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男性の薄毛(脱毛症)、どう対処する?原因から治療まで専門家が解説

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監修/伊藤 泰介先生(浜松医科大学皮膚科学講座 准教授・病院教授)

地肌が目立つ、抜け毛が増えた、髪が細くなった……。薄毛(脱毛症)は多くの男性が抱える悩みではないでしょうか。セルフケアや市販薬で対処している人もいるかもしれませんが、原因はさまざまで、対策や治療方法も異なります。毛髪の生え替わるサイクル(毛周期)に関する基礎知識から、脱毛症が生じる原因や治療方法まで、浜松医科大学皮膚科学講座准教授・病院教授の伊藤泰介先生に伺いました。

毛髪が生え替わる「毛周期」について知ろう

毛髪が生え替わる「毛周期」について知ろう

私たちの毛髪は、一定のサイクルを繰り返して生え替わっています。これを「毛周期」(ヘアサイクル)と呼びます。毛周期は、①成長期(毛髪や毛根が大きく成長する)、②退行期(成長が低下し、毛根が収縮し始める)、③休止期(成長が完全に止まる)の3つの期間を繰り返しています。休止期が終わると毛髪は抜け落ち、その後に新たな毛が生えてきます。

毛周期(ヘアサイクル)

(伊藤先生への取材を基に作成)

この中で成長期は、個人差があるものの、標準的には2~6年といわれています。十分な期間の成長期があれば、毛髪は伸び、毛量も維持されます。しかし、毛周期が何らかの理由で乱れ、成長期が短くなると、毛髪が十分に育たなくなり、毛が細くなったり短くなったり、抜け毛が増えたりします。

男性が注意したい脱毛症の種類

男性が注意したい脱毛症の種類

男性型脱毛症(AGA)

脱毛症にはさまざまな種類がありますが、多くの男性が悩まされるのが男性型脱毛症(androgenetic alopecia、以下AGA)です。壮年性脱毛症と呼ばれることもあります。日本人男性の約3割が発症すると報告されています※1。AGAの場合、毛髪の抜け方はパターン化しており、頭頂部や前頭部が薄くなるのが特徴です。

AGAの発症は、男性ホルモンの一部および遺伝が関係するとされています。男性ホルモンの一つであるテストステロンが毛根部分に到達すると、酵素によってジヒドロテストステロンという物質に変換されます。ジヒドロテストステロンは、男性ホルモン受容体と結合して、毛髪の成長にブレーキをかける因子を誘導します。これによって、本来は数年続くはずの成長期が短くなり、毛髪が十分に成長できないため、毛髪が細く短くなる「ミニチュア化」が生じ、毛髪が薄くなります。なお、男性ホルモン受容体は側頭部や後頭部には存在しないため、AGAによる薄毛は頭頂部や前頭部に生じます。

また、男性ホルモン受容体の遺伝子には、同じ塩基配列が繰り返されている部分があり、この繰り返しの数が多い人と少ない人がいます。繰り返しの数が少ない人のほうがAGAになりやすいのではないかと考えられています※2

円形脱毛症

AGAと円形脱毛症を合併するケースもあります。円形脱毛症と聞くと、小さな円状の脱毛をイメージする人が多いかもしれませんが、脱毛の大きさ・範囲はさまざまで、頭全体の毛が抜けてしまうこともあります。

円形脱毛症は、AGAとはメカニズムがまったく異なります。自己免疫反応によって、毛をつくる組織を壊そうとする働きが生じることで、毛周期が狂い、毛髪が途中で切れて伸びなくなってしまうのが円形脱毛症です。「ストレスが原因」といわれることも多いですが、すべての円形脱毛症がストレスによって生じるわけではなく、ストレスとは無関係に生じる場合もあります。感染症を発症した後に自己免疫反応が強まり、円形脱毛症に至るケースも見られます。遺伝的要素があるとも考えられています。

その他

病気によって脱毛症が生じる場合もあります。例えば、マラセチア菌(皮膚に常在している菌)の過剰増殖によって、頭皮や顔など皮脂の多い部分にフケや赤みなどの症状が出る脂漏性皮膚炎が、脱毛を引き起こす場合があります(脂漏性脱毛)。

※1:日本皮膚科学会 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン作成委員会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」日皮会誌:127(13),2763-2777,2017
※2:Ellis JA, et al. J Invest Dermatol. 2001 Mar;116(3):452-5.

