その他症状
立ち上がる時は油断大敵! 不意に襲う立ちくらみ
監修/山中 敏彰先生(近畿大学医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室 教授)
立ち上がった瞬間、ふらっとしてその場にしゃがみこんでしまったことはありませんか?一過性の症状で済むことも多い立ちくらみですが、立ち上がるたびに起きたり、何度も繰り返したりするような場合には注意が必要です。立ちくらみが起こるメカニズムや、原因となる病気などについて近畿大学医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室 教授の山中敏彰先生に伺いました。
概要・目次※クリックで移動できます。
立ちくらみの原因とは?
立ち上がった時に、数秒から数分程度、ふらつきやクラッとしたり、フワフワする浮遊感などが起こることを「立ちくらみ」といいます。頭からスーッと血の気が引くような感覚や、気が遠くなるような感覚など、人によって感じ方はさまざまですが、自分や周囲がぐるぐる回るように感じる「めまい」のような症状はあまり多くないといわれています。
立ちくらみの原因として、大きく下記の2つが挙げられます。
●血流低下によるもの
立ち上がると、重力によって下半身に血液が集まりますが、通常は、自律神経の働きによって、下半身の血液を心臓に戻して血圧を保ち、上半身や脳への血流が促されています。しかし、何らかの原因で自律神経の働きが低下すると、血圧を維持しにくくなり、心臓から脳へ送り出される血液の量が減少します。このようにして、脳に血流低下が生じると、立ちくらみが起こりやすくなるといわれています。
疲労やストレスなどで自律神経のバランスが乱れている時、脱水を起こしている時などは特に血流が低下しやすく、立ちくらみが起こりやすくなります。
また、次のような場合に血圧が低下し、立ちくらみが起こりやすいので、立ち上がる時には注意が必要です。
- 食中・食後――血液がおなかに集まりやすくなります。
- トイレの後――特に排便後は血液が下半身に集まりやすくなります。
- 入浴後――下半身に血液が集まりやすくなります。
- 長時間座った後――下半身に血液がたまりやすくなります。
- 飲酒後――下半身に血液が集まりやすくなります。体のバランス機能も低下し転倒を招きます。
●「耳石器(じせきき)」の異常によるもの
内耳には重力や体の方向など直線加速度を感知する「耳石器」という器官があります(下図参照)。この耳石器に何らかの異常が生じると、立ち上がった時に上下方向の感覚が変調をきたし、立ちくらみが起こりやすくなります。
なお、耳石器の異常は、頭を動かした時などにぐるぐる回るような回転性のめまいを起こす「良性発作性頭位めまい症※1」や、日常生活に支障をきたすほどの回転性めまいを繰り返し起こす「メニエール病※2」などの耳の病気が原因になります。
※1 関連記事 「頭を動かすとめまいを引き起こす 良性発作性頭位めまい症」
●耳の構造※3
※3:山中先生の取材を基に作図
立ちくらみの背後に病気が隠れている可能性も
前述のように、長時間座りっぱなしだった時や疲れている時、あるいはトイレや入浴の後などのタイミングで立ちくらみが「弱く」「時々起こる」程度なら、健康面において特に心配はありません。
しかし、立ちくらみが「強く」「多い」場合は何らかの病気の可能性が考えられるので、医療機関を受診することが大切です。かかりつけ医がいる場合は、まず相談してみるとよいでしょう。
立ちくらみの原因となる病気は、下記のように多岐にわたります※4。
- 循環器疾患<不整脈、心臓弁膜症など>
- 脳神経疾患<てんかん、椎骨脳底動脈循環不全(ついこつのうていどうみゃくじゅんかんふぜん)、パーキンソン病、多系統萎縮症など>
- 内耳疾患<良性発作性頭位めまい症※1、メニエール病※2、突発性難聴※5など>
- 起立不耐症(起立性調節障害)<起立性低血圧、体位性頻脈症候群(たいいせいひんみゃくしょうこうぐん)など>
※4 出典:山中敏彰 起立性めまい(立ちくらみ).自律神経障害(起立性低血圧),循環器疾患,脳神経疾患.耳鼻咽喉科・頭頸部外科 92(5):080-086,2020.
