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認知機能にも影響?40歳から知っておきたい、加齢に伴う聴力の変化

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監修/岩崎 聡先生(国際医療福祉大学三田病院医学部教授、耳鼻咽喉科 聴覚・人工内耳センター長)

年齢を重ねるとともに耳が聞こえにくくなる「加齢性難聴」。自分自身が自覚する前に「高齢の家族の耳が遠くなっていて気になる」というケースも少なくありません。難聴は認知症とも深く関連します。家族のために、そして将来の自分のために、加齢に伴う聴力の変化とその対策について知っておきましょう。国際医療福祉大学三田病院医学部教授、耳鼻咽喉科 聴覚・人工内耳センター長の岩崎聡先生に伺いました。

聴力の低下は認知症のリスクに

加齢による聴力の低下は、一般的に40~50代で始まります。周波数の高い音域から聞こえにくくなり、徐々に聞こえにくい音域が広がっていきます。例えば、モスキート音と呼ばれる蚊の羽音のような高音域は、子どもや若者にしか聞こえないと言われますが、このような高音域の音は通常の言葉の周波数とは異なるため、聞こえなくても自覚はありません。多くの人は、ほとんどの音域で聴力が低下する70~80代になって初めて、聞こえにくさを自覚します。

加齢以外に原因がない難聴を「加齢性難聴」といい、次の3つの要素から成り立ちます。

  1. 1  音が小さく聞こえる
  2. 2  音がひずんで聞こえる
  3. 3  (音は聞こえても)何を言っているのか理解できない

このうち、1と2は、内耳(蝸牛)の中にある音を感じる細胞(有毛細胞)が加齢によって壊れることで起こります。3は脳の老化によって起こる現象です。加齢性難聴は、耳と脳の老化が合わさって生じるのです。

有毛細胞が壊れると、耳鳴りを伴うことも多くあります。中には、聞こえが悪くなるよりも先に加齢性難聴の初期症状として耳鳴りが発症する場合もありますので、持続する耳鳴りが気になる場合は耳鼻咽喉科を受診しましょう。

聞こえが悪くなれば、生活にさまざまな影響が出てきます。相手の言葉を聞き返すことが多くなると、コミュニケーションが取りづらくなり、会話の機会が減っていきます。その結果、自信がなくなったり、ひどい場合は孤立してうつ状態に陥ったりすることもあります。言葉だけでなく環境音の影響も重要です。例えば、後ろから車が近づいてきたなどの危険を察知できずに驚いて転倒してしまうなど、生活環境におけるリスクも増えます。

いろいろな音情報が届くということ自体が、脳の機能にとって重要です。会話の頻度や新たな環境に遭遇する機会が減ると、耳から入る情報量が減ってきて、脳の老化を招きます。実際、難聴は認知症の危険因子であることが分かっています。「耳からの情報が脳全体を活性化している」ということを、ぜひ理解しておいてください。

加齢性難聴に早く気づこう

加齢性難聴が疑われる場合、耳鼻咽喉科では、いくつかの周波数の音をヘッドフォンから流して聞こえたらボタンを押す「聴力検査」と、どの程度の音量で言葉を正しく認識できているかを調べる「語音検査」などを行います。最近は難聴があれば認知症の検査も併せて行うことがあります。

多くの人が難聴を自覚する70~80代よりも明らかに早くから難聴がみられる場合は、加齢性難聴以外の病気が疑われます。例えば、若年性の遺伝性難聴である「若年発症型両側性感音難聴」があります。これは、遺伝子変異によって10~30代に発症し、40~60代に聞こえにくさを自覚するという、一般よりも20~30年早く進行するタイプの難聴です。従来は加齢性難聴の一部として扱われていましたが、現在は遺伝子検査の進歩によって早期発見ができるようになりました。若いうちから自他ともに明らかに耳が遠いと自覚するときは、こうした遺伝的体質を持っている可能性を考えて耳鼻咽喉科を受診しましょう。

●加齢性難聴に早く気づくために知っておきたいポイント

  • テレビの音量が大きい
  • 外に出なくなり、ひきこもりがちになった
  • 電子機器、家電の音に気づかない
  • 聞き返すことが多くなった
  • ものを置き忘れることが多くなった
    (認知症のおそれがあるとともに、難聴も生じている可能性がある)

生活習慣を改善して加齢性難聴の進行を予防

加齢性難聴の直接的な原因は加齢ですが、進行や悪化にはその他の要因が絡んでいることがあります。できるだけ若いうちからこういった要因を取り除くことで、将来の加齢性難聴の進行を遅らせることが大切です。

