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神経発達症(発達障害)って何?種類、特徴、療育の基礎知識を学ぼう

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監修/岡田 俊先生(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部部長)

生まれ持った脳の特性によって日常生活に困難が生じる神経発達症(発達障害)。自分の子どもがそうではないかと心配になっている親御さんもいることでしょう。神経発達症(発達障害)の種類や特徴などの基本的な知識やサポートの方法、相談先や支援機関などについて、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部部長の岡田俊先生に伺いました。

神経発達症(発達障害)とは?

神経発達症(発達障害)とは、生まれつきの脳の働きに偏りがあることで、物事の捉え方や行動パターンなどに違いが生じ、日常生活に困難が生じている状態のことです。

神経発達症(発達障害)にはさまざまな種類があります。また、同じ種類の神経発達症(発達障害)を持っていたとしても、特徴の表れ方は多様で、人によって異なります。神経発達症(発達障害)の子どもがいる場合は、その子の特徴を知り、それを踏まえた工夫や支援を行うことが大切です。

神経発達症(発達障害)の種類

神経発達症(発達障害)には、以下のような種類があります。複数の種類の神経発達症(発達障害)を併せ持つケースや、精神疾患を伴うこともあります。

注意欠如・多動症(ADHD)

学校、家庭、職場などの複数の場面で、年齢から期待される水準よりも、多動性・衝動性(落ち着きがない、順番を待つことが難しいなど)や不注意(注意力が散漫、ミスが多いなど)といった特性が顕著に見られる状態です。

自閉スペクトラム症(ASD)

相手の気持ちを読み取れない、自分の気持ちをうまく表現することが難しいなど、対人関係やコミュニケーションに支障が生じるほか、こだわりの強さや、特定の物事に対する強い興味、感覚の過敏さなどが特徴です。なお、ASDには、自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などが含まれますが、近年はまとめて「自閉スペクトラム症(ASD)」と呼ぶようになっています。

限局性学習症(学習障害)

全般的な知能には問題がないものの、読む、書く、計算するといった特定の学習行為のみが、他の知的能力に比べて明らかに困難な状態です。

この記事では主に上記の3種類について扱いますが、以下も神経発達症(発達障害)に含まれます。

  • 知的能力障害(知的機能の水準が平均より低く、そのために日常生活において困難が生じる)
  • 協調運動症(両手や手足など、複数の身体部位を同時に動かす「協調運動」に困難があり、日常生活に支障がある)
  • チック症(意に反して身体が突発的に動いてしまう。意思に反する発声や動きを伴う多様なチックが1年以上持続し、日常生活に支障をきたす場合は「トゥレット症」と呼ぶ)
  • 吃音(音を繰り返す、なかなか話し出せないなど、なめらかに話すことが難しい)

神経発達症(発達障害)の子どもの特徴

神経発達症(発達障害)の子どもには、それぞれ以下のような特徴があります。

注意欠如・多動症(ADHD)

ADHDの特徴として、「多動性・衝動性」と「不注意」が見られます。具体的には以下のような特徴があります。

<多動性・衝動性>

  • 落ち着きがない
  • 手足をもじもじと動かす
  • 教室で席を立つことが多い
  • 静かに遊ぶことが難しい
  • おしゃべりが多い
  • 順番を待つのが苦手
  • 他人の会話やゲームなどに割り込む

<不注意>

  • 学校の勉強でミスが目立つ
  • 遊びや勉強などに集中し続けることが難しい
  • やるべき作業を最後までやり遂げることができない
  • 作業の段取りをつけることが苦手
  • 話しかけられても聞いていないように見える
  • 整理整頓が苦手
  • 集中力が必要な作業を避ける
  • 気が散りやすい
  • 忘れ物やなくし物が多い

不安や気分の落ち込み、気分の波などの精神的な不調を伴うこともあります。

こうした特徴は、学校生活で規律が求められるようになることで目立ちやすくなるため、ADHDと診断されるのは小学校に上がってからのほうが多くなる傾向があります。小さいうちは発達のばらつきが大きく、「年齢不相応に多動や不注意がある」のか判断しにくい面もありますが、幼稚園や保育園の先生が普段の様子を見て、発達面で「気になる」と感じたりします。

