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早めに気づいて進行を遅らせたい「軽度認知障害」

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監修/内門 大丈先生(メモリーケアクリニック湘南 院長)

認知症の手前の状態である「軽度認知障害(MCI)」。認知機能の低下はあるものの、日常生活への影響はあまりない状態です。MCIは進行して認知症に移行する可能性がある一方、MCIの段階で適切な介入を行えば、認知症への移行を遅らせることができたり、元の状態に回復したりする可能性もあります。MCIにどのように気づき、対処すべきなのでしょうか。メモリーケアクリニック湘南院長の内門大丈先生に伺いました。

「健常」と「認知症」の間にあるMCI

「健常」と「認知症」の間にあるMCI

MCIとは、認知症の手前の段階を指す概念で、認知症の早期発見の重要性が知られるようになったことで生まれたものです。MCIから認知症に移行する人が年間10%前後いると考えられる一方、元の状態に戻る人も年間20%前後いるとされており※1、「健常」と「認知症」の間の状態といえます。

MCIには以下のような診断基準があります※1

  • 本人や家族から、「物忘れが増えた」といった認知機能低下の訴えがある
  • 記憶、遂行機能(目標を立てて計画を遂行する機能)、注意機能(注意力・集中力にかかわる機能)、言語機能、視空間認知機能(目から入った情報を理解し、空間の全体像を把握する機能)のうち1つ以上の認知機能に障害が認められる
  • 基本的な日常生活の動作は正常である
  • 認知症ではない

MCIの診断にあたっては、年齢や教育歴も考慮されます。同じ年代の人と比べて認知機能が低下しているかどうかが加味されます。また、もともと能力が高かった人の場合、少しでも認知機能低下の傾向がみられるとMCIと診断されることがあります。

さらに、MCIは「健忘型MCI」と「非健忘型MCI」に分類できます。前者は記憶障害(物忘れ)が主な症状となっているものです。後者は物忘れがみられず、他の認知機能に障害があるタイプです。

MCIは認知症とは診断されない段階ですが、認知機能の低下は徐々に進んでいくため、MCIと認知症との間に明確な線引きをするのは困難な場合もあります。ただ、MCIの状態では、患者さんご本人が症状を自覚していることが多い一方、認知症になると客観性が失われ、ご本人が認知機能の低下に気づきにくくなり、ご家族が変化に気づかれることが多くなります。また、MCIの場合は日常生活に大きな支障がありませんが、認知症と診断される状態になると、日常生活にも支障が出ることが多くなります。

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※1:池田佳生・浦上克哉編著『日本認知症予防学会監修 軽度認知障害(MCI)診療マニュアル』(中外医学社、2023年)

「今までと違う」と感じたら早期に受診を

「今までと違う」と感じたら早期に受診を

MCIの段階で認知機能の低下に対処するためには、「物忘れが増えてきた」「今まで問題なくできていた作業に時間がかかるようになった」など、患者さんご自身やご家族が日常生活での変化を感じた段階で、認知症や物忘れを診てくれる精神科や脳神経内科、認知症外来や物忘れ外来を受診するとよいでしょう。日本認知症学会日本老年精神医学会日本認知症予防学会のWebサイトには、専門医の一覧が掲載されています。

医療機関では、先述の診断基準に照らし合わせて判断するほか、認知機能検査(スクリーニング検査)を併用することもあります。脳の血流検査や、MRIなどの画像検査を実施する場合もあります。認知機能が低下して認知症になると、脳の萎縮や血流低下がみられるようになります。MCIの段階では、脳の萎縮がみられないことも多いですが、脳の血流は低下している場合があります。また、画像検査によって、脳腫瘍などの病気が原因で認知機能が低下していることが分かるケースもあります。

認知機能の低下は、脳腫瘍など脳の病気のほか、うつ病、睡眠時無呼吸症候群、甲状腺機能の異常などによっても生じる場合があります。飲んでいる薬の影響で認知機能が低下することもあります。このようなケースでは、病気の治療や薬の調節などによって認知機能の回復が期待できるため、早期に受診して原因を探ることが大切です。

加齢を進める要因を減らして、進行を抑えよう

加齢を進める要因を減らして、進行を抑えよう

認知機能は加齢に伴って低下するため、MCIから認知症への移行を防ぐためには、「加齢を加速させる要因を減らす」ことが大切です。

例えば、高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、血管の老化ともいえる動脈硬化を進め、認知症のリスクを高めることが知られています。減塩を含めたバランスの良い食生活や運動習慣が大切です。ただし、高齢者は他にも病気を抱えていたり薬を飲んだりしていることが多く、食事や運動に関して個別のアドバイスが必要となることもあります。どのような対策が望ましいのか、医師とよく相談しましょう。このほか、タバコや過剰なアルコール摂取も認知症のリスクを高めるとされています。アルコールに関しては、認知機能低下の直接的な原因になることもあり、断酒することで認知機能が回復するケースもあります。

また、「脳トレ」に取り組む、趣味に打ち込むといった知的活動も効果的だと考えられています。自主的に楽しく行えるものを見つけるとよいでしょう。地域の活動に参加する、友人と定期的にコミュニケーションを取るなど、社会活動への参加や対人交流も大切です。その際、難聴があるとコミュニケーションの妨げになるほか、難聴は認知症のリスク因子であることも分かっています。聞こえが悪い場合は耳鼻咽喉科を受診し、早めに補聴器を使うなど対策を始めましょう。

関連記事:「認知機能にも影響?40歳から知っておきたい、加齢に伴う聴力の変化」

また、地域包括支援センターに相談してみるのも一案です。地域内の介護や福祉の相談窓口である地域包括支援センターは、介護保険の申請窓口にもなっています。MCIの段階では日常生活に大きな支障がないため、介護保険の対象となることは考えにくいですが、誰でも参加できる健康体操講座など、健康維持や社会活動のきっかけになるような情報を教えてくれるかもしれません。

監修者プロフィール
内門 大丈先生(メモリーケアクリニック湘南 院長)

【内門大丈(うちかど ひろたけ)先生プロフィール】

メモリーケアクリニック湘南 院長
医学博士、横浜市立大学医学部臨床教授。1996年横浜市立大学医学部卒業。2004年横浜市立大学大学院博士課程(精神医学専攻)修了。大学院在学中に東京都精神医学総合研究所(現:東京都医学総合研究所)で神経病理学の研究を行い、2004年より2年間、米国ジャクソンビルのメイヨークリニックに研究留学。2008年横浜南共済病院神経科(現:精神科)部長、2011年湘南いなほクリニック院長を経て、2022年より現職。レビー小体型認知症研究会(世話人、事務局長)、N-Pネットワーク研究会(代表世話人)、湘南健康大学(代表)、日本認知症予防学会神奈川県支部(支部長)などでの取り組みを通じて、認知症に関する啓発活動・地域コミュニティの活性化に取り組んでいる。近年では、SHIGETAハウスプロジェクト(一般社団法人栄樹庵理事)、一般社団法人日本音楽医療福祉協会(副理事長)の創設にも関わる。

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