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使いすぎだけではない!?手の痛みの原因と対処法

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監修/大井 宏之先生(聖隷浜松病院手外科・マイクロサージャリーセンター長)

近年、手の痛みに悩んでいる人が多いといわれています。パソコンやスマートフォンの長時間利用が要因として指摘されることもありますが、手を酷使しなくても痛みが生じる病気も多く、症状、原因ともにさまざまです。手の痛みから考えられる代表的な病気と対処法について、聖隷浜松病院手外科・マイクロサージャリーセンター長の大井宏之先生に伺いました。

指や手首に痛みが出る「腱鞘炎」

指や手首に痛みが出る「腱鞘炎」

手が痛む病気は多く、指が痛むもの、手首に痛みが出るもの、しびれが生じるものなど、症状や発症部位は病気によってさまざまです。手が使いづらい状態になると、仕事や家事など日常生活のあらゆる動作に支障をきたすため、どのような病気があるのかを知り、早めに対処したいものです。日常生活に影響があると感じたら、整形外科を受診するとよいでしょう。

指の痛みが生じる病気の一つが腱鞘炎(けんしょうえん)です。腱は、筋肉と骨をつなぐひも状の組織で、指を曲げ伸ばしする際に重要な役割を果たします。腱が通過するトンネルのような組織が腱鞘で、腱が腱鞘の中を往復するように移動することで指を動かしています。腱鞘炎は、何らかの原因で腱と腱鞘がこすれて炎症が起こり、痛みが生じる病気です。

腱鞘炎は、発症部位により病気の名前や症状が異なり、次のようなものがあります。

ばね指

指に生じる腱鞘炎を「ばね指」といいます。指の付け根で腱と腱鞘の炎症が起こると、腱鞘が腫れて厚くなり、腱が締め付けられます。締め付けられた部分の腱はやや細くなる一方、その前後の部分が相対的に腫れ、腱が腱鞘に引っかかるようになり、指の曲げ伸ばしがしにくくなります。このような状態で指を動かそうと力を入れると、指がばねのように跳ね上がる「ばね現象」が起こります。

親指の場合 腱の腫れた部分が腱鞘に引っかかり、指の曲げ伸ばしがしづらい。無理に指を動かそうとすると、ばねのように跳ね上がる。ばね現象が生じ、痛みが出る場所。

ドケルバン病

手首の親指側で生じる腱鞘炎を「ドケルバン病」といいます。親指を動かしたときに痛みが出るほか、手首の親指側に腫れや熱っぽさが生じることもあります。手首を曲げた状態で親指を動かす動作を続けると、特に手首の腱鞘に負担がかかりやすいと考えられています。痛みが悪化すると、ものをつかんだり、タオルを絞ったり、重いものを持ったりといった日常的な動作がつらくなります。

腱 腱鞘

腱鞘炎は、1日中パソコンで入力作業をする人や、スマートフォンを片手で長時間操作する人、楽器を演奏する人、スポーツをする人など、手を酷使することで発症しやすいとされていますが、手を酷使していなくても腱鞘炎を発症することがあります。妊娠中や産後、閉経期の女性は腱鞘炎になりやすく、女性ホルモンとの関連が考えられています。特に産後は、女性ホルモンの分泌の変化に加え、首のすわっていない赤ちゃんの頭を支えたり抱き上げたりすることで手首に大きな負担がかかるため、ドケルバン病を発症しやすいといわれています。また、糖尿病の人も腱鞘炎を発症しやすい傾向にあります。

腱鞘炎になった場合は、できるだけ手を休めることが大切です。手を酷使するような作業は避け、手を1時間使ったら必ず10分は休憩を挟むなど、無理をしないようにしましょう。ただし、指をまったく動かさないのは逆効果です。関節が固くなり、かえって指を動かしにくくなることがあります。

医療機関では、症状が軽い場合は消炎鎮痛剤(湿布や塗り薬)を処方します。痛みが強い場合は、腱鞘にステロイド注射をすることもありますが、再発することも多く、頻繁に注射すると感染や腱が弱くなるというリスクもあります。改善しない場合は、日帰り手術で腱鞘を切開する方法もあります。

