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愛するペットが人の病気の原因とならないために知っておきたいこと

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監修/苅和 宏明先生(北海道大学大学院獣医学研究院衛生学分野公衆衛生学教室教授)

ペットを家族の一員として愛情を注いでいる人は多くいます。ただ、その愛情がゆえに、食事や寝具を共有したり、体毛に顔をうずめる「猫吸い」「犬吸い」を繰り返したりすると、ペットから知らず知らずのうちに病気をもらうリスクもあるといいます。ペットからの感染による「動物由来感染症」や、ペットとの暮らしを楽しむために行いたい対策について、北海道大学大学院獣医学研究院衛生学分野公衆衛生学教室教授の苅和宏明先生に伺いました。

ペットとの密接な触れ合いが増えている今こそ注意

ペットとの密接な触れ合いが増えている今こそ注意

ペットを家族の一員と考えて大切にする人が増えています。今では、ペットは「伴侶動物」とも呼ばれるようになっており、単に一方的にかわいがる存在ではなく、共に暮らすパートナーとして絆が深まっているといえるでしょう。

一般社団法人ペットフード協会の調査によると、イヌ・ネコの約9割が主に室内で飼われています※1。昔は屋外で飼育することが多かったのですが、ペットが室内にいる時間が長くなった今は、ペットとの距離がより縮まり、密接に触れ合う機会が増えていると考えられます。

ペットとの触れ合いは癒やされるものである一方、気付かないうちにペットから人にうつる「動物由来感染症」のリスクを高める場合があります。その種類はさまざまで、動物も人も症状が出るものもあれば、動物は無症状なのに人だけが発症するものもあります。

イヌやネコだけでなく、鳥や爬虫類など、飼われているペットの種類も多様化しており、ペットの種類ごとに注意すべき感染症も異なります。ペットとの密接なかかわりが増える中、自分が飼っているペットからうつる可能性のある感染症について、知識を持っておくことが大切です。

※1:一般社団法人ペットフード協会「令和4年 全国犬猫飼育実態調査」
https://petfood.or.jp/data/chart2022/3.pdfを2023年8月22日に参照)

知っておきたい代表的な動物由来感染症

知っておきたい代表的な動物由来感染症

動物由来感染症のうち、ぜひ知っておきたいものを紹介します。小さい子どもや高齢者、基礎疾患のある人は、免疫機能が弱く、感染症にかかりやすいため、特に注意が必要です。

<主にイヌ・ネコ由来の感染症>

・パスツレラ症

イヌやネコなどの気道や口の中に生息するパスツレラ菌による感染症です。主に、イヌやネコに咬まれることで感染します。咬まれてから急速(早ければ1時間以内)に発症するのが特徴で、咬まれたところが腫れて痛みます。炎症が広がって蜂窩織炎(ほうかしきえん)になることもあるほか、まれに重症化して敗血症を発症する場合もありますので、傷口が腫れてきたらすぐに医療機関を受診することが推奨されます。飛沫を介して感染することもあり、その場合は風邪のような症状がみられます。なお、イヌやネコはパスツレラ菌を常在菌として保有しているため、症状が出ません。

・猫ひっかき病

ネコに引っかかれたり咬まれたりすることで、バルトネラという細菌に感染して発症する病気です。傷を負ってから1週間ほどで、傷口周辺の皮膚にプツプツと小さな盛り上がり(丘疹)ができ、その後、傷の近くにあるリンパ節が大きく腫れることがあります。症状は数週間から数カ月持続することがありますが、通常は自然に治ります。ネコはバルトネラ菌を持っていても症状が出ません。

・皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)

皮膚糸状菌という真菌による病気です。皮膚糸状菌に感染しているイヌ、ネコ、ウサギ、ネズミなどに触れることで、人に感染することがあります。水ぶくれやかゆみ、皮むけやフケなどの症状が出ます。皮膚糸状菌に感染するとペットも同様の皮膚症状が出るため、人だけでなくペットも治療が必要になります。

・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

マダニが媒介する感染症です。人が直接マダニに咬まれて感染するケースが中心ですが、マダニに咬まれて感染したイヌやネコなどに触れたり咬まれたりすることで人が感染することもあります。発熱、全身の倦怠感、消化器症状などがみられます。出血や意識障害が生じることや、重症化して死亡することもあります。人だけでなく動物も症状が出る病気で、特にネコが感染すると重症化しやすいといわれています。