医療機関ではまず重篤性のある循環器疾患や脳神経疾患の有無について調べ、該当する病気があればそれぞれの専門科で治療を行います。これらの病気に該当しない場合は、さらに内耳疾患の有無について調べ、病気がある場合は耳鼻咽喉科で治療を行います。
循環器疾患、脳神経疾患、内耳疾患のいずれにも該当しない場合には、安静時の血圧を計測し、高血圧症、低血圧症の有無を調べます。そのうえで、起立時の血圧や脈圧(最高血圧と最低血圧の差)、心拍数の変動など異常があれば、起立不耐症(起立性調節障害)と判定し、そのうち血圧低下が見られる場合には「起立性低血圧」、心拍数の増加が見られる場合には「体位性頻脈症候群」と診断されます。
なかでも起立性低血圧は、立ちくらみの原因として多い疾患の1つです。特に、高血圧症で降圧薬を服用されている方や透析中の方には起こりやすいという特徴があります。
立ち上がり方や脚の筋トレで予防や改善を
起立性低血圧の治療は、「生活指導」「理学(運動)療法」「薬物療法」の3本柱で行うのが一般的です。このうち生活指導、理学(運動)療法は、立ちくらみの予防としてもおすすめなので、下記を参考にしてみましょう。
●生活指導
生活するうえでの基本的なポイントは次のとおりです。
- 1 急に立ち上がらない
- 2 頭を上下しながら立ち上がらない
- 3 長時間にわたって座り続けない
立ち上がる時には、次の3ステップを意識しましょう。
【ステップ1】
机などに手をつき、椅子から腰を浮かせる。
【ステップ2】
ステップ1の状態から、頭だけをゆっくり起こす。
【ステップ3】
ステップ2の状態から、ゆっくり立ち上がる。
寝た状態から起床する時も、段階を踏んでゆっくり起き上がることを心がけましょう。その後、時間をおいてから歩き始めましょう。また、夜間に室内を歩く時には必ず電気をつけるなど周囲を明るくして歩くようにしましょう。立ちくらみから転倒を起こしてケガをしないよう気をつけることが大切です。
■理学(運動)療法
座っている時は脚を動かさない状態なので下半身の血液がたまりやすくなります。脚のほうへ下がった血液を心臓へ戻すポンプ機能を持つふくらはぎの筋肉を、座っている最中に刺激することで、心臓へ戻す血液の循環が良くなり、立ちくらみの予防につながります。また、ふくらはぎの筋肉は立っている時の姿勢を保つのに必要な「抗重力筋」でもあり、鍛えることで立ち姿勢が安定しやすくなります。
特に効果的な方法は「かかとの上げ下げ」です。
- 1 椅子に浅く腰掛け、かかとを4秒かけて上げる
- 2 1で上げたかかとを、1秒で下げる
- 3 1と2を交互に30回行い、1セットとする。1日3セットを目安に行う
※立ち上がる前に1と2を10回程度繰り返すのもおすすめ
このほか、脚をクロスさせた状態でのかかとの上げ下げ、つま先の上げ下げ、足指のグー・パー運動、足踏み(ひざの上げ下げ)、膝の曲げ伸ばしなども、座ったままできる下半身の筋トレとしておすすめです。習慣にすることで下半身から心臓、そして脳への血行が良くなり、立ちくらみの予防につながることが期待できます。
監修者プロフィール
山中 敏彰先生(近畿大学医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室 教授)
【山中敏彰(やまなか としあき)先生プロフィール】
近畿大学医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室 教授
1988年、奈良県立医科大学 医学部卒業。英国エジンバラ大学医学部神経科学センター生理学部門 博士研究員、米国ウィスコンシン大学 医学部 外科学講座 耳鼻咽喉頭頸部外科部門 臨床フェロー、奈良県立医科大学准教授(耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室)、同大学病院教授(耳鼻咽喉・頭頸部外科/めまいセンター)などを経て、2022年より現職。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医・指導医、日本めまい平衡医学会専門会員・認定めまい相談医、日本宇宙航空環境医学会宇宙航空認定医、日本旅行医学会認定医、日本耳科学会手術指導医。American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery International Member, International Society of Posture and Gait Research Regular Member.