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どこからがアルコール依存症?気になるときの相談窓口「減酒外来」

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監修/湯本 洋介先生(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター精神科)

コロナ禍で「家飲み」や「1人飲み」をする人が増え、この時期に飲酒習慣が変化した人もいるかもしれません。飲み過ぎが続いて「これって、もしかしてアルコール依存症?」と不安になったときに、受診先として増えているのが「減酒外来」です。減酒外来とは、どのような場所なのでしょうか。受診の目安や、日常生活でできる飲酒量の減らし方などをご紹介します。独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター精神科の湯本洋介先生に伺いました。

「減酒」を掲げて受診のハードルを下げる

日本のアルコール消費量は、総量としては減少しており、飲酒習慣のある人の割合も、主に若い世代で減少しています※1。2020年からのコロナ禍で、飲み会などの飲酒機会が必要ないと感じた人もいるようです。一方、行動制限による心理的ストレスや孤独、将来に対する不安などによって飲酒量が増えた、リモートワークになって人目がなくなり昼間から飲酒するようになった、とも耳にします。行動制限が緩んでからは、出社するようになって飲酒量が減ったという声がある一方、飲み会が再び開催されるようになり、また飲み過ぎるのではないかと心配している人もいるようです。飲酒の量や習慣は人それぞれですが、たくさん飲む人と飲まない人、二極化が進んでいるといえるかもしれません。

飲酒量が増えて不安を抱えている人の相談先として、飲酒量を減らすことを掲げた「減酒外来」があります。減酒外来は、2017年に全国で初めて久里浜医療センターに設置されました。それ以来、「減酒外来」「減酒支援外来」「アルコール低減外来」などの名称で、同様の外来が各地の医療機関に開設されています。

減酒外来には、大きく2つの目的があります。1つは、アルコール依存症の患者さんの受診を促進することです。アルコールに関する問題を抱えていても、「お酒をやめろと言われるのではないか」「怒られるのではないか」と受診を敬遠している人が大勢いると考えられています。アルコール依存症の治療は、お酒を完全にやめる「断酒」が原則ではありますが、「減酒」を掲げることで受診のハードルが下がり、アルコール依存症の患者さんが医療につながりやすくなると期待されます。

もう1つは、「お酒の相談窓口」としての役割です。従来、医療機関でアルコールの問題に対処する場合は、アルコール依存症の治療が中心でした。しかし、アルコールは200以上の病気やけがと関連すると報告されており※2、近年はアルコールによる弊害を少しでも減らせるように、アルコール依存症と診断されていない人も含め幅広くケアする方向になっています。実際、アルコール依存症と診断されていなくても、「飲み過ぎて記憶をなくしてしまう」「家族とトラブルになってしまう」といった問題を抱えているケースや、「お酒をやめようとは思っていないが、飲み方は変えたい」という人もいます。こうした悩みも、減酒外来では気軽に相談することができます。

※1:経済産業省「縮小傾向の国内酒類市場;飲酒習慣が市場変化の要因に」
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20210906hitokoto.htmlを2023年7月30日に参照)
※2:World Health Organization “Global status report on alcohol and health 2014”
https://apps.who.int/iris/bitstream/10665/112736/1/9789240692763_eng.pdfを2023年7月30日に参照)

どこからがアルコール依存症?

健康を害するような飲酒習慣に陥っていないかどうかの目安として、WHOによるスクリーニングテスト「AUDIT(オーディット)」がよく使われます。設問は全部で10項目あり、各項目の回答の点数(0〜4点)を合計して評価します(最大40点)。

