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原因不明の乾きや痛み、だるさに悩んでいませんか?今こそ知っておきたい「シェーグレン症候群」

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監修/大島 美穂先生(三井記念病院 膠原病リウマチ内科 科長)

全身の免疫システムが異常を起こし、自分自身の細胞を攻撃してしまう「自己免疫疾患」。その一つであり、ドライアイやドライマウスなどが主な症状として知られるのが「シェーグレン症候群」です。仕事や家事に支障をきたすほどの強い“だるさ”といった、日常で起こりえる症状が当てはまります。早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。シェーグレン症候群とはどのような病気なのか、三井記念病院 膠原病リウマチ内科 科長の大島美穂先生に伺いました。

乾き・痛み・だるさがシェーグレン症候群の3大症状

乾き・痛み・だるさがシェーグレン症候群の3大症状

シェーグレン症候群は指定難病に認定されている自己免疫による疾患です。眼や口の中が乾く、関節や筋肉、首、わき、鼠径(そけい)部などが痛む、体がだるくてたまらない……。こうした症状はさまざまな要因によって起こるものですが、もし「乾き」「痛み」「だるさ」の3大症状が生じ、数カ月にわたって続いている場合にはシェーグレン症候群の可能性があります。

また、3大症状全てが揃わないケースも多く、さらには一番有名な乾き症状の自覚がない方もいます。微熱、光線過敏、レイノー症状(寒さによる刺激で手足の指が白、青紫、赤に変色)、体重減少、寝汗なども多彩な症状の一つです。乾きの要因で一番多いのは精神的ストレスや緊張、睡眠薬を含む精神科系薬剤、抗アレルギー剤などの薬剤といわれており、これらの関与が考えにくいとき、あるいは3大症状や他の症状が複数あると可能性が高まります。

シェーグレン症候群で起こりやすい3大症状の特徴をみてみましょう。

【乾き】

  • 眼が乾く「ドライアイ」
    涙の分泌量が減少することで、眼が乾いてショボショボする、白目が赤くなり痛みを感じる、まぶしさを感じる、などの症状が現れます。また、眼が乾燥することで角膜が傷つき、眼に刺激やヒリヒリした感覚が生じることもあります。
  • 口の中が乾く「ドライマウス」
    唾液の分泌量が低下することで、口の中が乾燥した状態になります。乾燥が強くなると、パンやクッキーなどの乾いたものが食べにくくなったり、虫歯や歯周病が増えたり、声が枯れて話しづらくなることがあります。
  • その他の部位の乾き
    シェーグレン症候群では、皮膚や鼻の粘膜、腟の表面を覆っている粘膜などが乾燥する場合もあります。

【痛み】

関節が炎症を起こし、痛みを生じる「関節痛」がシェーグレン症候群の代表的な症状の一つです。腱などが骨にくっつく付着部と呼ばれる場所や、筋肉が痛む場合もあります。また、リンパ節が腫れることでリンパ節の多い首やわき、鼠径部が痛んだり、唾液を分泌する耳の前や下にある耳下腺(じかせん)や、あごの下にある顎下腺(がくかせん)が腫れて痛んだりする場合もあります。

【だるさ】

かなり強いだるさが生じるのが、シェーグレン症候群の特徴です。働き世代の場合は、仕事や家事などの日常の活動ができないくらいのだるさが出ることがあります。

上記のうち、ドライアイやドライマウスは、健康な人でも疲れているときや暑いとき、運動後、空調の効いた環境などによって生じることが少なくありません。

特にドライマウスは糖尿病や口の中の病気、抗アレルギー薬や降圧剤、利尿薬などの服薬、ストレスや緊張、口呼吸などが要因となっている場合もあります。これらの要因に当てはまらない場合は、シェーグレン症候群の可能性があります。

また、関節痛が生じる代表的な病気には「関節リウマチ」などもあり、その合併症としてシェーグレン症候群を発症する場合もあります。医療機関できちんと診断を受けることが大切です。

「だるさ」は、他のさまざまな病気と比較しても、シェーグレン症候群の場合は特に強い症状が現れやすいです。しかし、だるさの強さは客観的に把握しにくいこともあり、内科や総合診療科などを受診しても原因が分からず、つらいだるさを抱えたままになってしまうケースも少なくありません。

気になる症状がある場合は、「膠原病(こうげんびょう)」や「リウマチ」を掲げる内科を受診しましょう。

つらい症状に加えて、合併症のリスクも

つらい症状に加えて、合併症のリスクも

シェーグレン症候群は、涙や唾液を作り出す臓器を中心に炎症を起こす「膠原病」の一つです。

膠原病とは、細菌やウイルスなどの外敵に対抗する体の「免疫」の働きの一部が過剰に活発化することで自分自身の正常な組織を攻撃し、体の複数の臓器に影響を及ぼす可能性のある病気の総称です。「自己免疫疾患」ともいわれます。

子供から高齢者まで幅広い年代に発症しますが、症状を自覚する年代は40代※1、医療機関を受診して「シェーグレン症候群」と診断される年代は50代が多く、男性より女性のほうが発症しやすい※2ことが分かっています。