自閉スペクトラム症(ASD)

言葉の発達が遅い、目と目が合いにくい、一人遊びが多い、集団の輪にうまく入っていけない、といったことで受診するケースが出てきます。その他、以下のような特徴が見られることがあります。

  • 周りの注意を引くための「指さし」をしない
  • 相手がほほえんでも、ほほえみかえさない
  • 親の後追いをしない
  • 他の子どもに興味を示さない

成長し、さらにこまやかな対人スキルや非言語コミュニケーションが求められるようになったときにうまくいかないことで、ASDに気づくこともあります。

また、以下のように、特定の物事に対するこだわりが強いことも特徴です。

  • 自分の興味のあることばかりを一方的に話す
  • 自分の興味のあることには、毎日何時間でも熱中する
  • 初めてのことや、決まっていたことを変更されることが苦手
  • 新たな環境になじむことが苦手

限局性学習症(学習障害)

他の知的能力からは想像できないほど、読む、書く、計算するといった特定の領域だけが難しいのが特徴です。限局性学習症に気づくのは、通常、こうした能力が要求される年齢になってからです。

読み書きや計算は、「繰り返し努力すればできる」「できないのは努力が足りず怠けているから」と思われがちです。しかし、限局性学習症の子どもは怠けているわけではなく、脳の特性によってこうしたことが難しいのです。本人にとってどうしても難しいことをしなければならないということは、人一倍エネルギーを使うものです。何度も練習することでいくつか文字が書けたとしても、途中から雑になって読めないような文字を書く子、音読などで耳から何度か聞くうちに耳から理解して読めているように思えても、実際には文章が読めていない子もいます。

注意したい点は、「うちの子は落ち着きがないからADHDに違いない」といったように、行動の特徴だけで決めつけないということです。「落ち着きがない」という理由で受診しても、詳しくひもといていくと、実際には「感覚が過敏で、他の子が気になって席を立ってしまう」「先生の話が頭に入ってこなくて落ち着かない」というように、ASDの特性による場合もあります。また、「文章が読めないので集中できない」というように、限局性学習症が隠れているケースもあります。どのような特性を持っているかだけではなく、その特性の背景には何があるのか、注意深く観察する必要があります。

神経発達症(発達障害)は、大人になってから顕在化することもあります。子どもの頃は特性があまり目立たず見過ごされていても、大人になってから仕事でのミスが続いたり、人間関係に困難を抱えたりすることで、神経発達症(発達障害)に気づくことがあります。

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神経発達症(発達障害)の子どもに対するサポート

神経発達症(発達障害)の特徴の表れ方は人それぞれですので、一人ひとりの特性に合わせた支援を工夫する必要があります。学校などでの理解や配慮も大切です。一般的には、以下のようなサポートが考えられます。

注意欠如・多動症(ADHD)

落ち着きがなく集中できない子でも、勉強などやるべきことに集中できるように、集中しやすい環境を整えるようにしましょう。例えば、好きなおもちゃを片づけてテレビを消し、気が散らないようにします。また、集中しなければならない時間を短めにすること、休憩のタイミングを事前に決めておくこと、一度にやるべき作業量を少なめに設定することも役立ちます。やるべきことのリストを作ったり、何をすればいいのか分かりやすい言葉で伝えたりすることも大切です。うまく集中できない場合も、それを否定するような言葉を使って感情的に反応するのではなく、良い行動を褒めることで、必要な行動を促すように工夫してみましょう。

環境を整えるなどさまざまな工夫を行っても日常生活に支障がある場合は、薬を使った治療を行うことがあります。ADHDを根治する薬はなく、症状を緩和することが目的となります。

自閉スペクトラム症(ASD)

療育(※後述)によって、日常生活や対人コミュニケーションで必要なスキルを伸ばし、社会性を身につけていくことが期待できます。また、ASDの子どもは、先の見通しが立たないことに不安を感じやすい傾向があります。視覚的な手がかりを使うなどの方法によって、何をどうすればいいのか分かりやすく伝えることで、安心して過ごせるようになるでしょう。

