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病気と医療の知って得する豆知識

女性に多い甲状腺の病気 症状や種類を知り、正しく治療することで生活の質を高めよう

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監修/百渓 尚子先生(四谷甲状腺クリニック院長)

甲状腺に異常が起こっても局所(首や喉)に症状が出ることは少なく、動悸やだるさ、無気力といった症状が長く続いても、原因を突き止めるまでに時間がかかることが少なくありません。甲状腺の病気は働く世代の女性に多く、多忙な日常を優先して放置してしまうこともあります。さまざまな誤解も多い甲状腺の病気について、四谷甲状腺クリニックの百渓尚子先生に伺いました。

甲状腺とはどんな臓器?

甲状腺は、のどぼとけの下にある13〜18gほどの小さく平たい臓器です。気管の前面に付着していて、唾を飲むと気管と一緒に上下に動きます。

甲状腺は、食べ物に含まれるヨード(ヨウ素)を主な原料として甲状腺ホルモンを作り、分泌しています。この甲状腺ホルモンは新陳代謝を促して体に活力を与える働きをしており、過剰になっても不足しても、体にさまざまな影響を及ぼします。

甲状腺の病気の種類

甲状腺に異常が起きると、たいていの場合は甲状腺全体が大きくなるか、一部がしこり状になります。これを「甲状腺腫」といい、甲状腺腫の大小は病気の重症度とはあまり関係ありません。甲状腺腫は表のようにさまざまな種類があり、「甲状腺ホルモンが過剰または不足するもの、過不足はないが甲状腺腫と認められるもの」「全体が大きくなるもの、一部が変化するもの」などがあります。どれも男性より女性に多いのが特徴ですが、その理由はまだ明らかになっていません。

■甲状腺の病気

甲状腺ホルモンが過剰になった場合を総じて「甲状腺中毒症」といいます。そのうち、甲状腺の働きが活発になって甲状腺ホルモンが過剰に作られている場合を「甲状腺機能亢進症(こうしんしょう)」といい、甲状腺内にあったものが漏れ出ただけのものとでは対応や治療法が異なりますので、しっかりと病気を見極めることが大切です。まずは、内分泌専門医あるいは甲状腺の専門医に相談してみましょう。

甲状腺の主な病気と原因・症状・治療法

バセドウ病

バセドウ病とは、甲状腺を過度に刺激する物質TRAb(TSH受容体抗体)が原因で、甲状腺ホルモンが過剰になる病気です。

甲状腺ホルモンを過剰なままにしておくと、次のような症状が起こります。個人差がありますが、そのままにしておくと心臓や肝臓の機能、骨密度などに悪影響があり、危険な状態になることもあるため、甲状腺ホルモンが過剰に作られないようにする治療を行います。

甲状腺ホルモン過剰の主な症状

  • 動悸
  • 息切れ
  • 手の震え
  • 多汗
  • 疲れやすい
  • 体重減少
  • 微熱
  • イライラ
  • 下痢
  • 月経不順

なお、バセドウ病というと目が飛び出す病気と思っている人も多いようですが、「バセドウ眼症」という明らかな目の異常が起こるのはバセドウ病の一部です。目の症状は「上まぶたが引っ張られるため目が大きくなったように見える(眼瞼後退)」、「眼球の周りの筋肉が腫れたり、脂肪組織の量が増えたりすることで眼球が前に押し出される(眼球突出)」、「まぶたが腫れる」の3つあり、それがもとで結膜のむくみや充血、角膜の乾燥や傷による角膜潰瘍など、さまざまな目の不調につながります。こうした場合には甲状腺機能の治療と、バセドウ眼症に詳しい専門の眼科医による目の治療の両方が必要です。

バセドウ病の治療法

バセドウ病の治療は内服薬(抗甲状腺薬、場合によりヨード薬)、放射性ヨード(アイソトープ)治療、手術の3つの方法があります。それぞれのメリット、デメリットを考慮して使い分けます。一般的には薬で治療し、飲み続けるうちに血液中のTRAbがなくなるのを待ちますが、治療期間は数カ月から10年以上続ける人までさまざまです。薬が合わない場合や早く治す必要がある場合には残りの2つの治療から選択します。これらはいずれも、甲状腺ホルモンを産生している細胞を減らし、TRAbがあってもホルモンが過剰に作られないようにする治療です。

