胃腸・肛門の痛みや不調
頑固な便秘や“こすりすぎ”に注意!お尻のトラブル対策
監修/山口 トキコ先生(マリーゴールドクリニック院長)
お尻の痛みやかゆみ、出血などはなかなか人に相談できない悩みです。正しいと思って行っていることが、実は逆効果になっている可能性もあります。お尻のトラブルの中でも特に多い「痔」を中心に、予防法や改善策、さらに温水洗浄便座の正しい使い方まで、マリーゴールドクリニック院長の山口トキコ先生に伺いました。
概要・目次※クリックで移動できます。
痔には3つの種類がある
お尻の病気の中で最も多いといわれるのが「痔」です。国内での疫学調査は行われていないため、正確な有病率は分かっていませんが、2011年に民間調査会社が行ったアンケート※1では75.2%の人が「痔になった(悩んだ)ことがある」と回答しています。
痔とは肛門の病気の総称で、「いぼ痔(痔核)」「切れ痔(裂肛<れっこう>)」「痔ろう」の3種類があります。
■痔の種類
■いぼ痔(痔核)
直腸と肛門の周りは、肛門を開いたり閉じたりする「括約筋(かつやくきん)」で囲まれていて、無意識に便やガスが漏れるのを防いでいます。さらに括約筋と直腸部分の粘膜、肛門部分の皮膚の間には「肛門クッション」と呼ばれる部分があり、肛門を保護し、しっかり閉じる役割を担っています。
括約筋、粘膜、血管などを含む結合組織を「肛門クッション」と呼んでいます。
肛門クッションには毛細血管が網目状に集まり、弾力性が保たれていますが、排便時に強くいきんだり、肛門に負担をかけたりすると、血管がうっ血して肛門クッションが腫れ、こぶ状になります。その形がいぼに似ていることから、「いぼ痔」と呼ばれています。
いぼ痔(痔核)は内痔核(ないじかく)と外痔核(がいじかく)に分けられます。
- 内痔核:肛門から2~3cm入ったところにある歯状線(しじょうせん)の内側の粘膜に発生。排便時のいきみが原因となることが多い
- 外痔核:歯状線の外側の粘膜に発生。血栓(血豆)により生じた場合は、痛みや出血を伴うことがある
■切れ痔(裂肛)
硬い便の排泄や激しい下痢などにより、肛門の皮膚が切れることで生じます。男性より女性に多く見られ、発症しやすい年齢は20~40代といわれています。
急性期の主な症状は下記の通りです。
- 排便時に紙に少しつく程度の出血と痛みが見られる
- 排便後にしばらく痛みが続く
切れ痔になると排便時に痛むため、ついトイレを我慢してしまうケースが少なくありません。すると便がますます硬くなり、肛門の傷が悪化して慢性化することもあります。深い傷が潰瘍状(かいようじょう)になり、「見張りいぼ」と呼ばれる皮膚の突起物やポリープができることがあります。
また、切れ痔が治る過程で皮膚が厚くなり、同時に肛門を締める筋肉も炎症によって硬くなり、肛門が広がりにくくなります。これを「肛門狭窄(こうもんきょうさく)」といい、細い便しか出せなくなるほか、肛門が広がらない状態で無理に排便することで、さらに傷が広がり、痛みを引き起こす場合があります。
■痔ろう
歯状線のくぼみにある「肛門陰窩(こうもんいんか)」から入り込んだ細菌に、肛門の分泌腺が感染して炎症を起こすと「肛門周囲潰瘍(こうもんしゅういかいよう)」と呼ばれる膿(うみ)が肛門の周囲にたまります。
自然に破れたり、あるいは切開したりすることで膿は排せつされますが、多くの場合、ろう管と呼ばれる、おでき状の膿の管が残った状態になります。これを痔ろうといいます。女性より男性に多く、ストレスやアルコールの摂取による下痢や軟便が原因の一つとして考えられています。また、免疫力の低下も原因となると言われています。
※1:QLife「痔の治療」 大規模患者調査
(https://www.qlife.co.jp/news/110711qlife_research.pdf)を2023年10月10日に参照
痔の予防・改善には生活習慣が重要
痔の3つの種類の中でも特に発症する人が多く見られるのがいぼ痔(痔核)です。内痔核は進行の度合いによって、次の4つに分類されています。
- グレード1:排便時に肛門管内で痔核がふくらむが脱出はせず、出血を認める
- グレード2:排便時に肛門外に脱出するが、排便が終わると自然に元に戻る
- グレード3:排便時に脱出し、指で押し込まないと戻らない
- グレード4:常に肛門外に脱出し、指で押しても戻すことができない
参考:「肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱 診療ガイドライン 2020年版 改訂第2版」(日本大腸肛門病学会編集)(koumonshikkan guideline2020.pdf(coloproctology.gr.jp))を2023年10月13日に参照
このうち手術による治療が推奨されるのはグレード3と4です。グレード2に対しては塗り薬や座薬で痛みや出血を抑える治療が主に行われています。グレード1については、日常生活に支障がなければ治療は行わず、生活習慣の改善が中心となります。なお、外痔核の場合は生活習慣の改善と、薬物療法が基本となります。
脱出する内痔核(グレード2・3・4)の治療は手術です。薬物療法で小さくなるわけではありません。グレード1の出血に対してのみ薬物療法。血栓性外痔核は手術をしなくても治りますが、肛門に負担をかければくり返します。
生活習慣の改善はいぼ痔(痔核)だけでなく、すべての痔の予防や改善のために大切です。特に次のことを心がけましょう。
- トイレはなるべく3分以内に済ませる
便意をもよおしたら我慢しないでトイレに行き、いきみすぎないように注意しましょう。 - 便秘予防につながる食生活を心がける
食物繊維を多く含む野菜やキノコ類、海藻類、豆類などを積極的に摂るほか、こまめな水分摂取も大切です。朝食も必ず摂るようにしましょう。 - アルコールや香辛料などの刺激物を控えめにする
アルコールや香辛料などの摂りすぎは、肛門を刺激し、炎症を引き起こす原因となります。 - 長時間にわたり、座りっぱなし、立ちっぱなしにならないようにする
同じ姿勢を長時間続けると、肛門がうっ血し、痔を引き起こす原因になります。 - 入浴はシャワーだけで済ませず、湯船につかる
お尻の冷えや肛門周辺の血行不良は痔の原因の一つです。湯船につかると血行が良くなり、痔の予防につながるほか、痔を発症している場合は症状の改善も期待できます。
温水洗浄便座による洗いすぎは危険?