ASDの場合もADHDと同様、根治する薬はありませんが、症状を緩和するために薬を使うことがあります。

限局性学習症(学習障害)

文字を読むことに困難がある場合は、大きな文字で書かれた文章を指でなぞりながら読む、文章を分かち書きにする(単語の間にスペースを入れる)、文節に分ける、音声教材(電子教科書)を利用するといった工夫が役立ちます。文字を書くことが困難な場合は、大きなマス目のノートを使ったり、タブレットなどのICT機器を活用したりすることが考えられます。計算が困難な場合は、絵を使って視覚化する方法があります。

神経発達症(発達障害)の療育とは

療育とは、個別または少人数でのプログラムなどを通して子どもの行動に働きかけることで、対人スキルなど日常生活の中で必要な能力を養うためのものです。ドイツ語の「治療教育」という言葉が基になった用語ですが、最近は「発達支援」という言葉に含まれるようになってきています。多くの場合、療育を受けられるのは小学校入学までで、その先は放課後等デイサービスなどの活用を検討します。

療育は、基本的には公的機関で実施されていますが、民間サービスとして提供される療育もあります。療育を受けられる場所は、子ども発達支援センターなどで紹介してもらうことができます。

また、療育は子どもの支援だけでなく、神経発達症(発達障害)の子どもを持つ親同士の交流や支え合いにも役立ちます。最初のうちは、自分の子どもが神経発達症(発達障害)であることを受け入れることが難しい方もいます。療育は、親が子どもの特性を受け入れていくステップを支援する場としても機能します。

神経発達症(発達障害)に関する相談先や支援機関

子どもが神経発達症(発達障害)かもしれないと思った場合、かかりつけの小児科があれば、まずはそこに相談することができます。必要に応じて、神経発達症(発達障害)を専門とする小児科や児童精神科を紹介してもらうとよいでしょう。専門の医療機関では、単に診断基準をチェックして診断するわけではありません。子どもが診察室に入ってきたときの様子や、診察室にあるおもちゃで遊ぶ様子、付き添いの親とのコミュニケーションの取り方など、行動を観察したり、親から話を聞いたりして、どういった特性がありそうか情報を得たうえで、診断や評価を行います。幼稚園や保育園、学校の先生に言われたことや、通知表や連絡帳に書かれたことなどの情報があると、診断時の参考になります。

医療機関以外では、地域の子ども発達支援センター、保健センター、教育センター、発達障害者支援センターなどでも、神経発達症(発達障害)について相談することが可能です。

※発達障害者支援センター・一覧:http://www.rehab.go.jp/ddis/action/center/

特別支援学級で学んだり、障害者手帳を取得したりするには、医療機関での診断が必要になります。しかし、診断がなければ一切の支援が受けられないというわけではありません。医療機関や支援機関に相談することで、子どもの特性に合わせてどのような支援ができるのか、専門家が伴走しながら一緒に考えることができます。また、神経発達症(発達障害)は子ども本人の「生きにくさ」だけでなく、親にとっての「育てにくさ」の問題でもあります。早めに相談することで、子ども本人だけではなく、家族のサポートも同時に行うことができます。

神経発達症(発達障害)を生じるような脳の特性は、生まれつきのもので大人になっても大きくは変わりません。しかし、早いうちから適切な支援を受けていれば、子ども自身も自分の特性を理解でき、大人になってからも特性と上手に付き合うことができます。信頼できる専門家に出会うことも、自分を理解してくれるサポーターがいるのだという安心につながります。気になることがあれば、一人で悩まず、まずは専門家に相談することをおすすめします。

監修者プロフィール
岡田 俊先生(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部部長)

【岡田俊(おかだ たかし)先生プロフィール】

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部部長
児童精神科医。医学博士。1997年京都大学医学部卒業。2001年京都大学医学部附属病院精神科神経科助教、2006年同デイケア診療部院内講師。2010年京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)講師。2011年名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科講師、2013年同准教授。2020年より現職、児童精神科外来を担当している。特別支援学校、児童相談所、知的障害者福祉施設などでも勤務。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床精神神経薬理学会専門医・指導医。『親の疑問に答える子どものこころの薬ガイド』(日本評論社)など、著書多数。

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