甲状腺ホルモンが過剰な間は、体が活発に運動しているような状態になっています。高い気温の中でのスポーツなど体に負担となることを、ある程度避ける必要があります。食事がとれない、心臓の働きに著しい異常があるなど入院が必要な場合もありますが、一般的に、スポーツ以外はあまり制限がありません。

一つだけ避けた方が良いと分かっているのはタバコです。病気を治りにくくすること、目の症状がある場合には悪化させることがあります※1

※1:西川光重,稲田満夫:★喫煙と内分泌・代謝 喫煙の血管作動性物質と甲状腺ホルモン代謝・作用に及ぼす影響.公益財団法人 喫煙科学財団

橋本病(慢性甲状腺炎)

橋本病とは、甲状腺に慢性の炎症が起きている病気で「慢性甲状腺炎」とも呼ばれます。女性の10〜20人に1人くらいが橋本病とも言われ、甲状腺の働きに異常のないことも多いですが、甲状腺機能が低下していたり一時的な変化を起こしたりしていることもあります。著しい甲状腺機能低下症が続いて心臓などに悪影響が出ている場合を除けば制限は何もなく、通常通りの生活ができます。

橋本病の主な症状

橋本病の患者さんは甲状腺が腫れていますが、甲状腺機能低下の程度と甲状腺の腫れの大きさとは関係ありません。橋本病には次に挙げる3つの状態があり、このうち症状を起こすのは、甲状腺ホルモンの不足がある場合だけです。

  1. 1. 甲状腺ホルモンが正常
    橋本病でも多くの人は、甲状腺の働きに異常がなく、治療を要しません。ただし、将来甲状腺の働きが低下してホルモンが不足することがありますので、定期的な検査をします。
  2. 2. 甲状腺ホルモンが不足
    橋本病は甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」になる場合があります。甲状腺ホルモンの不足をそのままにしておくと心身の活力が低下して、むくみ・気力の低下・体重増加・声のかすれ・毛髪が薄くなるなどの症状が現れます。なお、甲状腺機能低下症の原因は橋本病以外の場合もありますが、橋本病が原因で起こるものは数カ月で自然に回復することもあります。
  3. 3. 甲状腺ホルモンが一時的に変動
    甲状腺の中に蓄えられている甲状腺ホルモンが漏れ出て、2〜3カ月にわたり甲状腺ホルモンが過剰になった後、一時的にホルモンが不足する場合があります(無痛性甲状腺炎)。数カ月で自然に正常機能に戻ることが多いですが、中にはホルモン不足が長く続く場合や、ごく稀ですが橋本病からバセドウ病に移行することがあります。

橋本病の治療法

橋本病による甲状腺機能低下症は数カ月で自然に治ることがあります。甲状腺ホルモン不足が続くときは甲状腺ホルモン製剤を服用して不足する甲状腺ホルモンを補う治療を行います。適切な服用で甲状腺ホルモンに過不足がなくなれば、甲状腺に異常がない場合と同じになります。生活上留意することはありません。

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンが不足した状態のことを言い、原因にはいろいろなものがあります。

  • 橋本病……(上記参照)
  • 甲状腺の手術……腫瘍やバセドウ病の治療目的で甲状腺を切除した場合
  • 放射性ヨード(アイソトープ)治療……バセドウ病の治療目的でホルモンを作る細胞を減らした場合
  • 薬、ヨード……抗甲状腺薬を必要以上に飲んだ場合。ヨードは甲状腺ホルモンの材料になるが、大量に摂取するとホルモンの産生が減ってしまう場合がある
  • 先天性甲状腺機能低下症……生まれつき甲状腺がない、ホルモンの合成ができないなど

甲状腺ホルモン不足の症状

甲状腺ホルモンが不足すると、代謝が悪くなり、体に以下のようなさまざまな影響が出てきます。この他、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の濃度が上がってくることもあります。ホルモン不足の程度や期間、体の感受性によって症状は強かったり弱かったりします。ただし、これらの症状は他の原因でも起こりますので、甲状腺機能低下症のためであると断定することは困難です。

