
病気と医療の知って得する豆知識
治りにくいめまいの正体を発見。持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)を知る
監修/堤 剛先生(東京科学大学 耳鼻咽喉科教授)

ぐるぐる目が回るようなめまいが治ったと思ったら、ふわふわしためまいやふらつきが続くようになった。めまいが治まらなくて、仕事や日常生活にも支障をきたす……。こうした症状に心当たりがあるなら、二次性めまいともいわれる「持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)」かもしれません。近年、診断基準が策定された新しい概念のめまいであるPPPDについて、東京科学大学 耳鼻咽喉科教授の堤 剛先生に伺いました。
概要・目次※クリックで移動できます。
日常生活に影響を及ぼすめまいの原因と種類
めまいの多くは、耳の中(内耳)の異常が原因で起こります。
内耳の三半規管の根元には、頭の動きや体の直線運動を感知して体のバランスを保つ役割を担う「耳石器」という器官があります。
頭の傾きや、エレベーターの昇降などの直線的な動きに合わせて、耳石器の上に乗った耳石(カルシウムでできた小さな粒)も動きます。耳石は内耳にあり、体のバランスを保つ役割があります。この耳石が耳石器から剥がれ落ち、三半規管に入り込むと「良性発作性頭位めまい症」を発症します。これは三半規管の中を漂う耳石が、頭の動きによって移動するために起こるめまいで、症状には次のような特徴があります。
■良性発作性頭位めまい症の特徴※1
- 寝返りを打つ、何かを拾おうとして前かがみになるなど、頭を大きく動かしたときに起こりやすい
- 自分自身または周囲のものが動いたり、回転したりしているように感じる(回転性めまい)
- めまいは一度につき数秒から数分で治まる
- 数分から数週間の間に何度も起きることがあるが、その後徐々に自然となくなっていく
- 吐き気や嘔吐、眼振(がんしん)などを伴う場合があるが、難聴や耳鳴りは起こらない
※1:『良性発作性頭位めまい症診療ガイドライン(医師用)』日本めまい平衡医学会診断基準化委員会編PDFで開きます」を2025年11月11日に参照
★良性発作性頭位めまい症については下記の記事もご参照ください
頭を動かすとめまいを引き起こす 良性発作性頭位めまい症
内耳性のめまいとしてよく知られる病気に「メニエール病」もあります。内耳の内リンパ腔という場所にリンパ液が増えすぎて「内リンパ水腫」を起こすことで起こります。難聴や耳鳴り、耳閉感といった聴覚症状を伴うめまい発作を繰り返すのが特徴です。主な症状は次の通りです。
■メニエール病の特徴※2
- ぐるぐる目が回るようなめまい(回転性めまい)が数十分から数時間続く
- 吐き気や嘔吐を伴うこともある
- 片耳に耳鳴りや難聴、耳が詰まったような感じが生じる。進行すると両耳に生じる場合もある
※2:堤先生への取材を基に作成
★めまいとメニエール病については下記の記事もご参照ください
めまいとメニエール病
このほか、脳卒中や脳腫瘍など脳の病気が原因でめまいが起こる場合があります。頭痛や意識障害、ろれつが回らない、手足のしびれを伴うといった症状がある場合は、速やかに脳神経内科や脳神経外科を受診しましょう。
もう一つ、2017年にめまいに関する国際学会「バラニー学会」で新しい診断基準が策定された慢性的なめまいがあります。それが「持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)」です。
“怠け病”と思われていたPPPD
PPPDの主な症状は次の通りです。
持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)の特徴※3
- 浮動感(ふわふわした感じ)や不安定感、非回転性めまいが3カ月以上続く
(回転性めまいは含まない) - ぐるぐる目が回るような回転性めまいではない(非回転性めまい)
- 1日の大部分は症状があるが、強さに増悪・軽減がある
- 朝より夕方に悪い(うつと逆)、疲れたときに悪い
また、次のようなときに悪化しやすい傾向があります。※3
- 立つ、歩くなど能動的な動きをしたとき
- 自分で急に体を動かしたとき
- 乗り物に乗る、人ごみに押されるなど受動的な動きをしたとき
- 街の中にある電光掲示板に流れる文字や動画、テレビや映画で激しい動きのある画面といった、複雑な視覚パターンやブレの多い画像などの視覚刺激を受けたとき
※3:堀井新.持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)の診断と治療. 日本耳鼻咽喉科学会会報 123 (2) 170-172,2020.
