

歯の黄ばみや色素沈着が気になる人は、研磨剤が多く配合されたホワイトニング専用の歯磨き粉が市販されていますので、パッケージを参考に選びましょう。

歯根の露出や、歯の表面のエナメル質がすり減ってその下にある象牙質という部分がむき出しになることで知覚過敏が生じる人もいます。そうした場合には、研磨剤の成分によって症状が悪化することもあるので、「研磨剤無配合」などと明記された製品や、ジェル状の製品をおすすめします。

入れ歯については、プラスチックの部分が研磨剤によって傷つく可能性があり、傷ついた部分に細菌が入り込んで汚れが取れにくくなり、口臭の原因にもなります。入れ歯のケアを行う際には、ブラッシングの強さも加減して、研磨剤無配合の歯磨き粉、もしくは入れ歯専用の手入れ用品を使う方がよいでしょう。

インプラントの歯は、自分の歯(天然歯)と同様の手入れ方法で構いません。先に述べたように、フッ化物配合の歯磨き粉が推奨されている一方で、フッ素によるインプラントの腐食リスクを懸念する声もあります。これについては、国内外の研究で、現在市場に流通する歯磨き粉に含まれるフッ化物濃度における腐食リスクは低く、フッ化物によるインプラント周辺のむし歯菌の活動抑制効果など、メリットの大きさを示すエビデンスが数多く示されています※3

このほか、歯磨きの際に痛んだりしみたりする口内炎がある時は、研磨剤や清涼感のある香味剤によって症状を強く感じることもあります。ある程度症状が落ち着くまでの数日間は、歯磨き粉を使わず、水だけのブラッシングでも構いません。その際は患部に気をつけながら、より丁寧にブラッシングするよう心がけましょう。

※2:日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会「う蝕予防のためのフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法(2023 年版)別ウィンドウで開きます」を2025年10月29日に参照。

※3:日本口腔衛生学会「フッ化物配合歯磨剤の利用はチタン製歯科材料使用者にも推奨すべきである別ウィンドウで開きます」を2025年10月29日に参照。

効果アップにつながる歯磨きの方法とは?

歯磨き粉は、年齢に応じた濃度のフッ化物が配合され、さらにご自分の目的に合う有効成分を含む製品を、市販されている中から好みで選びましょう。

磨き方は、基本的に時間をかけることに勝る方法はないと考えます。どんなに上手に磨いても、30秒では全体をきれいに磨き終えるには不十分です。テレビやスマホ画面を眺めながらでも構わないので、5分程度(できれば10分程度)の時間をかけて、弱い力で、小刻みなブラッシングで丁寧に磨くのが理想です。最近の論文では、手磨きよりも電動歯ブラシの方がより効果的であるという研究結果が報告※4され、エビデンスが蓄積されています。電動歯ブラシの場合、推奨される使用時間が2分程度とされているものが多く、忙しい人たちには特におすすめです。

磨き終わった後は、少量の水(5mml程度)でうがいすることで、フッ化物をできるだけ口の中に留めるようにします。何度も口をゆすぐ人が多いですが、フッ化物を洗い流してしまっては効果が低減します。洗い流さないと気持ち悪いという人は、まずは歯磨き粉を使わない「空(から)磨き」をした後、歯磨き粉を使ってしっかり磨く(ダブルブラッシング)というのも一手です。

海外と比べて日本人の使用が依然少ないのが、歯間ブラシやデンタルフロスといった歯間清掃具です。歯間(特に奥歯)にたまった歯垢は、歯ブラシだけでは十分に取り除けません。歯垢が残ったままの状態が続くと、やがて歯石となって歯の表面に強固に付着し、歯周病やむし歯の温床にもなります。こまめな歯間のケアも健康な歯を長く維持するための重要なポイントです。ただし、歯間ブラシは歯間が詰まっている人は逆に歯茎を傷つけてしまう恐れがあるので注意が必要です。ご自分の歯の状態に合った製品で無理のないケアを心がけましょう。

専用の道具を使わずに歯間清掃する方法として「つまようじ法」があります※5。歯ブラシの毛先を、つまようじのように歯と歯の間に出し入れすることにより、歯垢の除去と歯間部の歯肉マッサージを行うブラッシング法です。こうした特別な道具を使わない工夫も取り入れてみてはいかがでしょうか。

忙しい日々の中で、誰もが1日2~3度は歯磨きをしていることでしょう。この機会にぜひ、歯磨き粉がご自身の目的に合っているか、改めてパッケージを確かめてみましょう。磨き方も大事です。これまでより少しだけ長めの時間をかけて磨くことを意識して、一生付き合っていける健康な歯を目指しましょう。

※4:Ikawa T, et al. Clinical comparison of an electric-powered ionic toothbrush and a manual toothbrush in plaque reduction: A randomized clinical trial. Int J Dent Hyg. 2021 Feb;19(1):93-98.

※5:岡山大学歯学部予防歯科学講座「つまようじ法とは別ウィンドウで開きます」を2025年10月29日に参照。

監修者プロフィール
相田 潤先生(東京科学大学大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授)

【相田潤先生(あいだ じゅん)先生プロフィール】

東京科学大学大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授
2003年、北海道大学歯学部卒業。2007年、同大学大学院歯学研究科博士課程修了。ユニバーシティカレッジロンドン客員研究員、東北大学大学院歯学研究科准教授などを経て、2020年より現職。口腔の健康格差の研究、口腔の健康と全身の健康の研究などに従事。日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会委員長などを務める。

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