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虫歯ではない歯の痛み、“非歯原性歯痛”とは

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監修/樋口 均也先生(ひぐち歯科クリニック院長)

虫歯の治療はしっかり済ませている、歯周病にもなっていない。それなのになぜか歯やあごなどに痛みを感じる……。このように、歯や歯周組織に問題はないのに歯痛が生じることを「非歯原性歯痛」といいます。どのような原因で起こり、どう対処すればよいのか、ひぐち歯科クリニック院長の樋口均也先生に伺いました。

非歯原性歯痛の8つの原因

非歯原性歯痛の8つの原因

虫歯や歯周病などではなく、歯や歯周組織には原因がないのに、歯に痛みを感じる状態を「非歯原性歯痛」といいます。歯だけでなく、口の中やあご、顔などに痛みが発生する場合もあります。

非歯原性歯痛の主な原因として、日本口腔顔面痛学会の「非歯原性歯痛の診療ガイドライン改訂版※1」では次の8つが挙げられています。

1.筋・筋膜痛による歯痛

食いしばりや噛みしめ、歯ぎしりなど、上下の歯を持続的に接触させるクセがある人に多くみられます。

実際に痛むのは食べ物を咀嚼する時に使う「咬筋(こうきん)」や「側頭筋(そくとうきん)」などの筋肉と、これらの筋肉を覆う筋膜ですが、痛みの原因から離れた場所が痛くなる関連痛として、歯に痛みを感じる場合があります。

2.神経障害性疼痛(とうつう)による歯痛

神経障害性疼痛には「発作性」と「持続性」の2種類があります。

  • 発作性神経障害性疼痛による歯痛
    発作性神経障害性疼痛の一種である「三叉神経痛(さんさしんけいつう)」による歯痛で、激しい痛みが生じます。発作性神経障害性疼痛とは、神経に障害が発生し過敏になることで、痛みの信号が出すぎてしまう状態をいいます。
  • 持続性神経障害性疼痛による歯痛
    代表的なものとして帯状疱疹性神経痛が挙げられます。これは帯状疱疹の経過中にウイルスが神経を破壊することで生じる神経炎の痛みで、ウイルスが歯の神経近くまで達することで歯痛が生じます。その後遺症である帯状疱疹後神経痛によっても歯痛が生じる場合があります。

3.神経血管性頭痛による歯痛

片頭痛や群発頭痛、発作性片側頭痛といった神経血管性頭痛の関連痛として、歯に痛みが生じる場合があります。群発頭痛の場合は、顎関節に痛みを感じるケースもあります。

4.上顎洞(じょうがくどう)疾患による歯痛

鼻の空気の通り道である鼻腔とつながる副鼻腔の中で、最も大きな空洞が上顎洞です。この部分に急性の炎症が起こると、関連痛や炎症がだんだんと広がって歯痛が生じることがあります。

5.心臓疾患による歯痛

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の場合、心筋からの関連痛として歯痛が生じることがあります。多くの場合は胸痛と歯や下あごの痛みが同時に起こりますが、胸痛がなく歯痛だけが起こるケースもあります。

6.精神疾患または心理社会的要因による歯痛

うつ病や不安症、統合失調症などの精神疾患がある場合や、心理社会的要因(ストレス)が加わった場合に生じる原因不明の歯痛です。

7.特発性歯痛

X線画像など検査では異常が認められないものの、慢性的な痛みが続く原因不明の歯痛です。70~83%が抜歯など歯科治療を契機に発症しています。

8.その他のさまざまな疾患による歯痛

悪性リンパ腫や上顎洞腫瘍などの病気が原因で歯痛が生じる場合があります。また、虚血性心疾患だけでなく、動脈解離や心膜炎などの心臓病や、肺がんなどの胸部疾患の関連痛として歯痛や上部顔面痛が生じる場合もあります。

※1:https://jorofacialpain.sakura.ne.jp/wordpress/wp-content/uploads/2019/08/4038ebae14e5cbe40d14611b63e02a7b.pdf(2023年2月24日参照)