何のきっかけもなく慢性的なめまいが続く場合は、ストレスや不安などの精神的な要因による「心因性めまい」が疑われます。
一方、PPPDの予兆は例えば次のような症状です。
突然めまいが起きて、片方の耳が聞こえなくなり、それが3~4回続いた後、症状が治まるものの、ふわふわしためまいやふらつきが3カ月以上続く、というようなものです。3カ月以内の場合は急性期のめまいとの境界が判別しにくいことから、3カ月以上続くという点がPPPDの診断基準の1つとされています。
診断基準が策定されたのは近年ですが、こうした症状を訴える人は昔から少なくありませんでした。検査をしても原因が分からないため、症状が続いてつらい思いをされる方もいました。PPPD を発症している本人は仕事を満足にできず、QOL(生活の質)も低下するという深刻な状況であるにもかかわらず、周囲からは「怠けている」「仕事をサボっている」と思われやすい問題もありました。しっかり診断がつくようになったことで、患者さん自身はもちろん、その周囲の人々のPPPD に対する理解が深まったのは大きなメリットの1つです。
PPPD による欠勤や仕事のパフォーマンス低下、医療費の増大は、社会的にも大きな経済損失を招く可能性があります。将来的にはこうした社会課題の解決につながることも期待されています。
PPPDの治療法とは
PPPDは、有効な治療法の確立を目指して研究が進行している段階です。現在はそれぞれの症状に応じて次のような治療法が用いられています。
■抗うつ薬
うつ病の症状がなくても、めまい症状や浮遊感の軽減に有効であるという報告があり、精神作用以外の機序が考えられています。
■認知行動療法
認知(物事の考え方や受け取り方)の偏りを修正し、効果的な行動を増やして、ストレスや困難な状況に対処する力を高める心理療法です。元々は米国でうつ病の治療を目的に開発されましたが、現在はストレスの軽減や気分の改善、不安障害や強迫性障害の治療など、多岐にわたって応用されています。PPPD においては、めまいに対する不安やストレスの軽減が期待されます。
■前庭リハビリテーション
内耳の一部で、体のバランスをつかさどる「前庭」の回復メカニズムに働きかけ、めまいや平衡障害(へいこうしょうがい)を改善するリハビリテーションです。視線安定訓練、バランス訓練、歩行訓練などを、症状の程度に応じて段階的に行います。
前庭リハビリテーションは、医師や、理学療法士や作業療法士といった専門職の指導のもとに行うのが基本です。PPPDの症状によっては、リハビリを行うことで悪化するケースもあるので注意しましょう。
ストレスや睡眠不足に注意
PPPDの発症や悪化の要因の1つに、ストレスや疲労があると考えられています。日常生活からストレスを完全に取り除くのは難しいものの、自分なりのストレス解消法を見つけたり、睡眠をしっかりとるよう心がけたりすることはもちろん大切です。
ただし、そうしたからといってPPPDを予防できるといった医学的根拠は現在のところありません。急性期のめまいはもちろん、慢性的なめまいに悩んでいたり、PPPDではないかという不安があったりするなら、なるべく早く耳鼻科を受診しましょう。
監修者プロフィール
堤 剛先生(東京科学大学 耳鼻咽喉科教授)
【堤剛(つつみ たけし)先生プロフィール】
東京科学大学 耳鼻咽喉科教授
医学博士。1992 年、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)卒業。日本耳鼻咽喉科学会認定 耳鼻咽喉科専門医・専門研修指導医。日本耳科学会認定 耳科手術指導医。日本めまい平衡医学会専門会員・めまい相談医。補聴器相談医。厚生労働省認定 臨床研修指導医。身体障害者福祉法第15条指定医。専門分野はめまい平衡医学、耳科手術・鼻科内視鏡手術、外耳道癌、人工内耳。