  • むくみ
  • 冷え
  • 皮膚の乾燥
  • 薄毛
  • 体重増加
  • 声がかすれる
  • ろれつが回らない
  • 便秘
  • いつも眠い
  • 気力がない
  • 月経異常

甲状腺機能低下症の治療法

橋本病による甲状腺機能低下症は数カ月で自然に治ることもありますが、続くときは不足する甲状腺ホルモンを補う治療を行います。その人にとってちょうど良い量の甲状腺ホルモン製剤を内服していれば、甲状腺に異常のない状態を維持できます。

甲状腺がん

甲状腺がんとは、甲状腺にできる悪性のしこりです。甲状腺は首の表面に近いところにあるため、しこり(結節)を見つけやすい臓器です。超音波で調べると、成人では女性の3.5人に1人、男性の6人に1人くらい見つかります。しこりには、良性のものと悪性のものがあり、悪性のものが「甲状腺がん」です。

甲状腺がんの症状

通常、しこり以外には目立った症状がないことが一般的です。

甲状腺がんの治療法

甲状腺のしこりは、甲状腺がんであっても、進行がゆっくりであるものが多いのが特徴です。そのため、大きさが1cm以下の場合手術をしないで経過をみるだけで済むこともあり、少しずつでも大きくなったり、広がっていたり、血管の近くにあるような場合は手術をします。場合によって、抗がん剤や分子標的薬、アイソトープ治療も行うことがあります。手術などの治療をした場合も、転移のないがんであれば平均10年生存率は95%以上です※2。なお、橋本病から稀に悪性リンパ腫が発生することがありますが、これも治療によく反応する特徴があります。

※2:国立がん研究センター がん統計「10年相対生存率およびサバイバー5年相対生存率」(2002年~2006年追跡例)(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a30)を2023年7月21日に参照

甲状腺の病気とヨード(ヨウ素)摂取の関係

ヨード(ヨウ素)は甲状腺ホルモンの主原料となるミネラルです。海藻類、特に昆布には格段と多く含まれています。甲状腺ホルモンを作るのに必要なヨードの量はわずか1日0.15mg(150μg)程度ですので、不足することはほとんどありません。仮にヨードを摂りすぎても甲状腺ホルモンを作りすぎないようにする仕組みが働きます。ただし、連日大量のヨードを摂っていると逆に甲状腺ホルモンが不足することがあります。この場合はそのようなことをやめれば元に戻ります。ちなみに海藻類は水に浸すと、まもなくほとんどのヨードが水に溶け出します。

ヨードを大量に摂ると甲状腺ホルモンが減る働きを利用して、バセドウ病の治療にヨウ素剤を用いることがあります。途中で効果が落ちることがあるため、バセドウ病の治療に一般的に使われる抗甲状腺薬と併用して使われることもあります。

甲状腺の病気とどう付き合うか

甲状腺の病気は決して難しい病気ではありません。治療が必要であっても、それによって甲状腺の働きが正常に維持されていれば通常と変わらない状態になりますし、経験豊富な医師の診断のもとで適切な治療を受けながら安全に妊娠・出産することも十分可能です。

一方で、バセドウ病だからといった理由で妊娠・出産を諦めてしまったり、ヨードを含む食品を必要以上に制限したりと、さまざまな思い込みや誤解が多いのも事実です。世の中にはさまざまな情報があふれていますので、自分に必要な情報を客観的に捉える意識を持ち、正しい知識を学びましょう。疑問や不安は、信頼できる専門医とよく相談することが大切です。

監修者プロフィール
百渓 尚子先生(四谷甲状腺クリニック院長)

【百渓尚子先生(ももたに なおこ)先生プロフィール】

四谷甲状腺クリニック院長
慶応義塾大学医学部卒業。慶応大学医学部助手、伊藤病院内科部長、東京都予防医学協会内分泌部長兼同協会保険会館クリニック甲状腺外来担当を経て2019年4月に四谷甲状腺クリニックを開業し、現在に至る。日本甲状腺学会 専門医、日本内分泌学会 専門医・指導医、日本内科学会認定医、アメリカ甲状腺学会 会員。著書は『甲状腺疾患診療実践マニュアル』(杉谷巌共著、文光堂)ほか。

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