不安やストレスが大きく影響する痛みも

不安やストレスが大きく影響する痛みも

また、近年では「痛覚変調性疼痛(つうかくへんちょうせいとうつう)」も、非歯原性歯痛の一種と考えられています※2

もともとは「心因性疼痛」と呼ばれていましたが、2021年に日本疼痛学会など痛み専門の国内8学会の連合により、この名称が決定されました。病気やケガなど明らかな原因がなくても長引く痛みには、脳の神経回路の変化が影響していることがさまざまな研究で分かってきています。

痛覚変調性疼痛の場合は激烈な痛みになることはまずありませんが、慢性的な痛みがずっと続くのが特徴です。また、不眠やうつ、食欲不振、感覚や味覚の異常といった症状を伴うこともあります。

※2:日本痛み関連学会連合用語委員会「Nociplastic painの日本語訳に関する用語委員会提案【要約版】」https://upra-jpn.org/archives/432(2023年2月24日参照)

気になる場合は、専門医のいる施設での診断を

気になる場合は、専門医のいる施設での診断を

非歯原性歯痛の原因について紹介してきましたが、簡単に自己診断できるものではありません。
また、「虫歯の治療はきちんとしているのだから問題ないだろう」などと考えて放置することも避けましょう。痛みがあるということは、体や心が何らかのサインを発しているということです。速やかに医療機関を受診しましょう。

ただし、専門医がいない医療機関では非歯原性歯痛の診断を行っていないことがあるので、かかりつけの歯科医師に事前に確認するのがおすすめです。

非歯原性歯痛の専門医、認定医がいる施設は下記のホームページで調べることができます。

●日本口腔顔面痛学会 専門医、認定医のいる施設

https://jorofacialpain.sakura.ne.jp/?page_id=2959(2023年2月14日参照)

非歯原性歯痛の場合でも、まず虫歯や歯周病、歯のひび割れなど、歯や歯周組織そのものに問題がないか、問診や視診、X線検査などで一通り調べます。そこで問題がなければ、前述の8つの原因のいずれかに該当しないか、一つひとつ調べ、鑑別します。

なお、自宅や職場などでつらい痛みを和らげたいという場合は、市販の鎮痛剤を服用するのも効果的です。用量や用法は説明書の指示を守りましょう。

頻度の高い「筋・筋膜痛による歯痛」は、セルフチェックが大切

頻度の高い「筋・筋膜痛による歯痛」は、セルフチェックが大切

前述の8つの原因のうち、一般的によくみられるのは1の「筋・筋膜痛による歯痛」です。
上下の歯を持続的に接触させるクセのことを「TCH(Tooth Contacting Habit)」と呼び、筋肉の緊張や疲労だけでなく、顎関節症や歯のひび割れ・欠け、頭痛、肩こりなどさまざまなトラブルを引き起こすことが分かっています。

食いしばりや噛みしめなどに心当たりがある人は、仕事の合間などに噛みしめて上下の歯が当たっていないかセルフチェックすると効果的です。口は閉じた状態で、歯は当たらない程度に少し離れているのがよいといわれています。

また、洗面所やキッチン、職場のロッカーなどに「歯のチェック」と書いた貼り紙をしておき、それを見るたびにチェックして上下の歯が当たっていたら離す、という方法もおすすめです。続けることで上下の歯が接触することは自然と減っていくようになります。

下を向いた姿勢でスマートフォンを見たり、前屈みでデスクワークを続けたりすることでも、上下の歯は当たりやすくなります。逆に、背すじを伸ばした姿勢をキープすると、上下の歯が当たりにくくなります。

このように日常生活の習慣を見直すだけでも、筋・筋膜痛による歯痛は改善する場合が少なくありません。ぜひ予防につなげていきましょう。

監修者プロフィール
樋口 均也先生(ひぐち歯科クリニック院長)

【樋口均也(ひぐち きんや)先生】

ひぐち歯科クリニック院長
1991年、大阪大学大学院歯学研究科博士課程修了。松阪市民病院歯科口腔外科部長、アリスデンタルクリニック院長を経て、2005年開院。2007年、口腔外科総合研究所開設。日本中医学会認定医(漢方)、日本口臭学会理事、指導医。

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