頭痛・風邪・熱
風邪の原因ウイルスを知って予防しよう!感染リスクを下げる方法
監修/市村 恵一先生(東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授)
異常気象や極端な寒暖差で、体調管理の難しさを実感する人も多いのではないでしょうか。いまや季節を問わず通年で気を付けたいのが風邪です。幅広い種類の総合感冒薬が市販されており、セルフケアでの対処も可能ですが、一方で「風邪は万病のもと」ともいわれています。風邪の原因となるさまざまなウイルスの特徴、悪化を防ぐための適切な対処法と予防法について「東京みみ・はな・のどサージクリニック」名誉院長の市村恵一先生に伺いました。
概要・目次※クリックで移動できます。
風邪の主な原因となるウイルス
鼻水・鼻づまり、咳、くしゃみ、発熱……。いずれも風邪においてよくみられる症状です。こうした症状を引き起こすウイルスは200種類以上も存在するといわれており、その中でも、医療現場で特に多く確認される4つのウイルスについて詳しく解説します。
ライノウイルス
ライノウイルスは、風邪の原因ウイルスの中で最も一般的なもので、くしゃみや咳の飛沫を吸い込んだり、ウイルスが付いた手で目や鼻、口を触ったりすることで感染するとされています。のどの痛みや鼻水、くしゃみ、咳などの症状が多くみられ、比較的軽いケースがほとんどです。
ストレスや疲労などで免疫力が低下していると、侵入してきたウイルスによって咽頭に広く分布する扁桃などのリンパ様組織や鼻粘膜が炎症を起こしやすくなります。したがって、風邪の初期症状を感じたら安静にして体を休めることが重要です。バランスの取れた食事や十分な睡眠で免疫力を高め、体力の回復に努めましょう。
コロナウイルス
ヒトが感染するコロナウイルスは、これまでに風邪の病原体として広くまん延している4種類と、動物から感染した重症肺炎ウイルス2種類が確認されており、従来から風邪の原因の10~15%を占める病原体として知られていました※1。主に冬場に流行することから、季節性コロナウイルスとして医療者に認識されており、いずれも症状が比較的軽く済むケースが多いのが特徴です。
コロナウイルスと聞くと、近年、世界的に流行した新型コロナウイルスを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。新型コロナウイルスは、発生当初は強い感染力と共に重症化するリスクが高く、世界的な感染拡大を引き起こしました。その後、ウイルス変異を繰り返す中で症状の特徴も変化しており、発生初期のような重症例はかなり少なくなっています。
※1:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き第9.0版」(https://www.mhlw.go.jp/content/000936655.pdf別ウィンドウで開きます)を2024年10月31日に参照
インフルエンザウイルス
ウイルスによる上気道の炎症を総称して「風邪」といわれますが、インフルエンザウイルスによる感染症は症状が重いので、特に「インフルエンザ」と呼び、区別されます。
風邪とインフルエンザはいずれも発熱を伴いますが、特徴が異なります。風邪の時は37〜38度程度で、微熱から徐々に上昇し、数日で下がるのが一般的です。一方、インフルエンザでは急激に38度以上となります。また、インフルエンザは、急激な高熱に加えて関節痛や筋肉痛、強い倦怠感などの全身症状が現れるケースが多いです。加えて、症状の急激な悪化や肺炎などの合併症リスクが高いため、抵抗力の弱い子どもや高齢者、免疫力の低下している人は特に注意が必要です。
関連記事:熱が出たら要チェック!風邪とインフルエンザの見分け方
RSウイルス
RSウイルス感染症は、主に乳幼児にみられ、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の子どもが少なくとも1度は感染するといわれています※2。潜伏期は2〜8日(典型的には4〜6日)程度とされています。発熱、鼻水といった上気道症状が数日続き、その後、咳や痰、息苦しさといった下気道症状が出現するのが特徴です。
RSウイルスは、乳幼児が発症する肺炎の約50%、細気管支炎の50〜90%を占めるという報告もあります※2。大人も感染することがありますが、比較的軽症で済むことが多いです。子どもや高齢者、免疫力の低下した人は重症化しやすいため注意が必要です。