AGAはセルフケアで改善する?

AGAはセルフケアで改善する?

薄毛が気になりだしたとき、生活習慣を改善することでセルフケアができないかと考える人もいるかもしれません。実際、シャンプーの頻度や選び方、食事の摂り方など、AGAに良いとされるさまざまな情報が出回っています。しかし、こうした日常生活での対策がAGAに有効であるという科学的根拠は得られていません。

ただ、「毛髪の成長にとって良い環境をつくる」という観点で考えると、健康的な生活を送ることには意義があるといえるでしょう。例えば、ビタミンD、タンパク質、亜鉛、鉄の摂取不足は、直接AGAに関連するわけではありませんが、毛髪を弱らせる要因になりうるため、普段から適切に摂取したいものです。ストレスをためない、十分な睡眠を取るといったことも同様です。

また、市販薬を使って治すことを考える人もいるでしょう。以下に該当する場合は、AGAの可能性が考えられるため、市販薬で効果を得られる場合があるかもしれません。

  • 抜けた毛髪に毛根が付いている
  • 自然に生えてきた(カットしていない)毛髪が非常に短く細い
  • 頭頂部や前頭部が明らかに薄くなってきている

しかし、実際には円形脱毛症を合併しているケースなどもあり、自身での診断は難しいものです。また、脱毛症の種類によってメカニズムが異なるため、使用する薬も異なります。医療機関を受診し、ダーモスコピー(拡大鏡)を使って毛髪の状態を確認してもらったうえで、正確な診断を受けるほうが間違いありません。毛髪を専門とするのは皮膚科ですので、皮膚科専門医を受診するのがお勧めです。

脱毛症の種類に合った治療を、早期に始めよう

脱毛症の種類に合った治療を、早期に始めよう

AGAと診断された場合は、男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン※1を踏まえて治療を行います。通常は、外用薬と内服薬を組み合わせて長期に治療を行い、効果が不十分な場合は、側頭部や後頭部から自分の毛髪を植毛する方法や、LEDもしくは低出力レーザーを照射する方法も、ガイドラインで推奨されています。なお、AGAの治療は多くが自由診療となります。

円形脱毛症の場合は、円形脱毛症診療ガイドライン※3を踏まえ、ステロイドの投与(内服、外用、注射)や局所免疫療法(患部にかぶれを生じさせて免疫の状態を変化させ、発毛を促す治療)などが行われます。最近は分子標的薬(JAK阻害薬)という新しい薬が使えるようになり、従来の治療が効かない重度円形脱毛症の治療選択肢が増えました。

また、脂漏性脱毛のように病気が原因となっている脱毛症の場合は、その病気を治療することが脱毛の改善につながります。

AGAの治療は、若い時期や気になり始めた時期から開始し、継続することが大切です。症状が気になり始めたら、早めに受診することをお勧めします。

※3:日本皮膚科学会円形脱毛症ガイドライン作成委員会「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017年版」日皮会誌:127(13),2741-2762,2017

監修者プロフィール
伊藤 泰介先生(浜松医科大学皮膚科学講座 准教授・病院教授)

【伊藤泰介(いとう たいすけ)先生プロフィール】

浜松医科大学皮膚科学講座 准教授・病院教授
1995年産業医科大学医学部卒業後、浜松医科大学皮膚科入局。2002年ドイツ・ハンブルグ大学エッペンドルフ病院皮膚科に留学。2004年に復職し、2006年浜松医科大学皮膚科講師・病棟医長、2015年同病院准教授・講師、医局長、2019年同准教授を経て、2020年から現職。専門は脱毛症、皮膚アレルギー。浜松医科大学医学部附属病院で脱毛症専門外来を担当。NPO法人円形脱毛症の患者会理事、日本円形脱毛症コミュニケーション(JAAC)協力医師も務める。

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