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病気と医療の知って得する豆知識

アルコール好きの人は特に注意。膵臓を健康に保つ秘訣とは

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監修/佐野圭二先生(帝京大学医学部附属病院 肝胆膵外科教授)

胃や腸などに比べると、体のどこでどのような働きをしているのか分かりにくい「膵臓(すいぞう)」。過度の飲酒や過食などを続けると、ある日突然膵臓が炎症を起こし、激烈な痛みに襲われることもあります。膵臓の働きを知って、そうしたことが起こらないように正しく予防しましょう。膵臓やその主な病気の基礎知識について、帝京大学医学部附属病院 肝胆膵外科教授の佐野圭二先生に伺いました。

消化を助け、血糖をコントロール!

膵臓は、胃や肝臓などと同じ消化器臓器(食べたものを消化するための臓器)の一つです。
胃の裏側に位置し、幅は約5cm、長さは約15~20cm程度と左右に細長い形をしています(下図参照)。

■膵臓の位置

肝臓の位置

膵臓には、主に2つの働きがあります。

  • 「膵液」という消化液を作り、食べたものの消化を助ける働き
  • 高くなった血糖を下げるインスリンや、低くなった血糖を上げるグルカゴンといったホルモンを分泌し、血糖を一定に保つ働き

膵臓は胃や腸、肝臓などに比べるとあまり目立たない臓器ですが、上記のように重要な役割を担っています。

よって膵臓の働きが低下すると、消化不良をきたし下痢になったり腸にガスがたまったりします。また血糖コントロールが不良となり糖尿病になります。

膵臓の働きが低下する要因として、先天的に膵臓の働きが弱い場合や、膵臓のインスリンを出す細胞(β細胞)が自己免疫の異常などにより破壊されることで発症する一型糖尿病などが挙げられます。

しかし、こうした要因がなくても過度の飲酒や喫煙などの生活習慣によって膵臓が炎症をきたしそれを繰り返すうちに、機能が徐々に低下する場合があります。その代表が「膵炎」で、「急性膵炎」と「慢性膵炎」があります。

急性膵炎の2大原因はアルコールと胆石

急性膵炎とは、文字どおり膵臓に急激な炎症が発生する病気です。前ぶれもなく、ある日突然発症し、激烈な痛みを伴う例が多く見られます。

痛みはみぞおちからへそにかけての腹部に起こることが多いですが、膵臓に近い背中や腰などまで広がる場合もあります。

急性膵炎には、主に3つの種類があります。

  1. 1  アルコール性
  2. 2   胆石性
  3. 3  特発性(原因不明)

2016年に日本膵臓学会が行った全国調査(※)では、男性の場合はアルコール性の頻度が胆石性の約2倍に及び、女性の場合は胆石性膵炎の頻度が高いという傾向がみられています。

(※)『急性膵炎診療ガイドライン2021』に基づく
https://plaza.umin.ac.jp/jaem/docs/急性膵炎診療ガイドライン2021.pdf)p18を2023年3月27日に参照

膵臓は消化に関係する臓器の中でも比較的小さな臓器ですが、ここで作られて分泌される膵液は大量で、その消化力も最強といわれています。

正常な状態のときは膵臓で作られた膵液が膵管という管を通って膵臓から十二指腸へと流れ出た際に、膵液に含まれる消化酵素が活性化されて食べ物を消化します。しかしアルコールの取り過ぎが続くと、十二指腸に流れ出る前に膵液の消化酵素が膵臓内で活性化する場合があります。すると膵液が膵臓そのものを溶かしてしまうため、急激な炎症が起こるのです。

一方、胆石は、肝臓で作られ「胆管」を通って、十二指腸へと分泌される消化液「胆汁」に含まれるコレステロールなどの成分が胆のう内で結晶化し、徐々に増大したものです。胆のうがつながっている胆管と膵管は、十二指腸に流れ出る直前で合流する(共通管)ので、胆石がこの管の中に詰まると腸管も詰まって胆汁だけでなく膵液の流れも止まり、消化酵素が膵臓の中で活性化されて急激に炎症をきたすことがあります。胆石の原因は明らかになっていませんが、油っぽい食品の取り過ぎや過食、ストレスなどが関係しているといわれています。

急性膵炎の治療は重症度によって異なりますが、原因を除去することが大前提となります。
アルコール性の場合は禁酒、胆石性の場合は内視鏡などでの胆石除去になります。

いずれの原因の場合も膵臓を休ませるために絶食し、数日間様子を見ます。この間は点滴などで栄養と水分を補給します。

急性膵炎は耐え難いほどの痛みが生じるので、放置することはまず不可能です。早く入院し、適切な治療を受けることで多くの場合は回復します。

がんのリスクを招く可能性もある「慢性膵炎」

急性膵炎から回復し、体調が良くなったからといってまたアルコールを過剰に摂取したり、不規則な食生活を続けたりしていると、炎症が再発するリスクを高めることになります。急性膵炎をくり返していると、膵臓自体が機能しなくなってしまう「慢性膵炎」へと移行していく可能性が高くなります。

慢性膵炎の場合も、初期の段階では激しい腹痛などが起こりますが、後期になると痛みはほとんどなくなります。しかし、膵臓の機能をほぼ失ってしまうため、消化不良による下痢や体重減少などを生じるほか、糖尿病を発症させたり悪化させたりする要因となります。また、膵臓がんのリスクも高まると考えられています。

膵臓を健やかに保つ4つのポイント

慢性膵炎を治療するための特効薬はまだありません。急性膵炎や慢性膵炎にならないよう、膵臓を健やかな状態に保つためには、膵臓に過度な負担を掛けないような生活習慣を続けることが大切です。

特に次のようなことを意識しましょう。

  • 大量の飲酒を控える
    できるだけ日本酒なら1合以内、ビールならロング缶1本(500ml)以内程度にとどめましょう。
  • 油っぽい食べ物を食べ過ぎないようにする
    炒め物や揚げ物など油の量が多くなりがちな料理だけでなく、カレーなど意外に脂質の多い料理にも気をつけましょう。
  • 禁煙する
    タバコに含まれるニコチンやタールは膵臓がんのリスクを高めると考えられます。大きな危険因子の一つなので、禁煙に取り組みましょう。
  • ストレスをためこまず、規則正しい生活を送る
    アルコールや胆石などの原因がない場合、ストレスや不規則な生活などによる自律神経の乱れが膵臓の炎症の要因となっている可能性が考えられます。夜ふかしをしない、適度な運動を習慣にするなど、できることから始めていきましょう。

膵臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれます。このように呼ばれる背景には、膵炎が突然発症することや、膵臓がんの初期は無症状のことが多く早期発見が容易ではないことがあります。腹部超音波検査や採血での糖尿病の発症を機に発見されることもあるので、定期的に健康診断や人間ドックなどを受診することが大切です。

監修者プロフィール
佐野圭二先生(帝京大学医学部附属病院 肝胆膵外科教授)

【佐野圭二(さの けいじ)先生プロフィール】

帝京大学医学部附属病院 肝胆膵外科教授
1990年、東京大学医学部卒業後、同大学医学部第二外科入局。同大学肝胆膵外科講師などを経て、2010年より現職。日本外科学会・指導医、日本消化器外科学会・専門医、日本肝胆膵外科学会・高度技能指導医・理事。日本消化器病学会、日本腹部救急医学会、日本肝臓学会、日本胆道学会、日本膵臓学会。

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