手足・腕・肩・腰
足の爪トラブルを解消して、痛みなく歩ける足に!
監修/山口健一先生(爪と皮膚の診療所 形成外科・皮膚科 院長)
概要・目次※クリックで移動できます。
健康な爪の「見た目」とは?
手足ともに、爪には「感覚が鋭い指先を保護する」という大きな働きがあります。さらに足の爪は「体重を支える」「立つ、歩くなどの基本的な動作において力のバランスをとる」といった重要な役割を担っています。
「爪は健康のバロメーター」といわれますが、どのような爪が健康なのかといった明確な定義は医学的にまだないのが現状です。ただし、「健康的な爪の見た目」は一つの判断基準となり得ます。まずは、足の爪の構造について簡単に知っておきましょう。
【足の爪の名称】
①爪母
爪の付け根にある、爪を作る組織。
②爪根
できたての爪で、保護のため爪の根元の皮膚「④後爪郭」に覆われている。
③爪上皮
一般的に「甘皮」と呼ばれる。雑菌などが体内に侵入しないよう、ふたをする役割を担う。
④後爪郭
②の爪根を保護する働きを持つ。
⑤爪甲
爪のこと。
⑥爪床
皮下組織の一部で、⑤の爪は爪床の上に乗っている。神経や血管が通り、爪に必要な栄養などを運ぶ役割を持つ。
⑦爪下皮
⑤の爪と、⑥の爪床をつなぐ役割を担う。伸びた爪を指の腹のほうから見た時に、透明な甘皮のように見える。
⑧爪甲遊離縁
爪先。爪切りの際にカットする、皮膚から浮いた部分を指す。
⑨爪半月
③の爪上皮(甘皮)の近くにある、白い半月型の部分。
このうち「見た目」の健康をチェックする大きなポイントとなるのが、足の爪甲と爪上皮(甘皮)です。
●爪甲
濁りのない、薄いピンク色をしているのが健康な状態です。また、爪が割れていないかどうかもチェックしましょう。爪が割れやすくなる原因はさまざまですが、多いのは乾燥によるものです。爪用のオイルなどで保湿ケアを行うことが予防につながります。
●爪上皮(甘皮)
消失してツルツルになったりせず、爪のまわりにきちんとついているのが健康な状態です。過剰に処理したりしないよう気をつけましょう。爪周囲の皮膚の乾燥や、薬品などの刺激でなくなる場合もあるので、爪甲と同様に爪用のオイルなどで保湿ケアをしっかり行うことも大切です。
爪の見た目に現れる主なトラブルは次のようなものが挙げられます。
■爪に縦や横の凸凹ができている
縞のように縦に入る凸凹は加齢に伴って生じることが多く、特に心配はいりません。横の凸凹は爪母のまわりを刺激するなどして傷めた可能性があります。治療には軟こうを用いるのが一般的です。爪に触らないようにすることも大切です。
■爪半月がない
爪上皮(甘皮)の位置の関係で、皮膚に隠れて見えなくなっているだけなので問題はありません。「血液の循環が悪いために爪半月がなくなっている」という説もあるようですが、これは誤りです。
■爪がスプーン状に反り返っている
「スプーンネイル」とも呼ばれます。鉄分不足による鉄欠乏性貧血を原因とする説が多く広まっているようですが、それ以外の貧血や甲状腺の異常なども考えられます。また、指先に力の入る仕事を続けたり、爪の両側の縁を丸く切り、短くカットしすぎたりすることなどが原因になる場合もあります。正しい診断をしてもらうためにもまずは医療機関を受診するのがおすすめです。
■指先が太鼓のバチのようにふくらみ、爪の先端が丸くなっている
「バチ指」といわれ、呼吸器や心臓、消化器、内分泌などの病気の症状の一つとして現れる場合があります。症状に気づいたら速やかに医療機関を受診し、検査を受けることが必要です。
いずれのトラブルも、爪を見ただけで病気の診断まで下すことはできません。体調などに不安がある場合はためらわず医療機関を受診することが大切です。
巻き爪と陥入爪の違いとは?
