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研究からひもとく「幸せになる方法」

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監修/前野隆司先生(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授)

「幸せになりたい」という願いは誰もが持つものではないでしょうか。では、どんなときに私たちは「幸せ」だと感じるのでしょうか? どうしたら「幸せ」になれるのでしょうか? こうした問いに対して、これまでにさまざまな研究が行われてきました。幸せになるための方法について、幸福学の第一人者である、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野隆司先生に伺いました。

幸せであることが心身の健康にも影響

幸せに関する研究は、1980年代から心理学の分野で盛んに行われてきました。これは、収入や学歴、国のGDPなどのデータに基づいた「客観的幸福」に対して、「主観的幸福」に関する研究を指し、個人の内面に焦点を当てて、「一人ひとりの個人はどのようなときに幸せだと感じるのか」「幸せでいられる人はどのような人なのか」といったことを調べるものです。「幸福学」は、この主観的幸福を扱い、前野先生は、人が幸せになるための組織、製品・サービス、教育、まちづくりなどの応用研究も含めて研究対象としています。

そもそも幸せとは、どんな状態を指すのでしょうか?

主観的幸福の研究における「幸せ」には、「ウェルビーイング」という言葉が使われます。ウェルビーイングとは、直訳すると「良好な状態」という意味ですが、ここでは、単に「楽しい」「うれしい」といった幸福に関わる感情(心が良好な状態)だけではなく、「健康」(体が良好な状態)や「福祉」(社会が良好な状態)といった意味合いも含めた広い概念と定義されています。

ウェルビーイングの定義からも見て取れるように、「幸せ」は健康とも大きく関わります。例えば、幸せとメンタルヘルスの状態について、医師との共同研究がこれまでに多数行われています。総じて幸せとメンタルヘルスの相関は高く、研究結果から「幸せであるほどメンタルの調子を崩しにくい」といえます※1。これは心の健康に限ったことではありません。体の健康に関しても、主観的幸福に大きく影響することが研究からわかっています※2。また、先進国に住む人を対象にした調査では、幸せだと感じている人のほうが、そうでない人に比べて7~10年長生きである、という結果も得られています※3

※1:Qingbo Liu, Masahiro Shono, Toshinori Kitamura. Psychological well-being, depression, and anxiety in Japanese university students. Depression and Anxiety, Volume 26, Issue 8, August 2009
※2:John N. Edwards, David L. Klemmack. Correlates of Life Satisfaction: A Re-examination. Journal of Gerontology, Volume 28, Issue 4, October 1973
Reed Larson. Thirty Years of Research on the Subjective Well-being of Older Americans. Journal of Gerontology, Volume 33, Issue 1, January 1978
※3:Bruno S. Frey. Happy People Live Longer: The pursuit of happiness can have concrete benefits for well-being. Science, Volume 331, Issue 6017, 2011

幸せの4つの因子

では、具体的に、どんな人が幸せだといえるのでしょうか?「どのような心的要因が幸せに影響するか」については、これまでに国内外で多数の研究結果が蓄積されています。前野先生は、こうした研究で得られていたさまざまな幸せの要因をピックアップし、「今の自分は『本当になりたかった自分』である」「人の喜ぶ顔が見たい」「私はものごとが思い通りにいくと思う」「私は自分のすることと他者がすることをあまり比較しない」といった87個の質問にして、1,500人の日本人にアンケート調査を行いました※4。調査結果を因子分析という方法を使って分析したところ、次の4つの因子が幸せの鍵として導き出されました。

※4:蓮沼理佳「幸福・性格・欲求の調査アンケートに基づく幸福感の関係解析」2011年度慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士論文

幸せの4つの因子

(1)「やってみよう」因子

自己実現と成長に関する因子。社会の中で自分の強みを活かしていること、目標を持っていること、そのために努力して成長しようとしていることや成長を実感していることが幸せにつながる。