要因の中でも多いのは、騒音による「音響外傷」です。例えば工事現場など騒音環境下で仕事をしている人は難聴が起こりやすくなります。職業柄、騒音環境下に置かれる機会が多い人は、耳栓を使いましょう。家族が難聴でテレビの音量をいつも大きくしていると、一緒に生活している他の家族にも早く難聴が起きてしまうことがあります。近年は、イヤホンで大音量の音を聞くことで内耳の有毛細胞が壊れてしまう「イヤホン難聴」の増加も問題となっています。加齢にこうした環境要因が加わることによって、早くから難聴が発症する可能性も考えられますので、注意が必要です。イヤホンを使う場合は、ノイズキャンセリング機能のあるものを使うと、音量を大きくしなくても聞こえやすくなります。

糖尿病も難聴のリスクを高めることが分かっています。糖尿病があると、動脈硬化、血流障害、代謝障害などによって神経の機能が低下します。聴力にかかわる神経も衰えるため、難聴につながると考えられます。食事や運動に気をつけることが、難聴予防にもなります。血流を良くするための運動としては、ウォーキングなどの有酸素運動がおすすめです。息を止めるような無酸素運動や浅い呼吸は血流を悪くします。ゆっくりと深い呼吸を心がけましょう。

早めに補聴器を使って脳をトレーニング

加齢性難聴は耳と脳の老化が複合して発症します。このうち耳の老化に関しては、有毛細胞が一度壊れてしまうと、現代の医療では再生ができないため、根本的な治療法はありません。補聴器で聴力を補いながら、少しでも進行を抑えるという対応が重要になります。

従来は、難聴が進んでから、周辺の環境音や会話の聞き取りのために補聴器を使うのが一般的でしたが、近年は、難聴が脳機能と関連することに着目し、脳の活性化を促すために早くから補聴器を使う時代になってきています。少しでも聞き取りづらさを感じるようになったら、一度耳鼻咽喉科で相談するとよいでしょう。脳機能トレーニングのためのツールという位置づけで、認知症の予防にもつながります。食事や運動などと同様に、健康を保つ習慣の一つとして補聴器を取り入れ、体のトレーニングと同じ感覚で日々継続することが大切です。補聴器の装着時間やトレーニングの内容は耳鼻咽喉科医の指導のもと、状態に応じて見極めていく必要がありますが、通常は1日に90~180分ほど装着することから始め、音読や速読などを通して、脳のさまざまな機能を使用するトレーニングを行います。

なお、補聴器をつけて少しでも聞こえがよくなれば、効果があったと思って満足してしまいがちですが、その人の状態に合わせて細かい調整が必要であることも知っておいてください。補聴器を作ったら、耳鼻咽喉科で「補聴器適合検査」を受け、主治医の指示とデータをもとに、補聴器店でさらなる調整をしてもらうことが大切です。

補聴器の音に慣れるとともに、言葉を使ってコミュニケーションを取ること自体に重要な意味があります。家族や友人と会話する、積極的に外出や趣味を楽しむといった意欲的な生活は老化の予防に直結します。家族や周囲の人は、「ゆっくり、はっきり話す」「顔を見て話す(なるべく口を見せる)」「ジェスチャーを交えて話す」ことなどを意識し、円滑なコミュニケーションをサポートしたいものです。

補聴器を使っても聞き取りが難しい場合や、遺伝性の難聴が関係している場合など、高度(70デシベル以上)の難聴になると、人工聴覚器手術が適応になる場合があります。手術はより短時間で負担が少なくできるように技術が進歩しており、最近はハイブリッド型人工内耳(補聴器と組み合わせた残存聴力活用型人工内耳)などの手術も、対象となれば保険で受けられるようになりました。今後は人工聴覚器手術がより身近になっていくでしょう。聞こえが悪くても、あきらめずに、さらなる治療法がないか専門医に相談してみましょう。

監修者プロフィール
岩崎 聡先生(国際医療福祉大学三田病院医学部教授、耳鼻咽喉科 聴覚・人工内耳センター長)

【岩崎聡(いわさき さとし)先生プロフィール】

国際医療福祉大学三田病院医学部教授、耳鼻咽喉科 聴覚・人工内耳センター長
医学博士。三重大学医学部卒業後、浜松医科大学耳鼻咽喉科学教室入局。米国ハウス耳科学研究所留学。浜松医科大学耳鼻咽喉科講師、愛知医科大学耳鼻咽喉科教授、信州大学医学部人工聴覚器学教授を経て、2013年より現職。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会認定耳鼻咽喉科専門医、日本人類遺伝学会認定指導医・臨床遺伝専門医、日本耳科学会認定耳科手術暫定指導医。

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