季節のテーマ
夏こそ入浴! 血流アップで夏の疲れを解消
監修/早坂信哉先生(東京都市大学人間科学部教授 温泉療法専門医)
概要・目次※クリックで移動できます。
シャワーだけでは得られない入浴の7大効果
暑い夏はシャワーを浴びるだけで湯船にはつからないという人も多いのでは? しかしこれはもったいないこと。湯船につかること=入浴には、シャワーだけでは得られない多くのメリットがあるからです。
入浴の代表的な健康作用として、次の7つが挙げられます。
1 血流改善
体が温まることで血管が拡張し、血流が改善。全身に血液が行き渡り、新陳代謝もアップ。また、温めることで神経の過敏性を抑えられる場合もあり、神経痛など慢性的な痛みを和らげたり、筋肉の収縮による肩こりをほぐしたりする効果が期待できます。ただし、片頭痛がある時やぶつけたばかりの打撲の時は避けましょう。
2 むくみなどの改善
湯船につかると体に水圧がかかり、体の表面はもちろん、皮膚の下の血管などにまで圧力が加わります。その圧力によって手足などの末端にたまった血液が心臓へと押し戻され、血流やリンパの流れを改善します。これを「静水圧作用」といいます(下図参照)。
むくみなどの改善効果が期待できます。
■静水圧作用の仕組み
3 浮力作用
水中では浮力によって体重が10分の1程度になります。重力から解放され、体が軽くなることで、関節や筋肉の緊張が緩み、リラックス効果が期待できます。
4 清浄作用
体の表面の汚れはシャワーで落とせますが、しっかり湯船につかることで全身の毛穴が開き、余分な皮脂が流れ出ます。
5 蒸気・香り作用
お湯の蒸気で鼻やのどなどの粘膜に湿り気が与えられ、乾燥予防につながります。また、お湯を張った洗面器に好きな香りの精油(エッセンシャルオイルなど)を垂らして浴室を香りで満たすとリラックス効果が高まります。
※精油は水に溶けない性質があり、湯船に直接入れられる精油は限られています。また、精油を直接入れる際には、皮膚に刺激を与える場合があるため、不安な方は皮膚刺激があるかどうか少量試してから使用してください。お風呂アロマを選ぶ際には、強い香りの精油は避けるようにしましょう。
6 粘性・抵抗性作用
水中で体を動かすと、陸上よりも体に負荷がかかります。湯船につかりながらゆっくりストレッチなどをすると、筋肉に刺激を与えることができます。
7 解放・密室作用
浴室という密室空間で湯船につかることにより心と体が解放される感覚を味わえます。このことから、浴室は究極のリラックス空間ともいえるでしょう。
疲労回復には40℃のお湯で10~15分、全身浴が◎
季節にかかわらず、疲れを取るための入浴法としてお勧めしたいのが次の3つのポイントです。
1 お湯の温度は40℃前後に
人によっては「ちょっとぬるい」と感じるかもしれない温度ですが、年齢や体力に関係なく、のぼせやヒートショックなどの体調不良を起こしにくいというメリットが報告されています。
2 肩までつかって全身浴を
前述の「7大効果」で挙げた静水圧と浮力の作用による効果は、肩までつかることでより得られやすくなります。温熱効果も高まり、血流アップにも効果的です。ただし、いきなり湯船につかるのではなく、掛け湯をして体をお湯に慣らしてからつかることが大切です。また、高齢者や持病がある場合は主治医に相談しておきましょう。肩までお湯につかると息苦しさを感じる場合は無理せず半身浴を。
3 湯船につかる時間は10~15分でOK
40℃前後のお湯に10~15分程度つかるだけで、十分に体は温まり、血液の循環も良くなります。顔や額が汗ばむくらいを目安の一つにすると良いでしょう。なお、心臓や血管、呼吸器に疾患がある場合は、少しでも息苦しさを感じたら湯船から出て休むようにしてください。
夏も快適に入浴して健康を保つコツとは
「夏はもう少しぬるめのお湯につかりたい」と思う人も少なくないかもしれません。
そういう場合は、体温よりやや高めの38℃前後のお湯にゆっくり20分程度つかると良いでしょう。
その際にお勧めしたいのが、泡が出る「炭酸ガス系」の入浴剤です。炭酸ガスには血管を拡張させ、血流量を増やす作用があるため、お湯の温度が低くても効率よく血流を改善する効果が期待できます。
