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胃潰瘍とは?原因や症状、検査と治療法を解説

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監修/溝上 裕士先生(新東京病院 健診部主任部長・消化器内科)

胃酸によって胃の壁が傷つけられ、痛みや出血を起こす胃潰瘍(いかいよう)。かつては体質や過度の喫煙、飲酒などの生活習慣が原因と考えられていましたが、1980年頃よりヘリコバクター・ピロリという細菌(以下ピロリ菌)の感染が大きく関わっていることが明らかになりました。胃潰瘍の原因や症状、検査と治療法などについて、新東京病院健診部・消化器内科の溝上裕士先生に伺いました。

胃潰瘍とは?

胃潰瘍は、胃液に含まれる胃酸と、胃酸から胃壁を守る粘膜のバランスが崩れることで起こる病気です。疫学的には、胃潰瘍と十二指腸潰瘍をあわせて消化性潰瘍と呼んでいます。胃酸は食べたものを消化するため濃度が高く、強酸性(pH1~2)に相当します。その胃酸が胃の粘膜をみずから傷つける、つまり自分の胃を消化してしまう状態で、浅い傷であれば「びらん」、胃の粘膜筋板(ねんまくきんばん)を越える深い傷になると「潰瘍」と呼びます。

胃潰瘍の原因

胃潰瘍の主たる原因となるピロリ菌は、おおむね5歳くらいまでの乳幼児期に、主に経口感染する細菌です。かつては井戸水などに含まれていましたが、近年感染が判明するケースでは母親が口移しで与えた離乳食などを介した母子感染が多いと推定されています。いわゆる団塊の世代(現在75歳前後)以上の方では、感染率は5割、つまり2人に1人の割合でピロリ菌に感染しているとみられています。そうした世代からの感染、さらに次の世代への感染により、ピロリ菌が継承されているのです。ただし、ピロリ菌による胃潰瘍は衛生状態の向上と除菌治療の広まりによって大きく減少しています。

今、潰瘍の原因として圧倒的に多いのは薬剤性の出血性潰瘍です。抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、血液をサラサラにする作用のある抗血小板薬や抗凝固薬などの薬が原因になります。抗血小板薬と抗凝固薬をまとめて「抗血栓薬」といいますが、狭心症や脳梗塞の治療・既往歴のある方に用いられる重要な薬です。高齢化の進展と共に抗血栓薬を内服している方が増加し、それに比例して薬剤性の出血性潰瘍が増えています。

胃潰瘍というと、何となくストレスで起こりやすいと思われている人も少なくないと思います。たしかに「ストレス性潰瘍」という言葉も昔からありますが、たとえばひどいイジメを受けたり、大震災で避難所生活が続いたりといった尋常ではないレベルのストレスの場合であり、日常的なストレスではめったに潰瘍まで至らないということは知っておいてください。

胃潰瘍の症状

胃潰瘍を発症すると、以下のような症状が認められます。

  • みぞおちあたりの痛み(特に空腹時もしくは食後)
  • 背部(胃の裏側あたり)の痛み
  • 胃のもたれ感(それによる食欲不振)
  • 吐き気、嘔吐
  • 下血(黒色便)

上記に挙げたような症状がなくても、健診などで胃カメラの検査をして偶然見つかるケースも少なくありません。前述のNSAIDsによって生じた潰瘍の場合、本来感じるはずのみぞおちや胃の痛みを薬剤の作用(痛み止め)がブロックしてしまうため、痛みを感じないまま症状が進行して、いきなり出血を認めることもあります。鎮痛剤や解熱鎮痛消炎剤を服用している患者さんについては、自覚症状がないから大丈夫と過信していると、突然に吐血や血便をきたすこともあるので、注意が必要です。胃の不快感や黒色便がみられた場合には、すみやかに胃腸科や消化器内科を受診することをおすすめします。

胃潰瘍の検査

胃潰瘍の診断は、必ず内視鏡検査を実施した上で行います。バリウム検査もありますが、よほど大きな潰瘍でなければ検出が難しく、バリウム検査で異常が見つかれば結局は内視鏡検査も受けなければいけません。したがって、食道・胃・十二指腸に関する検査を希望し、健診などで選択できるのであれば、内視鏡検査を第一選択としておすすめします。

健康診断などの際、オプションの検査項目を追加してピロリ菌の有無を調べるのも有用です。具体的には、採取した血液や尿にピロリ菌抗体の有無を調べる抗体測定のほか、吐き出された息からピロリ菌感染を調べる尿素呼気試験、便を採取してピロリ菌抗原の有無を調べる便中抗原測定があります。

ピロリ菌検査で陽性となった場合は萎縮性胃炎(慢性胃炎)である確率が高いことが考えられます。幼少時にピロリ菌に感染すると萎縮性胃炎が起こり、無症状に進行し、放置しておくと胃がんになる可能性があります。現段階で特に症状がなくても、ピロリ菌を保有していることが分かったら、まずは胃の内視鏡検査を受けて、胃の粘膜の萎縮性変化がないかを確認しましょう。萎縮が認められたらすみやかにピロリ菌の除菌治療を行うことが重要です。