神経の圧迫によりしびれが生じる「手根管症候群」

神経の圧迫によりしびれが生じる「手根管症候群」

手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)も、手に症状の出る代表的な病気です。痛みだけでなく、しびれや感覚の鈍さも生じるのが特徴です。

手根管は、手首の内側(手のひら側)にあり、腱と神経(正中神経)が通るトンネルのような組織です。手根管に炎症が起こると神経が圧迫されるため、痛みやしびれなどの症状が出ます。正中神経は、親指、人差し指、中指、薬指(一部分)の指先まで伸びているため、これらの指に症状が出る一方、小指には症状が出ません。夜間や明け方に痛みやしびれが強くなる人もいますが、手首を振るようにすると改善するのも特徴の一つです。症状が進行すると、親指の付け根部分の筋肉が萎縮することがあり、そうなるとものをつまむ、服のボタンをかけるなどの動作が難しくなります。

しびれの範囲、正中神経、手根管、親指の付け根の筋肉が萎縮することも

手根管症候群の原因は明確になっておらず、必ずしも手の酷使が原因となっているわけではありません。腱鞘炎と同様、妊娠中や産後、閉経期の女性が発症しやすいことから、女性ホルモンが関係しているといわれています。糖尿病の人が発症しやすいとされているのも腱鞘炎と同じです。

手根管症候群にかかった場合の対処法も、腱鞘炎と似ています。手を酷使しないようにし、手を使う作業は1時間行うごとに10分の休憩を挟むようにしましょう。医療機関では、症状が軽い場合は消炎鎮痛剤(飲み薬)や、神経障害に使われるビタミンB12の飲み薬を処方します。夜間や明け方の症状に対処するため、寝ている間に手首を装具で固定する方法もあります。それでも症状が改善しない場合は、ステロイド注射で炎症を抑えたり、手術で手根管の上にある靱帯を切開して神経の圧迫を解消したりすることもあります。

手以外にも症状が出る「関節リウマチ」に注意

手以外にも症状が出る「関節リウマチ」に注意

他に、手に症状の出る病気としては関節リウマチがあります。関節リウマチは、手だけに症状が出る腱鞘炎や手根管症候群とは異なり、全身の関節などに症状の出る自己免疫疾患です。早期に発見して治療を行うことが大切です。

関連記事:「女性だけじゃない?関節リウマチの実態」

関節リウマチの場合、手首や指の関節に変形や腫れ、こわばりといった症状が出ます。手の関節に症状が出る病気としては、他に変形性指関節症があります。変形性指関節症は、指の関節にある軟骨が加齢などの要因ですり減ることで炎症が起こり、関節の痛みや変形などをきたす病気です。ただ、変形性指関節症の場合は、指先から数えて第1関節のみ、第2関節のみといったように、特定の関節のみに症状が出ますが、関節リウマチは指の複数の関節に症状が出ることがあるほか、手首や膝、足首など、指だけでなく全身の関節に腫れや変形が生じます。

とはいえ、関節リウマチによる症状には個人差があり、症状が出る関節の部位や数も人それぞれです。指の関節の腫れやこわばりなどがあれば、整形外科を受診しましょう。関節リウマチの場合、薬で病気の進行を抑える治療を行いますが、手の関節の症状に対しては、装具を使って関節の変形を予防することもあります。また、関節の変形が進んだ場合は、関節の手術や人工関節への置換のための手術などを行う場合もあります。

監修者プロフィール
大井 宏之先生(聖隷浜松病院手外科・マイクロサージャリーセンター長)

【大井宏之(おおい ひろゆき)先生プロフィール】

聖隷浜松病院手外科・マイクロサージャリーセンター長
1987年富山医科薬科大学(現・富山大学)卒業。長野県厚生連佐久総合病院整形外科、聖隷浜松病院 整形外科を経て、1997年より聖隷浜松病院手外科・マイクロサージャリーセンター。1998年米国Kentucky州Louisville, Christine M. Kleinert Institute for Hand and Microsurgery研修。日本整形外科学会整形外科専門医、日本手外科学会手外科専門医・指導医・専門医代議員・編集・用語委員会委員。

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