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太陽光からの予防や最新レンズでの矯正に注目! 近視治療の最前線

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監修/荒井 宏幸先生(クイーンズアイクリニック院長)

スマートフォンなどのデジタルデバイスの普及に伴い、世界的に急増している近視。進行すると失明につながるような深刻な目の病気を引き起こす可能性もあるといわれています。近年ではさまざまな研究が進み、新しい予防法や視力の矯正方法などが登場。クイーンズアイクリニックの荒井宏幸院長に、近視の注意点、予防法から最新治療までを伺いました。

近視が進行すると失明する恐れも!?

近視の人口は世界的に急増しています。オーストラリアのブライアン・ホールデン視覚研究所による2016年の発表(※1)では、2010年に19億5047万人だった世界の近視人口が、2050年には47億5769万人に達すると推計されています。

(※1)Brien A. Holden et al.2016,Ophthalmology123(5):1036-1042

近視でも眼鏡やコンタクトレンズを着用すれば日常生活には特に支障がないので問題ないと考える人は少なくないかもしれませんが、油断は禁物です。

私たちの目は、力を入れずにナチュラルな状態で、いちばん遠くが見えます。そこに、オートフォーカスカメラのようなピント合わせの機能が備わっています。リラックスしている状態では、目のレンズである水晶体が薄い状態ですが、近くを見るときには水晶体の周囲の筋肉が緊張して水晶体の厚みをふくらませて近くに焦点を合わせます。これを「調節」といいます。

■目の構造

リラックスした状態で遠くのものが見えるということは、リラックスした状態で、網膜で焦点がきちんと結ばれているということです。これを「正視」といいます。

一方、近視の場合は、手前のものはよく見えるものの、遠くのものはぼやけて見えません。これはどうしてかというと、眼球の奥行き(眼軸長)が伸びて、眼球が長くなってしまうことにより、網膜でピントが合わなくなってしまうのです。
ちなみに遠視の場合は、目の奥行き(眼軸長)が短く、ピントの合う位置が網膜より後ろになってしまいます。ただ、若いうちは、先ほどの「調節」の力で水晶体を厚くして、ピントを近くに寄せることができるため、遠視と気づかないことも多く、視力検査で2.0など目の良い人は軽い遠視の場合があります。

■近視、正視、遠視の違い

近視:眼球の奥行き(=医学用語で「眼軸」といいます)が長い。
遠視:正視の人に比べて眼球の奥行きが短い。

(図)『「よく見える目」をあきらめない 遠視・近視・白内障の最新医療』荒井宏幸著(講談社)より引用

眼球の前後の長さ(眼軸長)が延長する要因はまだはっきりとはわかっていませんが、いくつかの研究が進んできています。眼軸長が0.5mm~1mm程度伸びただけでも近視になりますが、2mm、3mmと伸びると「強度近視」と呼ばれる状態になります。中にはもっと伸びてしまう例もあり、眼鏡やコンタクトレンズを着けてもものが見えにくくなるほか、眼球と網膜が引き延ばされたことによる緑内障や網膜剥離といった目の病気のリスクが高まる可能性があります。これが近視の怖いところです。視力だけでなく、眼軸長もしっかりと調べて経過観察をする必要が近年指摘されています。

近視は発症年齢が低い程進行しやすいといわれ、過度に眼軸長が伸展し強度近視になると、緑内障、黄斑変性症、網膜剥離の発症リスクが高まります。重篤な視力障害の原因疾患では、近視性黄斑変性がもっとも頻度の高い疾患といわれています。

「太陽光」が近視予防のカギ

近視が急増している要因の一つとして考えられているのが、スマートフォンやパソコン、ゲーム機などを間近で長時間見続けるライフスタイルの普及です。

特に子供の近視の増加は世界的に問題になっており、日本でも小学生の34.57%、中学生の57.47%、高校生の67.64%が裸眼視力1.0未満であることが文部科学省の調査で分かっています(※2)。

(※2)文部科学省「令和元年度学校保健統計(学校保健統計調査報告書)」

子供の近視は成長とともに進むため、強度近視になる率も高くなります。つまり、子供の近視は将来的な目の健康のために注意すべき問題といえます。また、以前は成人すれば近視は進まないといわれていましたが、近年は大人でも近視が進むことが報告されており、大人になって発症する例もみられます。デスクワークの仕事に就いて一日中パソコンのモニターを見続けるような生活を続けていれば、徐々に近視へと進行する可能性は否めません。何か対策はないのでしょうか。

実は、「屋外で過ごす時間が長いと近視になりにくい」ということが世界の近視研究でわかっています。屋外で体を動かすことや遠くを見ることが目に良いのは想像がつきますが、最も影響しているのが「太陽光」にあたることだと科学的には指摘されています。さらに、日本の近視研究チームが、画期的な研究成果を発表しました。太陽光に含まれる「バイオレットライト」に近視を予防する効果が期待できると報告したのです。

