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病気と医療の知って得する豆知識

「大人の発達障害かも?」と思ったら

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監修/太田 晴久先生(昭和大学発達障害医療研究所 准教授)

「大人の発達障害」が知られるようになってきました。仕事でミスが続いてしまう、人間関係がうまくいかないなど、漠然と「もしかして私も?」と不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。また、自分が発達障害であることを公表している著名人もいらっしゃいます。そもそも発達障害とはどのような状態なのでしょうか。自分が発達障害かもしれないと思ったら、どうすればよいのでしょうか。昭和大学発達障害医療研究所(昭和大学附属烏山病院内)准教授の太田晴久先生にお聞きしました。

大人になってから発達障害が顕在化することも

発達障害は、先天的な脳の機能発達の偏りによって、コミュニケーションや対人関係など、日常生活に困難が生じる状態です。生まれ持った脳の特性によるものなので、親の育て方の問題で発症するわけではありません。以前は、知的障害を伴い、幼少期に診断されるものと考えられていましたが、現在は知的障害を伴わない場合も多いことが分かっています。そうした場合には、例えばコミュニケーションが苦手であっても勉強ができるなど、なんとか環境に適応することができて、子どものうちには発達障害が顕在化しないことが多くあります。しかし大人になって、より高度で複雑なコミュニケーションが要求されるようになると困難を抱える場面が出てきて、そこで初めて発達障害と診断されるのです。

診断名としての発達障害は以下のように大きく3種類に分類されますが、複数の種類を併せ持つ人もいます。そもそも「発達障害であるか、そうでないか」とはっきり線引きできるものではありません。誰でも大なり小なり特性を持っているものであり、それによる困難がある程度積み重なると「発達障害」と診断されます。

なお、大人の発達障害で特に注目されるのは自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)で、今回は主にこの2つを取り上げます。

大人の発達障害の特徴

大人の場合、診断されるまでの長期にわたって、周囲の環境にうまく適応できず、失敗を重ねて過ごしてきていることが多いため、自己評価が下がり、二次的にうつや不安障害などの精神疾患を発症するリスクも高いと考えられます。そうなる前に早めに対処していくことが望ましいでしょう。

発達障害の特徴の表れ方には男女差があります。ASDの場合、男性は分かりやすいことが多いですが、女性の場合は対人関係の問題が表に出にくく、ASDがあっても気づかれにくいことがあります。とはいえ、本人が苦痛を抱えていないわけではなく、女性のASDでは男性よりも多くの精神疾患を伴う可能性が指摘されています。

ADHDの場合、男性は多動・衝動症状が優勢になることが多いですが、その場合は幼少期からその特徴が表れて早い段階で診断されることが多くなっています。大人になって初めてADHDと診断される人は、男女とも不注意の症状が目立つ傾向にあります。大人の場合、不注意によって仕事に影響が出てしまうことが多く、それで初めて発達障害に気づくのです。

実際には、ADHDの診断がつく人でも、ASDの特性を併せ持って両方の診断基準を満たす場合もあるなど、症状も困りごとも一人ひとり異なります。大事なのは診断名のレッテルを貼って型にはめてしまうことではなく、診断によって抱えている悩みの理由を知り、困りごとに対処して生きづらさを減らすことです。

一人で悩みを抱えず、まずは医療機関に相談を

「もしかして発達障害かも?」と疑ったときは、精神科か心療内科が相談先になります。ただし、「大人の発達障害」の概念が認識されるようになったのはここ10〜20年で、大人の発達障害を診療対象としていない医療機関もあります。事前にホームページや電話などで、大人の発達障害を診療しているかどうか確認してから受診することをおすすめします。

医療機関によって診療の流れは異なりますが、昭和大学附属烏山病院の場合、まずは症状や困りごとなどの話を詳しく聞きます。幼少期のことを詳しく知るために、可能であれば親御さんの話を聞いたり、学校の通知表などを持参してもらったりして、診断の精度を高めます。必要に応じて心理検査などを行うこともあります。そのうえで、診断ガイドラインの基準に照らし合わせて、発達障害かどうか総合的に判断します。