(2)「ありがとう」因子

つながりと感謝に関する因子。他者を喜ばせる利他性や思いやりを持つこと、周囲と安定した関係性を持つことが幸せにつながる。

(3)「なんとかなる」因子

前向きと楽観に関する因子。自分に対しても他人に対してもポジティブな見方をすること、何事も「なんとかなる」と思えることが幸せにつながる。

(4)「ありのままに」因子

独立性と自分らしさに関する因子。他人と自分を過度に比較せずマイペースを保つこと、本来の自分らしさを自覚して発揮できることが幸せにつながる。

健康と同じように、幸せになるための心がけを

幸福度を高めるには、幸せの4つの因子の一つひとつを高めることが大切です。具体的な方法をいくつか挙げてみましょう。

例えば「やってみよう」因子を高めるためには、やりがいを感じられるような夢や目標を見つけることが大切です。必ずしも大きなものでなくてもかまいませんし、仕事でも趣味でもかまいません。心からワクワクできることを見つけたり、やりたかったことに取り組んだりすることが、自己実現や成長につながり、幸福度が高まります。

「ありがとう」因子を高めるためには、新たなつながりを求めたり、ボランティア活動など利他的な行為を心がけたりするとよいでしょう。特にここ数年のコロナ禍では、「ありがとう」因子の低下が気になるところです。人と会いにくくなり、孤独を感じている人もいるかもしれません。意識的につながりを持つ努力が必要です。オンラインでも、少人数であれば会話もしやすく、画面に顔が比較的大きく映るため、人と関わっている実感がわきやすいのではないでしょうか。

また、孤独感を抱えている人がいないか、周りの人たちに気を配り、声をかけることも大切です。職場や学校であれば、コロナ禍に入社・入学し、他のメンバーと対面する機会が少ない人たちを特に気にかける必要があるでしょう。人は、励ましてもらえるだけでも心が軽くなるものですし、「つながっている」「気にかけてもらえている」ことが想像できるだけでも孤独感は和らぐものです

「なんとかなる」因子は、幸せであるように振る舞うことで高められます。例えば、笑顔を作ること。楽しくなくても口角を上げて笑ってみると、楽しく感じられるはずです。また、うなだれたように下を向いて歩くのではなく上を向いて歩くことや、ネガティブな言葉を避けてポジティブな言葉を使うことでも、気分が前向きになり、幸せにつながります。

「ありのままに」因子を高めるには、周りの目を気にしすぎないことです。喜びや感動といった前向きな感情を抑制せず、素直に心から感じることも大切です。アートなど、創造性を発揮できる物事に取り組むのもよいでしょう。

幸せの4つの因子の高め方

「やってみよう」因子:やりがいを感じれられるような夢や目標を見つける、心からワクワクできることを見つける、やりたかったことに取り組む。「ありがとう」因子:新たな繋がりを求める、ボランティア活動など利他的な行為を心がける、オンラインで少人数でのコミュニケーションを取る、孤独感を抱えている人がいないか気を配り声をかける。「なんとかなる」因子:楽しくなくても口角をあげて笑顔を作る、上を向いて歩く、ポジティブな言葉を使う。「ありのままに」因子:周りの目を気にしすぎない、前向きな感情を制御せず素直に心から感じる、創造性を発揮できる物事に取り組む。

健康のために、食事、運動、睡眠といった生活習慣が大切であることは、多くの人が知っているでしょう。幸せも健康と同じで、どうすれば幸せになれるのか知識を持ち、幸せになるための行動を積み重ねていけば、今よりもっと幸せになることが可能です。健康に気を使うのと同じように、幸福度アップにも積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。

監修者プロフィール
前野隆司先生(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授)

【前野隆司(まえの たかし)先生 プロフィール】

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授
1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業、1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て2008年よりシステムデザイン・マネジメント研究科教授。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。著書『幸せのメカニズム-実践・幸福学入門』(講談社現代新書)など多数。

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