この頃、物忘れが増えたなあ。これって、もしかして認知症の始まり!? 認知症の予防法ってあるの?
「物忘れ=認知症」ではない
物忘れが増えてくると、認知症ではないかと不安になる人が多いようですが、物忘れは正常な脳の老化でも現れます。年を重ねると筋肉量が落ちるように、脳の機能も落ちていきます。加齢とともに物忘れが増えるのは、ある程度しかたのないことです。
ところが、認知症の物忘れには、正常範囲の物忘れとは異なる大きな特徴が。それは、何かをしたこと自体が、記憶から抜けてしまうことです。
例えば、「朝食に何を食べたか」を聞いたとき、食べたものは忘れていても、食べたこと自体は覚えている。これが正常範囲の物忘れです。しかし、認知症になると、食べたこと自体も忘れてしまうのです。1週間前に行った旅行や、誰かと交わした約束なども、「行ったこと」自体を忘れてしまったりします。
ほかに、今までできていた家事ができなくなったり、好きだった趣味にも興味を示さなくなるなどの症状が出ることもあります。
多くを占める「三大認知症」
認知症とは病名ではなく、脳の機能低下によって起こる特定の状態を指す言葉です。認知症を引き起こす病気はいろいろありますが、代表格はアルツハイマー病、血管性の病気、レビー小体病です。これらの病気が進行して日常生活に支障を来すレベルになると、「認知症」と診断されるのです。それぞれ、「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」と呼ばれ、この3つは「三大認知症」とされています。
アルツハイマー型認知症では、「アミロイドβ」というたんぱく質が脳内にたまって「老人斑」という物質を形成し、それが神経細胞に障害を与えて脳が萎縮していくと考えられています。忘れっぽくなるといった認知機能の低下や、物事への興味の喪失、物事の段取りがうまく取れなくなるなどの症状が出ます。アルツハイマー型認知症が、認知症の大半を占めます。
レビー小体型認知症は、「αシヌクレイン」というたんぱく質が脳内にたまり、徐々に脳機能に障害が起こるもの。やはり認知機能の低下が見られますが、良いときと悪いときの差が激しいという特徴があります。また、実際には存在しないものが見える「幻視」や、表情の変化が乏しくなるなどの症状を伴うことも。アルツハイマー型認知症とは違い、物忘れは初期には目立たないことが多いです。
血管性の病気は、脳梗塞や脳出血などです。血管性認知症では、梗塞や出血の起きた部位の脳機能に障害が起き、認知機能の低下が起こります。手足の麻痺や言語障害などを伴うことも。他の2つが徐々に進行するのに対し、ガタンガタンと階段状に症状が悪化するのが特徴です。
これらの認知症は、単独でなく、合併して発症することもあります。
それ、もしかしたら認知症かも
次のような症状があったら認知症になりかけているかもしれません。チェックしてみましょう。
- 忘れっぽくなってきた。忘れたこと自体も忘れている
- 今までできていた家事が、うまくできなくなった
- 趣味に興味を全く示さなくなった
- 暴力を振うようになった
- 物を盗まれた、夫(妻)が浮気しているなどと思うことがある(実際は違うと周囲に指摘される)
- 他の人には見えないものが見えることがある(特に夜間)
- 同じ話をしつこく繰り返すことがある
自分でこれらの変化を感じた際はもちろん、周囲の人に指摘された場合、また、夫(妻)や親などにこうした症状が見られた場合も、早めに専門医を受診してください。認知症だと診断された場合は、専門医の指導のもと、薬での治療を行なったり、今後の見通しを早めに立てることで対応が後手に回らないようにしましょう。また、ご家族も介護の仕方などの指導を受けることで、被害妄想や徘徊など、認知症の発症に伴って出てくるおそれのある困った症状をできるかぎり予防することができます。まずは、かからないように、また発症してから生活への影響をできるだけ小さくするために、以下の点に気をつけてください。
生活習慣病を治療する
認知症は、糖尿病、高血圧、高脂血症にかかっている人のほうが発症しやすい傾向があります。これらはみな、血管にダメージを与える病気。脳の血管が傷み、栄養の供給や老廃物の回収が滞れば、アルツハイマー病などにつながることも。
また、脳梗塞などを起こせば、血管性認知症になる恐れがあります。生活習慣病を抱えている人は、まずその治療をしっかり行なうことが認知症予防のうえでも大切です。
適度な運動を習慣に
認知症予防には、適度な運動も大切。生活習慣病予防にもなります。目安としては、1回1時間以上の、息が上がる程度の運動を、週2回以上行なうと有効とされています。ウォーキングなら、話すのがややツラいくらいの早歩き。ひざなどに痛みがある人は、プールで水中ウォーキングをしても。泳げる人は泳ぐのももちろんOKです。
バランスのよい食事を
食事はバランスの取れたものを。和食や地中海式の食事もよいとされています。地中海式の食事とは、穀類、野菜、豆類、果物、魚、ワインなどがメイン、肉類摂取はわずかという特徴をもつもので、この地域の人たちは血管疾患にかかりにくいことがわかっています。
2つの食事で多く摂取される魚には、血液サラサラ効果のあるEPAや、脳の神経細胞を構成するDHAが豊富。また、野菜には、動脈硬化を予防する抗酸化物質などが豊富です。地中海式の食事で使われるオリーブオイルにも、抗酸化作用があるといわれています。
脂質、塩分、糖分の取りすぎを避け、生活習慣病予防も心がけてください。
役割や生きがいをもつ
自分の役割をもって生きがいを感じたり、人とコミュニケーションを取ったりすることも必要です。役割やコミュニケーションがないと、脳への刺激が減って脳機能が衰えるため、認知症を発症しやすくなるのです。自分の存在意義が感じられず、抑うつ的になることもあります。
ですから、仕事は可能であれば続け、また、例えばお孫さんの面倒を見る、町内会の役員をするなど、何でもよいので自分の役割を見つけましょう。習い事や趣味も、生きがいを持つという点で有効です。
パターン化した生活を送る
先にもお話ししたように、生活に支障がなければ認知症とはいいません。生活に影響が出てくる認知症では、日常に変化があると対応が難しく、混乱しやすくなります。ところが、決まったパターンがあると、ベルトコンベアーに乗るように一連の行動をこなし、問題なく日常生活を送れることもあります。少し、認知症らしき症状が出始めたという人は、三度の食事時間を決める、デイサービスに行くにも曜日と時間を決めるなど、極力、生活をパターン化すると、生活に対する影響を小さくすることができます。
とにかく早期発見が重要
多くの病気に言えますが、認知症でも早期発見が大切です。現在のところ、認知症の原因疾患を根本的に治す方法は残念ながらありません。でも、認知症に至る前段階で気づいたり、すでに認知症に発展してしまっていても、早い段階で気づいたりすれば、これまで述べたような手段や薬を使って症状の進行を遅らせ、自分らしい生活を維持する期間を延ばすことができます。
また、より軽症のうちに気づくことで、最終的な治療方針やお金の問題など、大事なことに自分の意見を反映しやすくなります。
ですから、少しでも気になる症状が見られたら、専門医を受診してください。早期であればあるほど診断が困難な場合が多いので、専門医の受診をお勧めします。
認知症になっても、打てる手はいろいろあるのね。おかしいなと思ったら、早めに病院に行かなくちゃ。