※2:国立感染症研究所「RSウイルス感染症とは」(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/317-rs-intro.html別ウィンドウで開きます)を2024年10月31日に参照
ウイルスの感染経路と予防法
風邪の原因となるさまざまなウイルスは、どのようにして感染が広がるのでしょうか。主な感染経路と予防法について解説します。
飛沫感染と接触感染
風邪の感染経路は、大きく分けて飛沫感染と接触感染の2つが考えられます。感染している人が咳やくしゃみ、会話をした際に、病原体が飛び散り、それを近くにいる人が吸い込む、もしくは浴びることにより、口腔粘膜や鼻粘膜、目の結膜に付着して感染するのが飛沫感染です。飛沫は1~2m飛び散るので、2m以上離れていれば感染の可能性は低くなるといわれています。また、飛沫が直接かからないかぎり、空気を介しての感染はありません。
接触感染は、感染している人に直接触れる直接接触感染と、汚染されたドアノブや手すりを介する間接接触感染があります。ウイルスの付いた手で口、鼻、目を触ることで病原体が体内に侵入します。特に、ウイルスや細菌の多くは口から侵入しますので注意が必要です。
手洗いとマスク着用の重要性
手洗いは、病気の予防に役立つ基本かつ有用な衛生習慣です。石けんを使い、特に指先を、さらに指の間や爪の間までしっかり洗うことを心がけましょう。
マスクの着用は、ウイルスを含んだ飛沫を受けるのを防ぐだけでなく、ご自身が感染した風邪を人にうつさないという点でも有用です。また、マスクで口と鼻を覆うことにより、のどや鼻の粘膜を乾燥から守ることで保湿効果も期待できます。
適度な湿度とこまめな換気
湿度管理も風邪の予防には大切です。鼻やのどの粘膜の表面には粘液が層をつくり、潤いを保っています。湿度が低く乾燥状態になると粘液が減り、そこに細菌やウイルスが侵入しやすくなり、炎症が生じます。空気が乾燥する冬場や、冷房を効かせた夏場の室内も湿度が低くなりがちです。室内を適度な湿度(40~60%)に維持し、定期的に室内を換気して新鮮な空気を取り入れることも感染防止には大切です。加湿器や濡れタオルを使用して室内の湿度を適切に保つこと、定期的に室内を換気して新鮮な空気を取り入れることも感染防止にはおすすめです。また、就寝時に加湿器を使うことはのどの乾燥を防ぎ、良質な睡眠にもつながります。
免疫力を高める生活習慣
免疫力を高めるには、バランスのよい食事や適度な運動、質のよい睡眠が何よりも大切です。また、健康的な身体をつくるためには、規則正しい生活を送り、生活リズムを一定に維持しましょう。生活リズムのベースをつくる食事や睡眠も、ライフステージにより最適な量やかけるべき時間は異なりますが、大切なのは一度決めたらできるだけ同じ時間に食事を摂り、寝起きするよう努めることです。こうした習慣の積み重ねが風邪をひきにくい身体づくりにつながっていくのです。
心身のストレスは自律神経の乱れを招き、免疫力を低下させる原因にもなりますので、適度に発散し溜め込まないことも大事です。ストレスの発散法は人それぞれ異なるため、自分に合った方法を見つけましょう。
風邪の症状と対処法
インフルエンザ以外の風邪のひき始めは、セルフケアや市販薬で対処するという人も多いのではないでしょうか。風邪の典型的な症状を改めて確認し、適切なセルフケアの方法と、受診が必要なケースの見分け方を知っておきましょう。
典型的な風邪の症状
風邪の症状を引き起こすウイルスのうち、インフルエンザは症状が異なるため、分けて考えます。
風邪は、くしゃみ、咳、鼻水、鼻づまり、のどの痛みといった上気道症状が多くみられ、全身症状としては比較的軽いケースがほとんどです。発熱は37〜38度程度で、微熱から徐々に上昇し、数日で下がるのが一般的です。
一方、インフルエンザでは38度以上の高熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛や関節痛などが突然現れた後、咳、鼻水といった上気道症状が続き、約1週間で症状が改善するケースが多くみられます。
ここで述べた症状はあくまで典型例で、いずれの場合も、症状の程度や現れ方には個人差がありますので、気になる症状がありましたら自己判断せず医療機関を受診し、医師に相談しましょう。
安静と水分補給の重要性
風邪をひいたら、無理をせずゆっくり休養を取り、回復に専念するのが望ましいです。特に、高熱時は安静にすることが何よりも大切です。熱が下がってきたら、体を適度に動かして少しずつ元の生活リズムに戻していきましょう。しかし、熱が下がった直後は体力を消耗して疲れやすくなっているため、無理は禁物です。体力の回復度合いを見極めながら、ご自身のペースで過ごしましょう。