胃潰瘍の治療法

胃潰瘍の治療法としては、ピロリ菌除菌のための薬物治療のほか、出血性潰瘍の場合には内視鏡による止血を行うことがあります。ピロリ菌による潰瘍の場合は投薬による除菌治療を行います。先に述べたように、ピロリ菌は胃がんにも直結します。除菌治療を行うことで、胃がんの発症率が5割程度に低減できることも分かっており、きわめて有効な治療法です※1

※1:Lin Y, et al. Jpn J Clin Oncol. 2021 Jul 1;51:1158-1170.

薬物治療(ピロリ菌除菌)

ピロリ菌除菌の治療期間は1週間です。抗菌薬2種類とそれらの効きをよくするための胃酸を抑えるための経口酸分泌抑制剤(PPI〈プロトンポンプ阻害薬〉もしくはP-CAB〈カリウムイオン競合型アシッドブロッカー〉)がセットになっているものを1週間、1日2回(朝夕の食事後)に服用します。これが1セットで、約9割はこの段階で除菌できますが、それでも除菌できなかった場合は、2次除菌として異なるメニューでもう1セット繰り返します。

注意しなければいけないのが、薬剤性潰瘍の場合です。潰瘍を発症した場合、その原因となる薬剤をすみやかに中止するのが望ましいですが、狭心症、心筋梗塞、心房細動さらに脳梗塞など別の重要な疾患治療のため服薬を中断することが難しい方もいます。そうした場合には、できるだけ服薬を中止せずに潰瘍の治療を進めます。具体的には、経口酸分泌抑制剤(PPIもしくはP-CAB)を使います。

抗血栓薬は先に述べたように心臓や脳など、重篤な疾患の治療で服用されている方がほとんどです。したがって、胃潰瘍を発症したからといって自己判断で抗血栓薬を中止してはいけません。抗血栓薬を継続しながらでも潰瘍の治療やピロリ菌除菌は可能ですので、それぞれの主治医に治療中の疾患や服薬状況をきちんと伝えることが大切です。整形外科などから処方される痛み止めとしてのNSAIDsが原因とみられる場合は、潰瘍の治療期間中は服薬を中止するか、NSAIDs以外の鎮痛剤への切り替えが望ましいです。

手術による治療(内視鏡手術)

内視鏡手術が普及した現在、開腹手術となるような胃潰瘍の症例はきわめて少なくなっています。ただし「胃潰瘍の症状」の項で述べたように、薬剤性潰瘍ではみぞおちや胃の痛みを薬剤の作用がブロックしてしまうため、気づかないまま症状が進行していきなり出血を認めることがあります。そうした場合には、内視鏡によるクリッピング術(ステンレス製クリップで出血部を締めて止血する)を実施します。

胃潰瘍の予防法

胃潰瘍の予防のためにできることは、ピロリ菌を保有していることが分かったらすみやかに内視鏡検査を受けたうえで除菌治療を行うことです。それは自身の健康を守るだけでなく、子供への2次感染を防ぐことにもなります。通常の生活で、ピロリ菌を持っている大人から子供に感染することはありませんが、5歳以下の子供に対して大人が噛んだ物を食べさせたりすることは避けてください。食器やカトラリーを子供専用などにする必要はありません。

頭痛や生理痛のため、痛み止めを日常的に服用している方もいるでしょう。NSAIDsは非常に作用の強い薬剤で、人によっては数日間服用するだけで胃潰瘍を発症することがあります。予防策としては空腹で薬剤を服用しない、適切な用量を守るということがとても大切です。1日2回までと決められているのに、痛みがなかなか収まらないからと服用回数を増やしたり、1回あたりの用量を増やして飲んだりしてはいけません。もちろん、アルコールと共に服用するのは厳禁です。

監修者プロフィール
溝上 裕士先生(新東京病院 健診部主任部長・消化器内科)

【溝上裕士(みぞかみ ゆうじ)先生プロフィール】

新東京病院 健診部主任部長・消化器内科
1981年3月東京医科大学卒業。兵庫医科大学、国立加古川病院、東京医科大学、蒲郡市民病院を経て、2011年筑波大学附属病院光学医療診療部部長・病院教授、2018年同院消化器内科科長、2020年11月より現職。専門は消化管疾患の診断と治療、特に消化性潰瘍、炎症性腸疾患。主な著書に『消化性潰瘍診療ガイドライン2015 改訂第2版』(2015年南江堂/共著)、『慢性便秘症診療ガイドライン2017』(2017年南江堂/共著)、『ピロリ除菌治療パーフェクトガイド第3版』(2020年日本医事新報社/共著)など。

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