「湯船につかったほうがいいことは分かっているけれど、疲れてお湯を張るのも面倒」という日もあるかもしれません。
そういう場合は、バスタブや大きめの洗面器などにくるぶしがつかる程度までお湯をためて、足湯をしながらシャワーを浴びるのがお勧めです。足湯でも、シャワーだけでは得られない温熱効果によって、疲れがより取れやすくなります。
「帰宅したらまずシャワーで汗を流したい」という場合は、先にシャワーを浴びてOKです。しかし、できれば就寝の1~2時間前に改めて湯船につかるようにすると、質の良い睡眠をとりやすくなります。入浴すると一旦体温が上がりますが、その後約90分程度で急速に体温が下がります。この体温が下がるタイミングで就床すると、眠りにつきやすくなるのです。
夏の入浴で脱水症状や熱中症を防ぐには
夏の入浴では脱水症状に陥ったり、浴室で熱中症を起こしたりしないよう気をつけることも重要です。
脱水症状の予防には、入浴する前にしっかり水分補給をしておくことが大切です。1回の入浴で約800ml脱水することから、コップ1~2杯分(150~300ml)の水分を摂ってから入浴しましょう。入浴後も必ず水分補給をしてください。入浴して大量の汗をかくと、水分とともにミネラル分も失われます。糖分やカフェインを含まないノンカフェインのものがお勧めです。
浴室での熱中症のリスクは、浴室内の湿度や温度が上昇することで高まります。窓があるなら少し開けて空気を入れ替える、換気扇があるなら入浴中も回すなどの対策をとりましょう。
湯船につかっていると自分が熱中症になりかけていることに気付きにくい点も要注意。なんとなく頭がぼーっとしてきたり、眠気を感じたりしてきたときには軽い熱中症にかかっている可能性があります。こうしたサインに気が付いたらすぐに浴室から出て水分を補給し、体を休めましょう。
健康のためにも体と浴室を常に清潔に
夏の浴室はカビが繁殖しやすく、それが健康に悪影響を及ぼす原因になる場合もあります。掃除をこまめに行い、常に衛生的に保つことが欠かせないのはいうまでもありません。時短のコツとして役立つのが重曹です。
食用の重曹、大さじ2杯分を入浴剤代わりに湯船に入れると、湯垢などの汚れが浴槽に付きにくくなり、付いた汚れも取れやすくなります。
重曹には皮膚の古い角質を落としやすくする、余分な皮脂の汚れを除去するといった効果もあるため、肌も浴槽も清潔に保つことができるまさに一石二鳥のアイテムといえるでしょう。
なお、節水などを目的に前日の残り湯を沸かし直して翌日も入るという人も少なくないようですが、健康の観点からはNGです。雑菌が繁殖したお湯につかることになってしまうからです。その日のうちにお湯を抜いて掃除をし、翌日は新たにお湯を張りましょう。
また、家族で暮らしている場合など足ふきマットを共有することも多いと思いますが、水虫などの感染を防ぐためには1枚のマットを使いまわすのはできるだけ避けたいもの。タオルで足裏まで拭いて、1回ごとに洗濯するなど、清潔に保つ工夫をすることが健康維持のためには大切です。
汗をかくことが多い季節こそ、シャワーだけで済ませず、入浴する習慣を身に付けましょう!
監修者プロフィール
早坂信哉先生(東京都市大学人間科学部教授 温泉療法専門医)
【早坂信哉(はやさか しんや)先生プロフィール】
東京都市大学人間科学部教授 温泉療法専門医
博士(医学)。1993年、自治医科大学医学部卒業後、地域医療に従事。浜松医科大学医学部准教授、大東文化大学スポーツ・健康科学部教授などを経て、現職。日本健康開発財団温泉医科学研究所所長、日本銭湯文化協会理事、日本入浴協会理事。生活習慣としての入浴を医学的に研究する第一人者。『最高の入浴法~お風呂研究20年、3万人を調査した医者が考案』(大和書房)など著書多数。
一歩外に出れば猛暑で大汗、しかし通勤電車やオフィスでは強い冷房で体が冷えてしまう……。そんな夏でも体調を健やかに保つサポートをしてくれるのが入浴です。入浴がもたらす健康効果や夏ならではの入浴のコツなどについて、温泉療法専門医で東京都市大学人間科学部教授の早坂信哉先生に伺いました。