そして、水分補給も欠かせません。発熱による発汗では水分が失われるだけでなく、のどの痛みや鼻づまりなどの症状も加わって食欲が低下し、栄養バランスが崩れることもありますので、こまめな水分補給や消化のよい食事を心がけましょう。通常の水分補給はお茶や水で十分ですが、下痢や嘔吐があり脱水症状が強く出ている場合には経口補水液を使いましょう。
症状に合わせた市販薬の選択と使用法
市販の風邪薬は、総合感冒薬として発熱、頭痛、鼻水などさまざまな症状を全般的に和らげるのに役立ちます。使用時は用法・用量を守ることがとても大切です。普段から継続して服用している薬がある場合は、薬局の薬剤師に相談して飲み合わせによる副作用のリスクがないか確認しましょう。
医療機関の受診が必要な場合
風邪の症状が数日経過しても改善しない場合は医療機関の受診を検討しましょう。特に、38度以上の発熱が継続して3〜4日以上続いている、あるいは41度を超える場合は医療機関の受診をおすすめします。平熱よりもやや高い微熱が5日以上続く場合も注意が必要な目安として考えられます。高齢者、基礎疾患のある人は、上記よりも早めに受診しましょう。
体が小さく、抵抗力の弱い子どもは体温調節機能が未発達なため、ウイルスや細菌に感染した場合、大人以上に炎症反応が激しく、急激に体温が上昇することがあります。言葉の理解が難しい年齢の子どもは、全身が明らかに熱い、機嫌が悪い、ぐったりしているなど、状態からの判断が必要になりますので、普段と違う、または気になる様子を見逃さないようにしましょう。
風邪が長引く原因と注意点
ウイルスにより引き起こされた風邪の症状は、感染からおおむね5~7日間でよくなりますが、10日以上症状が続く場合、細菌に二次感染している可能性があります。粘り気のある色の濃い鼻水が出る、色の付いた痰が出る、頬のあたりや頭が痛むといった症状も注意したいサインです。
二次感染の可能性と予防法
風邪が長引く原因の一つに二次感染があります。これは、風邪が治りきらないうちに別の細菌に感染することです。風邪をひいていると免疫力が低下するため、別の病原体による新たな感染症にかかりやすくなります。例えば、長引くのどの痛みは、溶連菌感染症やマイコプラズマ肺炎などの細菌感染症である場合が考えられます。
風邪が治らないうちに無理をする、人の多いところへ行くのは二次感染のリスクを高めることになり、結果的に長期にわたる治療が必要になります。病原体をうつされない、あるいは、自らもうつさないためには、体調が完全に回復するまで無理をせず安静にすることが大事です。
慢性疾患のある人の特有のリスク
慢性疾患を抱えている人や高齢の人は免疫機能が低下しているため、合併症のリスクが高いと考えられます。特に、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や気管支喘息といった呼吸器疾患の人は、風邪やインフルエンザにかかると症状が悪化しやすいだけでなく、原疾患の症状が急速に悪化する(フレアアップ)こともありますので注意が必要です。
また、糖尿病の人は、血糖値が高くなることで白血球や免疫に関わる細胞の機能が低下してしまうため、ウイルスや細菌への抵抗力が弱くなっています。
長引く症状への対処法と受診の目安
咳が長く続くと、気管支炎や肺炎、咳喘息に移行している可能性があります。風邪の主な症状は上気道のものですが、長引くと下気道に症状が出ることも多いです。そうした場合は、より詳しく診察を受けて治療するためにも呼吸器内科の受診をおすすめします。
「ただの風邪」と考えず、気になる症状がみられる時は医療機関を受診し、医師に相談して適切な治療を受けることが大切です。
監修者プロフィール
市村 恵一先生(東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授)
【市村恵一(いちむら けいいち)先生プロフィール】
東京みみ・はな・のどサージクリニック名誉院長 自治医科大学名誉教授
1973年、東京大学医学部医学科卒業。同大学医学部附属病院耳鼻咽喉科、浜松医科大学耳鼻咽喉科を経て、1982年より米アトランタ市エモリー大学留学。帰国後、東京都立府中病院耳鼻咽喉科医長、東京大学医学部耳鼻咽喉科講師その後助教授、自治医科大学耳鼻咽喉科学教授、副学長、石橋総合病院院長などを経て、2019年より現職。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医、補聴器適合判定医(厚生労働省)。小児耳鼻咽喉科学会初代理事長。オスラー病鼻出血治療の第一人者。現在は主に補聴診療を担当。