近年は温水洗浄便座の普及が進み、内閣府の調査※2では、2023年3月末時点で、二人以上の世帯の普及率は81.7%、100世帯当たりの保有数は116.6台と報告されています。
それに伴い、温水洗浄便座の洗浄機能による「洗いすぎ」がお尻の痛みやかゆみなどを招く一因となっているという情報も見受けられますが、実際にはそもそも痔などの病気があるために温水洗浄便座の水圧に刺激を感じやすくなっているケースが多いようです。肛門に痛みや炎症がある場合は、温水洗浄便座の使用を控えましょう。
また、痔の自覚はないけれど、温水洗浄便座を使用する度に肛門に痛みを感じる場合は、一度肛門科を受診してきちんと調べてもらうことも大切です。なお、便秘がちの人の中には、肛門を刺激して便意を促すために温水洗浄便座を使用するケースも見られますが、そのような効果は、期待できません。誤った使い方をしないよう気をつけましょう。
お尻にやさしい温水洗浄便座の正しい使い方
主なポイントは次の通りです。
- 水勢は「弱」から試し、慣れてきたら徐々に好みの水勢で使用する
- 温水温度は季節に合わせて好みの温度に調節する
- 洗浄時間は10~20秒を目安にする
※2:消費動向調査(令和5 (2023)年9月実施分) 調査結果の要点(https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/kekkanoyouten2023.pdf)を2023年10月6日に参照
こすりすぎがお尻のかゆみの原因に
温水洗浄便座を適切に使えば、洗いすぎによるお尻のトラブルが生じる心配はまずないといわれています。ただし、温水洗浄便座の乾燥機能を使って乾かす時間を省きたいからと、ゴシゴシこするように拭いたりすると、皮膚が傷ついて炎症を起こす原因となります。
また、皮膚をこすると、その刺激でかゆみが生じ、かゆみを抑えようとかきむしることで皮膚炎を招くという悪循環も生じやすくなります。
お尻の皮膚も、顔をはじめとする他の部位の皮膚と同じです。顔をナイロンタオルでゴシゴシ洗ったり、強くこすったりしないように、お尻も皮膚にとってやさしい洗い方や拭き方を心がけましょう。排便後に肛門を拭くときは、こするのではなく、押さえるように拭き取るのが基本です。
なお、肛門周辺のかゆみは「肛門周囲掻痒症(こうもんしゅういそうようしょう)」といいます。かゆみを抑える塗り薬で改善できますが、痔が潜んでいる場合などもあるので、肛門科の受診をおすすめします。
また、排便時に出血がある場合も、「痔のせいだろう」と自己判断するのは危険です。肛門に近い直腸やS字結腸から出血していることがあり、その場合は大腸がんや大腸ポリープが疑われるためです。
大腸がん検診(便潜血検査)を受けていない45歳以上の人には、消化器内科あるいは消化器外科での内視鏡検査をすすめるなどして、早期発見・早期治療につなげています。大腸内視鏡検査は消化器科だけでなく、肛門科でも受けることができます。
気になる症状がある場合は早めに医療機関を受診すると同時に、併せて大腸がん検診も定期的に受けることが大切です。
監修者プロフィール
山口 トキコ先生(マリーゴールドクリニック院長)
【山口トキコ(やまぐち ときこ)先生プロフィール】
マリーゴールドクリニック院長
1988年、東京女子医科大学卒業。1992年、東京女子医科大学大学院修了。東京女子医科大学付属病院(第二外科)で研修後、社会保険中央総合病院(現・東京山手メディカルセンター)勤務を経て、2000年2月開業。医学博士。日本大腸肛門病学会理事・評議員・指導医・専門医。日本臨床肛門病学会 評議員・技能指導医。日本外科学会専門医。女性大腸肛門病専門医の先駆けとして、女性医師大腸肛門疾患研究会(JKK)の代表世話人を務め、勉強会を年1回開催している。