見た目の問題だけでなく、「痛みがなく、難なく長い距離を歩いたり、運動したりすることができる」のも健康な爪の条件の一つです。
その妨げになる代表的なトラブルとして、「巻き爪」と「陥入爪」が挙げられます。巻き爪と陥入爪が混同されるケースは少なくありませんが、適切な治療を受けるためにはそれぞれの違いなどを知っておくことも大切です。
【巻き爪】
爪の両端が内側に巻いている状態。「巻いているけれど痛みはない」と、「巻いていて痛みがある」の2パターンがあります。巻き爪であっても痛みがない場合は、治療を急ぐ必要はありませんが、爪切りが難しくなります。上手く爪が切れないと痛みが出てきてしまうことがあり、巻き爪で痛みがある場合は、下記の「陥入爪」を合併している可能性もあります。
【陥入爪】
爪の両端が巻いてはいないが皮膚に食い込み、傷ができている状態。「爪が巻いてはいないけれど、痛みがある」という場合は陥入爪が疑われます。
巻き爪の治療には、ワイヤーで爪を広げる矯正法が広く行われています。ただしワイヤーを外すと再発の可能性があり、実際に何度も矯正をくり返す例も少なくありません。自費診療のため、治療を受ける医療機関や施設などによって料金が異なります。
より根本的な治療として、外科的療法(NaOH法)もあります。皮膚に食い込んでいる爪の両端を切除し、その部分に再び爪が生えてこないよう、NaOHという薬剤を塗布します。この治療には健康保険が適用されます。
巻き爪・陥入爪の予防にはインソールを
巻き爪や陥入爪になってしまうのは、扁平足やハイアーチ(土踏まずが大きく反り返った状態)など骨格的な問題がある場合がほとんどです。下記のように爪にかかる力のバランスが崩れやすくなるため、爪が変形していくことになります。
【正常な爪】
足の指の腹が地面にしっかりつき、地面からの圧がまっすぐにかかっている。
【圧が不足している爪】
指に力が入りにくい「浮き指」や運動不足などで地面に指がつきにくくなっていると、地面からの圧が不足し、巻きやすくなる。
【変形して圧が偏っている爪】
扁平足や外反母趾などで指が変形していると、爪にかかる圧もアンバランスに。爪の片側が巻きやすくなる。
【圧がかかりすぎている爪】
足を強く踏み込み、爪先に圧のかかるようなスポーツをしたり、先の狭い靴などを履いたりすることが多い人が、さらに深爪をすると皮膚が食い込み、傷ができやすくなる。
もともとの足の形や骨格を直すのは非常に難しいことですが、自分の足にフィットするインソール(靴の中敷き)などの使用により、爪の変形の予防につなげることは可能です。
例えるなら、インソールは視力の悪い人にとっての眼鏡やコンタクトレンズのようなもの。眼鏡やコンタクトレンズを使用しても視力そのものが良くなるわけではありませんが、生活の質は向上していきます。
巻き爪や陥入爪で悩んでいる人は、フットケア商品として市販されているインソールなどに注目してみるとよいでしょう。余裕があれば、自分の足に合ったインソールをオーダーメイドするという方法もあります。
爪の水虫にも気をつけよう
高温多湿の季節などに特に気をつけたい足の爪のトラブルに「爪白癬」があります。いわゆる「爪水虫」と呼ばれるもので、足の水虫の原因でもある白癬菌が爪甲の中に入り、繁殖することで生じます。足の水虫を治療せずに放置していると、次第に爪まで広がっていく原因となるので注意が必要です。
主な症状としては、爪が白く濁ったり、厚みが増したりすることが挙げられます。かゆみや痛みなどはあまりないため、気づかないうちに症状が進んでいる場合もあります。
治療は外用剤と内服薬で行うのが一般的ですが、治療を始めてから完治する(白癬菌の増殖を抑え健康な爪に置き換わる)までには半年から1年程度かかるため根気を要します。なかなか良くなったという実感が得られにくいため、途中で治療を中断してしまうケースも見られます。爪の状態をスマートフォンのカメラなどで定期的に撮影しておくと、経過が客観的にわかるため治療のモチベーションアップにつながるでしょう。
足と爪の水虫、どちらも防ぐためには清潔に保つことが欠かせません。特に洗浄がおろそかになりやすい足の爪は、爪用のブラシなどを使って丁寧に洗うとよいでしょう。
また、スポーツクラブやスーパー銭湯などで不特定多数の方が使用する足拭きマットは菌が繁殖しやすいので、マットを使った場合は靴下を履く前に一度ウエットティッシュなどで足を拭いておくと安心です。
さらに、爪のまわりの皮膚が乾燥し、細かい傷などができていると、そこから菌が侵入しやすくなります。皮膚を乾燥させないよう、爪用のオイルなどできちんと保湿することは爪水虫の予防のためにも効果的です。
監修者プロフィール
山口健一先生(爪と皮膚の診療所 形成外科・皮膚科 院長)
【山口健一(やまぐち けんいち)先生プロフィール】
爪と皮膚の診療所 形成外科・皮膚科 院長
日本形成外科学会認定形成外科専門医。2002年東京医科大学卒業後、同大学形成外科入局。助教を務めた後、川崎幸クリニック、たちばな台クリニック形成外科、足の診療所表参道、東京医科大学病院皮膚科研修を経て、2016年より現職。共編書に『足爪治療マスターBOOK』(全日本病院出版会)がある。
手や足の爪は健康のバロメーターといわれますが、サンダルなどを履いて足を露出する機会が増える季節は、特に足の爪の状態がいつも以上に気になるもの。今回は主に足の爪を取り上げ、巻き爪や爪水虫といった爪トラブルにはどんな予防法や対処法があるのか、爪と皮膚の診療所 形成外科・皮膚科院長の山口健一先生に伺いました。