※1:年代について、日本シェーグレン白書2020年版 26ページ(編集:日本シェーグレン症候群患者の会 発行:NPO法人シェーグレンの会) 
※2:性別については、シェーグレン症候群(指定難病53) – 難病情報センター (nanbyou.or.jp)を2023年1月11日に参照

先に挙げた乾き、痛み、だるさといった症状のほか、全身の臓器にさまざまな合併症を伴う場合があります。主な合併症として下記の病気や症状が挙げられます。

【全身】
微熱、寝汗、体重が減る、光線過敏(日光に反応して、だるさや熱、発疹が出ること)、レイノー現象。

【皮膚】
環状紅斑と呼ばれる、赤い発疹の縁取りがはっきりした状態が特徴。

【胃】萎縮性胃炎
慢性的な炎症によって、胃の粘膜が縮み、弱くなった状態。主な症状は食欲不振や胃もたれなど。

【食道】逆流性食道炎
胃酸など胃の内容物が食道に逆流し、炎症を起こす病気。胸焼けや胸の痛みなどの症状が代表的。

【腎臓】尿細管性アシドーシス
腎臓の尿細管の機能障害によって、血液の酸性度が高くなる病気。多尿や頻尿、多飲などの症状のほか、進行すると筋力の低下、腎結石がみられることがある。

【肺】間質性肺炎
二酸化炭素と酸素の交換を行う「肺胞(はいほう)」の壁に炎症や損傷が起こり、壁が線維化して硬く厚くなり、酸素を取り込みにくくなる病気。安静にしているときには症状は出にくいが、歩行や階段の昇降時など体を動かしているときに息切れしやすい。

シェーグレン症候群の診断には、厚生労働省による診断基準※3が用いられ、血液検査、唾液量、ドライアイの検査を行い、その後必要に応じて口唇生検や唾液腺シンチが用いられます。さらに詳しく唾液腺の状態を把握するために唾液腺エコーやMRIを用いている施設もあります。

※3:厚生労働省053 シェーグレン症候群 (mhlw.go.jp)を2023年1月11日に参照

治療法と日常生活の注意点を知っておこう

治療法と日常生活の注意点を知っておこう

シェーグレン症候群の治療は、症状が起きている臓器それぞれに対応する形で行われます。口の乾きは唾液の分泌を促す薬やその人の症状に合った漢方薬などのほか、適切な口腔ケアによって改善する可能性があります。

眼の乾きには点眼薬が有効で、近年目の状態に応じた点眼薬が複数登場しており、眼科では個々の患者さんの目の状態に応じた処方が行われます。症状が強い場合には涙点プラグという涙が流れる経路を塞ぐ治療を行うことにより、改善する方もいます。

病状には個人差がありますが、治療を続けることで乾きや痛み、だるさなどが軽減し、生活や仕事がより円滑にできるようになることが期待できます。

日常生活では次のようなことを心がけましょう。

●眼が乾く場合

暖房や冷房などの空調が眼の乾きを悪化させる要因になる場合があります。空調が眼を直撃しないよう気をつけましょう。眼が乾くときには、前述の通り近年眼科では患者さんの目の状態に応じた点眼薬を処方しているので、受診をおすすめします。

●口が乾く場合

水分をこまめにとり、口の中を潤すことが大切です。ただし水を飲み過ぎると、めまいや頭痛、多尿、下痢などを引き起こす「水中毒」のリスクが高まるので注意しましょう。また、唾液の分泌を促しやすいガムなども効果的ですが、ドライマウスはむし歯や歯周炎などにもなりやすい状態なので、シュガーレスのものを選びましょう。口の中を潤す飲み薬・うがい薬や外用剤、唾液腺マッサージが効く方もいます。そのほかにも、カフェインや刺激のある食べ物、飲み物は避けた方が口の中の環境には良いといわれています。定期的な歯科受診も大切です。

●強いだるさが続く場合

だるさを我慢して頑張っても、結果的に家事などの日常生活や仕事に影響が出てしまうことがあります。家事の場合は家族に相談して手伝ってもらったり、仕事の場合は上司や周りに相談したりして、自分が無理なくできるレベルに負荷を軽減していきましょう。可能であれば産業医が在籍している会社では産業医に相談すると、よりスムーズに運びやすくなるはずです。

原因が分からずさまざまな病院を受診する人が多いようです。現状では予防法がないことからも、少しでも症状が気になる人は、悩む前にリウマチ内科や膠原病内科を受診しましょう。治療により、その後のクオリティ・オブ・ライフの向上につながります。

監修者プロフィール
大島 美穂先生(三井記念病院 膠原病リウマチ内科 科長)

【大島美穂(おおしま みほ)先生】

三井記念病院 膠原病リウマチ内科 科長
1999年、名古屋市立大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院、東京厚生年金病院、都立駒込病院、国立相模原病院、虎ノ門病院分院などを経て、2008年、東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程卒業、博士号取得。東京都保健医療公社多摩北部医療センター リウマチ膠原病科医長などを経て、2019年三井記念病院膠原病リウマチ内科医長、2022年より現職。

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