そして、適切な診断に基づいて、自分の得意なことや苦手なことなどの特徴を認識し、苦手なことをカバーする工夫や得意なことを生かせる環境を検討していきます。ADHDの場合は、あくまで対症療法ではありますが、不注意・多動・衝動の症状に有効な薬がありますので、症状を和らげるために薬を使用するかどうかも検討します。

一方、ASDの場合は、うつや不安障害などの二次的な疾患がある場合には薬を使うことがありますが、ASDの特性に対処する薬はありません。個々の患者さんに合わせたサポートの一つの選択肢として、デイケアでの集団プログラムを提供している医療機関もあります。

これは、グループワークなどを通してASDやコミュニケーションについて学び、状態の改善を図るものです。「悩んでいるのは自分だけではないと分かってよかった」と話す参加者が多く、同じ立場の人と共感し合えることが良い成果につながっているようです。デイケアプログラムを実施している医療機関はまだ限られていますが、成人発達障害支援学会のホームページから調べられます。

生きづらさを減らすためにできること

生まれ持った特性を努力で変えることは難しいため、自分が苦手なことを認識したうえで、どうカバーしていくかを考えるのが得策です。例えば、自分では気をつけているつもりでも不注意で忘れてしまうことが多いなら、「忘れないように頑張る」よりも、忘れる前提でメモやTODOリストを残す、約束の時間に遅れてしまうならスマートフォンのアラーム機能を使うなど、工夫できることを探してみましょう。また、コミュニケーションが苦手という特性から、人に頼る・相談するという発想をなかなか持てず、困っても一人で解決しようと抱えこんでしまう人が多いようです。誰かに聞く、相談する、助けを求めるという発想を持てると、より生活しやすくなります。

また、大人になって発達障害と診断される人は、自己評価が低い人も多いため、小さな成功体験を積み重ねることが大切です。大きな目標を掲げても失敗につながりやすいため、目標に至るまでのプロセスを細分化し、小さな達成感を得るたびにご褒美などで成功を確認するという体験を繰り返すことで自尊心を高めていきましょう。職場の上司など周囲の人もできるだけサポートすることが大切です。

発達障害の特性は、周囲から本人の努力不足やわがままという性格的な要因と捉えられやすい面があります。努力できる部分と特性の部分を見極めて対処するためにも、周囲の人にも発達障害の特性を正しく理解してもらうことが重要です。例えば、高いコミュニケーション能力や柔軟性が求められる仕事は苦手でも、一人でコツコツと取り組むような仕事は得意など、特性に合わせて業務や環境を調整することでうまくいくこともたくさんあります。

本人の工夫

  • 得意なことを生かせる環境を選ぶ
  • 苦手なことをカバーする工夫を考える
  • 困ったら誰かに相談する
  • プロセスを細分化して小さな成功体験を積み重ねる

周囲の対応

  • 発達障害の特性を正しく理解する
  • 得意なことを生かし、苦手をカバーできるよう、環境を調整する

発達障害と診断されたからといって、その人の人間的な価値が低くなるわけではありません。あくまでも困りごとを解決し、少しでも生きやすくするための手段として、診断が役に立つということです。また、発達障害を疑っていても、うつや不安障害など発達障害以外の要因で困りごとが発生しているケースもありますので、心配なときは受診を考えてみてはいかがでしょうか。

監修者プロフィール
太田晴久先生(昭和大学発達障害医療研究所 准教授)

【太田晴久(おおた はるひさ)先生プロフィール】

昭和大学発達障害医療研究所 准教授
医学博士。2002年昭和大学医学部卒業。昭和大学精神医学教室に入局し、精神科医師として勤務。2009年より昭和大学附属烏山病院にて成人の発達障害専門外来を担当している。自閉症の専門施設であるUS Davis MIND Instituteへの留学を経て現職。特に思春期以降の成人を中心とする発達障害の診療や研究に取り組んでいる。監修書に『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』(西東社)、『職場の発達障害 自閉スペクトラム症編』『職場の発達障害 ADHD編』(ともに講談社)がある。

サワイ健康推進課公式Twitter

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