<爬虫類由来の感染症>

・サルモネラ症

サルモネラという細菌による感染症です。爬虫類に触れたときや、爬虫類を飼っている水槽や飼育箱などを掃除したときに、手や指にサルモネラが付着し、そのまま手を洗わずに口に触れたりすることで感染します。人が感染すると、発熱、下痢、腹痛といった胃腸炎のような症状が出ます。まれに、細菌が全身に回って重症化し、死亡することもあります。サルモネラは食中毒の原因として知られていますが、カメなどの爬虫類の50~90%が保有しているといわれています。爬虫類は細菌を保有していても症状は出ません。

<鳥類由来の感染症>

・オウム病

鳥類の糞便中に排出されるクラミジアという細菌による感染症です。鳥類の糞に含まれる細菌を吸い込むことで感染することが多いのですが、エサを口移しで与えることによって感染するケースもあります。 突然高熱が出るほか、肺炎を起こすこともあります。重症化すると呼吸困難、意識障害などを生じ、死亡する場合もありますので、咳が治りにくい場合や息苦しさがある場合は医療機関を受診し、鳥を飼っていることを伝えるようにしましょう。鳥類は、クラミジアに感染していても症状が出ない場合があります。

参考:厚生労働省「動物由来感染症ハンドブック2022」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000906241.pdfを2023年9月28日に参照)

適切な対策を取ってペットとの暮らしを楽しもう

適切な対策を取ってペットとの暮らしを楽しもう

もしペットとの接触後に、前述の感染症が疑われるような症状が出て医療機関を受診する場合は、ペットを飼っていることを必ず医師に伝えるようにしましょう。適切な治療につながりやすくなります。

とはいえ、こうした感染症が発生する頻度は高いわけではありません。過度に怖がらず、適切な対策を取りながらペットとの生活を楽しみましょう。感染症への主な対策は、大きく分けて2つあります。

1 ペットとの濃厚な接触は避ける

ペットの口の中にいる菌に感染するおそれがあるため、口移しでエサを与えたり、食器を共有したり、キスをしたりすることはリスクのある行為だということを知っておきましょう。ペットと一緒の布団で寝ることや、ペットの毛に顔をうずめて「吸う」ことなども、濃厚接触に当たるため、避けたほうがよい行動です。ペットの毛に感染症を引き起こす菌が付いている場合もあります。

また、ペットを触った後は、必ず流水で手を洗うようにしましょう。毛や唾液などに感染症の原因となる菌が存在することがあるため、ペットを触った後、気づかないうちに口や目、傷口などを触ってしまうと、感染する危険性があります。

2 衛生的に飼う

爪切りやブラッシングといったペットのお手入れはこまめに行い、イヌやネコが草むらや藪の中などに入った場合は、戻ってきたらすぐにマダニが付いていないか確認しましょう。駆虫剤や忌避剤の使用は、ペットの命を守ることにもつながります。

ペットが過ごす小屋や寝床なども、清潔に保ちましょう。室内で鳥を飼っている場合は、鳥かごを毎日掃除することが大切です。特に、鳥の糞が乾燥すると、排出された菌が空気中を舞い、人が吸い込んでしまうおそれがあるため、できるだけ速やかに片付けます。換気も定期的に行うとよいでしょう。また、カメなどを飼っている水槽も、こまめな水替えと洗浄を行いましょう。

最後に、イヌを飼っている場合は、年1回の狂犬病の予防接種を受けさせることが法律で定められています。狂犬病は、発症するとほぼ100%死亡する動物由来感染症です※2。日本国内での感染は1957年を最後に確認されていませんが、海外でイヌに噛まれて感染した人が、日本に入国した後に発症して亡くなったケースは近年でも報告されており、世界的には、狂犬病がみられない国のほうが今でも珍しい状態です。万一国内に持ち込まれた際に感染を広げないためにも、毎年の予防接種が大切です。

※2:国立感染症研究所「狂犬病とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/394-rabies-intro.htmlを2023年9月28日に参照)

監修者プロフィール
苅和 宏明先生(北海道大学大学院獣医学研究院衛生学分野公衆衛生学教室教授)

【苅和宏明(かりわ ひろあき)先生プロフィール】

北海道大学大学院獣医学研究院衛生学分野公衆衛生学教室教授
獣医師。1986年3月、北海道大学大学院獣医学研究科修士課程修了。1995年6月、北海道大学から博士(獣医学)を取得。武田薬品工業(株)勤務後、北海道大学大学院獣医学研究科助手、講師、准教授を経て現職。専門は、人獣共通感染症と公衆衛生学。

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