質問 点数 回答
1 あなたはアルコール含有飲料を
どのくらいの頻度で飲みますか?
0 飲まない
1 1カ月に1度以下
2 1カ月に2〜4度
3 1週に2〜3度
4 1週に4度以上
2 飲酒するときには通常
どのくらいの量を飲みますか?
※日本酒1合=2ドリンク
ビール中瓶またはロング缶1本=2ドリンク
ウィスキー水割りダブル1杯=2ドリンク
焼酎お湯割り1杯=1ドリンク
ワイングラス1杯=1.5ドリンク
梅酒小コップ1杯=1ドリンク
0 1〜2ドリンク
1 3〜4ドリンク
2 5〜6ドリンク
3 7〜9ドリンク
4 10ドリンク以上
3 一度に6ドリンク以上飲酒することが
どのくらいの頻度でありますか?
0 ない
1 1カ月に1度未満
2 1カ月に1度
3 1週に1度
4 毎日あるいはほとんど毎日
4 過去1年間に、飲み始めると
止められなかったことが、
どのくらいの頻度でありましたか?
0 ない
1 1カ月に1度未満
2 1カ月に1度
3 1週に1度
4 毎日あるいはほとんど毎日
5 過去1年間に、普通だと行えることを
飲酒していたためにできなかったことが、
どのくらいの頻度でありましたか?
0 ない
1 1カ月に1度未満
2 1カ月に1度
3 1週に1度
4 毎日あるいはほとんど毎日
6 過去1年間に、深酒の後体調を整えるために、
朝迎え酒をしなければならなかったことが、
どのくらいの頻度でありましたか?
0 ない
1 1カ月に1度未満
2 1カ月に1度
3 1週に1度
4 毎日あるいはほとんど毎日
7 過去1年間に、飲酒後、罪悪感や
自責の念にかられたことが、
どのくらいの頻度でありましたか?
0 ない
1 1カ月に1度未満
2 1カ月に1度
3 1週に1度
4 毎日あるいはほとんど毎日
8 過去1年間に、飲酒のため
前夜の出来事を思い出せなかったことが、
どのくらいの頻度でありましたか?
0 ない
1 1カ月に1度未満
2 1カ月に1度
3 1週に1度
4 毎日あるいはほとんど毎日
9 あなたの飲酒のために、
あなた自身か他の誰かがけがを
したことがありますか?
0 ない
2 あるが、過去1年にはなし
4 過去1年間にあり
10 肉親や親戚・友人・医師あるいは
他の健康管理にたずさわる人が、
あなたの飲酒について心配したり、
飲酒量を減らすように勧めたり
したことがありますか?
0 ない
2 あるが、過去1年にはなし
4 過去1年間にあり

出典:厚生労働省e-ヘルスネット「AUDIT」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-021.htmlを2023年7月30日に参照)

国際的な基準点は定められていませんが、日本では、8〜14点で問題のある飲酒習慣が疑われるため、減酒支援が必要とされています。15点以上の場合はアルコール依存症が疑われるため、受診が必要と考えられます※3

医療機関では、以下のうち3項目以上に該当する場合にアルコール依存症と診断します※4

  1. 1  お酒を渇望する(仕事中でも飲みたい、目を盗んででも飲みたいなど、お酒がどうしても欲しいという強い感覚がある)
  2. 2  飲酒のコントロールが困難である(このぐらいでやめておこうと思っていても、結局飲み過ぎてしまう)
  3. 3  離脱症状がある(手が震える、たくさん飲酒した翌日に大量の汗をかくなど、いわゆる「禁断症状」のこと)
  4. 4  アルコールに対する耐性がある(以前と同じ量や度数では酔わなくなっている)
  5. 5  飲酒中心の生活になっている(空いた時間があると飲んでしまう、お酒を飲んだり酔いをさましたりすることで1日が過ぎてしまう)
  6. 6  有害な結果が生じていても飲酒する(心身に問題が生じている、家族関係や仕事などに影響が出ていてもやめられない)

※3:保健指導におけるアルコール使用障害スクリーニング(AUDIT)とその評価結果に基づく減酒支援(ブリーフインターベンション)の手引き
https://kurihama.hosp.go.jp/research/pdf/20140604_hoken-program3_06.pdfを2023年7月30日に参照)
※4:一般社団法人 日本アルコール・アディクション医学会、日本アルコール関連問題学会「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き【第1版】」
https://www.j-arukanren.com/pdf/20190104_shin_al_yakubutsu_guide_tebiki.pdfを2023年7月30日に参照)