バイオレットライトとは太陽光に含まれる可視光で、紫外線にいちばん近い短い波長を持つ紫色の光です。

このバイオレットライトが目に入ると、近視の進行を抑えると考えられている遺伝子「EGR1」が活性化されることが、慶應義塾大学医学部眼科学教室の研究(※3)で分かり、研究が進んでいるのです。

(※3)Torii H et al.2017. EBioMedicine.Feb(15):210-219

日常生活では屋外での活動を増やし、太陽光を浴びる機会を積極的に持ちたいもの。ただし日焼けや熱中症対策も必要なので、長時間になりすぎないよう安全面を親がサポートしつつ、屋外でスポーツやレジャーなどを楽しむのもよいでしょう。日中であれば木陰や日傘の使用もOKで、曇りの日でも効果はあるそうです。ただし、窓ガラスは紫外線とバイオレットライトを遮断してしまうので、室内では、窓を開けないとバイオレットライトは得られません。

また、スマートフォンやパソコンなどを見続けて目の疲れを感じたりしたときには、意識的に遠くを眺めて目を休ませることも忘れずに。近くを見るために毛様体筋(ピントを合わせる働きを持つ目の筋肉)が収縮しっぱなしとなることも近視のリスクを高める一因と考えられています。遠くを見ることで筋肉の緊張をほぐし、硬直を防ぐことが大切です。

日中、裸眼で過ごしたい人注目の最新レンズとは

「近視だけれど、日中はできれば裸眼で過ごしたい」。最近はこうしたニーズに応える「オルソケラトロジーレンズ」という新しいハードコンタクトレンズを使った治療法も注目されています。夜、この専用のレンズを装用したまま就寝し、朝起きたらレンズを外すだけ、と使い方は簡単です。

なぜ日中、裸眼でもよく見えるようになるのかというと、オルソケラトロジーレンズが角膜を平らな形状に矯正してくれるため。これにより目に入った光の屈折の仕方が変わり、網膜上でピントが合うようになるのです。

レンズを外した後も効果は一定時間続きますが、レンズの使用を止めれば角膜は元の状態に戻るので、近視そのものを改善するものではありません。

なお、近視の強さや重度のドライアイなどこの治療法が不向きな人もいるので、オルソケラトロジー治療が可能かどうか知るためには、眼科専門医による適性検査を受ける必要があります。また、治療中は感染予防に十分配慮し、定期的な受診が必要です。治療の費用なども眼科によって異なるので、かかりつけ医などに相談しましょう。

永続的な視力矯正を望むなら手術を選択肢に

ドライアイやアレルギー性結膜炎などでコンタクトレンズが使えない、左右の視力に差があり、眼鏡では矯正が難しい、といった悩みを持つ軽度~中等度(※4)の近視の人には、屈折矯正手術(レーシック)が選択肢の一つになります。 

(※4)中程度近視は、近視の強さを表す屈折値(ジオプター)が-3D以上-6D未満であること。-6D以上は強度(高度)近視にあたる。

レーシックとは、角膜をレーザーで削り、角膜の形状を変えることで近視をはじめ、遠視や乱視などを矯正する手術です。角膜を削る前にフラップと呼ばれるふたのようなものを角膜の表面に作っておくことで、手術後の傷を保護します。痛みが少なく、視力の回復が早いのが大きなメリットの一つです。

ただし、角膜の厚みには個人差があり、もともと薄い人の場合は矯正できる量が限られます。視力が同じであっても手術に適応できる状態かどうかは人によって異なるので、事前にきちんと検査を受け、医師とよく相談する必要があります。

また、レーシックが可能と判断された場合でも、近視が強い場合は角膜を削る量が増える傾向にあります。

角膜の薄い人や中等度以上の近視の人に適しているのが、「眼内コンタクトレンズ」とも呼ばれている眼内レンズの治療です。これは手術によりレンズを角膜の内側に装着する治療で、角膜を削ることなく近視を矯正することができます。手術後すぐに視力が回復し、コンタクトレンズのような異物感はなく、付け外しのわずらわしさもなくなります。また、前述のオルソケラトロジーのように一定時間の効果ではなく、ほぼ永続的にメンテナンスなしで近視を矯正することが可能です(定期的な術後検診は必要です)。

■近視の治療方法(いずれも医師とよく相談する必要があります)

適切な予防と治療で、「よく見える目」を保っていきましょう。

監修者プロフィール
荒井 宏幸先生(クイーンズアイクリニック院長)

【荒井 宏幸(あらい ひろゆき)先生プロフィール】

医学博士。日本眼科学会認定眼科専門医。1990年防衛医科大学校卒業。同大学校附属病院の眼科航空自衛隊医官、自衛隊中央病院眼科および国家公務員共済組合連合会三宿病院眼科勤務、岡田眼科眼科部長などを経て、98年よりクイーンズアイクリニック院長。同年みなとみらいアイクリニック主任執刀医に就任。2010年より医療法人社団ライト理事長。防衛医科大学校非常勤講師も務める。『「よく見える目」をあきらめない 遠視・近視・白内障の最新医療』(講談社)など著書多数。

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