目標を立てて、減酒につながる行動の工夫を

減酒外来では、アルコール依存症と診断された患者さんに対しては、断酒がベストであることを伝えた上で、患者さんが減酒を望む場合は飲酒量を減らせるようにサポートします。補助的に内服薬を使う場合もあります。アルコール依存症の診断がつかない場合も、飲酒量が少なければ少ないほど良いことを前提として伝えます。「酒は百薬の長」といわれますが、実際にはアルコール摂取に健康上の「適量」はなく、飲酒量を0にするのが最も健康に良いと考えられている※5ため、できる範囲での減酒を支援します。

減酒を進めるためには、まず現状の飲酒習慣を振り返った上で、どこまで減酒できるか、自分自身で目標を設定します。普段どの程度アルコールを摂取しているのか計算してみましょう。

●アルコール摂取量(g)の計算※6

お酒の量(ml)×アルコール度数(%)×比重(0.8)
例:ビール500ml(アルコール度数5%)の場合:500×0.05×0.8=20g

国民健康づくり運動である「健康日本21(第三次)」※7では、男性で1日平均40g以上、女性で1日平均20g以上の飲酒が「生活習慣病のリスクを高める飲酒」とされています。前述のとおり、飲酒量は0に近いほうが健康に良いのですが、せめて「生活習慣病のリスクを高める飲酒」は超えないようにしたいところです。

実際に飲酒量を減らすためには、行動を工夫して飲酒習慣を変えていきます。以下は、減酒するために有効な方法の例です。いくつでも構いませんので、取り組めそうなものを選んで始めてみましょう。

  • お酒の量を何月何日から減らすか決める
  • 飲むお酒の種類をアルコール度数の低いものに変える
  • 飲むときだけお酒を買う(買い置きしない)
  • 飲酒のペースをできるだけ遅くする
  • 1口飲んだら、コップを必ずテーブルに置く
  • 記憶がなくなる飲み方をしない
  • 飲む前に食べておく/水分を摂っておく
  • 飲むお酒を薄くする
  • ノンアルコール飲料を飲む
  • 自動車の運転や運動など、飲んだらできないことをする
  • お酒を飲み過ぎてしまう相手と場所を避ける
  • 周りの人にお酒をコントロールすることを宣言する
  • 一緒にお酒を減らす仲間を見つける
  • 大量飲酒は健康を害することを思い出す
  • 飲酒について家族が心配していることを思い出す
  • 酒席に出たとき、二次会は避ける
  • 睡眠をしっかり取る
  • 飲酒中に飲んだ酒量を思い出し、チェックする
  • たくさん飲んだ場合、そのことを周囲の人に正直に話す
  • いつもより高い特別感のあるお酒をじっくり味わうことで、量を減らす
  • お酒を買う代わりに、そのお金を貯金する

出典:ABCDEプログラム作成ワーキンググループ編「軽症依存症向け短時間外来治療の手引き ABCDEプログラム」(https://www.ncasa-japan.jp/pdf/document27.pdfを2023年7月30日に参照)と、湯本先生のお話を基に作成

最近は、減酒のためのアプリなども開発されています。こうしたツールを使って、飲酒の記録や日記をつけるのもおすすめです。

※5:GBD 2016 Alcohol Collaborators. Lancet. 2018; 392:1015-1035.
※6:厚生労働省e-ヘルスネット「飲酒量の単位」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-001.htmlを2023年8月19日に参照)
※7:厚生労働省「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針の全部を改正する件」
https://www.mhlw.go.jp/content/001102474.pdfを2023年7月30日に参照)

監修者プロフィール
湯本 洋介先生(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター精神科)

【湯本洋介(ゆもと ようすけ)先生プロフィール】

独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター精神科
精神保健指定医、精神科専門医・指導医。2006年福井大学医学部医学科卒業。東京都立松沢病院にて精神科専門研修を修了。松沢病院に勤務時より、依存症医療に携わる。2014年より、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターでアルコール依存症を中心に診療に従事。2017年に開設された減酒外来も担当している。

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