睡眠・休息・メンタルケア
すきま時間でOK! マインドフルネスで“心のストレッチ”
監修/伊藤絵美先生(洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長)
概要・目次※クリックで移動できます。
マインドフルネスとは?
【マインドフルネスのイメージ】
マインドフルネスとは、今の自分の状態に意識を向けて心を整える技法で、伊藤先生は「自らの体験(自分自身をとりまく環境や自分自身の反応)に、リアルタイムで気づきを向け、評価や判断を加えずにそのまま受け止め、味わい、手放すこと」と定義しています。仏教の瞑想実践法をルーツとし、近年では科学的な研究が進んでいます。うつ病の再発防止や痛みの管理など、医療分野でも有効性が認められているほか、ストレスの改善に有効という報告も多くあります。
(1)自分の思考や感覚を観察すること
「私は今何を感じているだろう」「今こんなことを考えているな」と、少し離れたところから興味を持って自分の体験を見つめます。外側から自分の様子を実況する「もう一人の自分」を作るイメージです。
(2)評価や判断はしないこと
例えば、悲しみがわいてきたときに、「こんなことで悲しんでいる私はダメだ」などと決めつけてしまうのは「評価」「判断」です。そうではなく、「ああ、私は悲しいんだな」と、今の感覚をただ受け止めるようにします。
(3)一つひとつの体験を丁寧に感じ取ること
「体がだるい」と感じる場合、「大した疲れではないから気にしないでおこう」と無視するのではなく、「どの辺りがどのようにだるいのだろうか」とさらに観察を進め、じっくり感じ取るようにします。
(4)どんな体験もコントロールしようとしないこと
ネガティブな体験(感情や思考、感覚)は一刻も早く忘れたくなりますし、ポジティブな体験はいつまでも味わっていたいものです。しかし、無理やり消そうとせず、執着もせずに、それらの体験が自然と消え去っていくのをただ観察するようにします。
マインドフルネスの効果
日常的にマインドフルネスを実践すると、以下のような効果が得られます。
(1)自分に対する理解が深まる
自分自身が何を考え、何を感じているかは、意外と気づけないものです。マインドフルネスを実践すると、自己理解を深めることができます。
例えば、不眠に悩まされていたある男性は、マインドフルネスを実践することで、寝る前に「明日はこれをやらなければ」「今日はこうすべきだった」といった思考がどんどん出てきてしまい、目が冴えてしまうことが不眠の原因だと気づきました。マインドフルネスを通して自分を知ることが、ストレスや悩みを乗り越えるための第一歩になります。
(2)自分を思いやることができる
例えば、悲しい出来事が起きてしまったとき、マインドフルネスを実践していると、「そうか、私は悲しいんだな」とありのままに受け止められます。悲しみを認識して受け止められれば、「悲しんでいる自分をどうケアしようか」と、自分をいたわるための次の行動を考えることができます。
できることなら、つらい感情は感じたくありませんし、嫌な出来事は忘れたいものです。しかし、なかったことにしてしまっては、ケアすることもできず、我慢が続くだけ。自分の体験を丁寧に受け止めて味わうことが、自分を大切にすることにつながります。
(3)日常が楽しく感じられる
マインドフルネスを実践し、自分の思考や身体感覚に意識を向けるようになると、無意識で行っていたことが新鮮に思えたり、日常が豊かに感じられるようになったりします。
例えば、つい億劫になりがちな家事に意識を向けてみます。洗濯物をたたむときは洗濯物の手触りや柔軟剤の香りなどを、食器を洗うときはお皿の汚れの感触やお湯の温度などを味わってみます。面倒だと思っていた家事からさまざまな気づきを得られるはずです。何気なく行っていた動作が、マインドフルネスによって面白く新鮮に感じられます。
すきま時間で簡単にできる! マインドフルネス実践法
すきま時間を使って行えるマインドフルネスのエクササイズを2つ紹介します。日替わりや週替わりで、2つのエクササイズを交互に行ってみてください。
(1)葉っぱのエクササイズ
あなたは河原にいて、目の前にある川の流れを眺めています。ゆったりとした流れに乗って、葉っぱが1枚、また1枚、と流れてきます。
この様子をイメージしながら、自分の思考や感情に意識を向けます。浮かんでくる思考をキャッチして、川を流れる葉っぱの上に1つずつ載せていく、というエクササイズです。
川の流れと葉っぱのイメージをひたすら維持し、思考を一つひとつ葉っぱに載せていくことに集中するのがポイントです。葉っぱを自分の意志で流そうとする必要はありません。川が自然に流してくれるのを眺めるようにします。川の流れる動画を見ながら行うと、イメージを維持しやすいかもしれません。
(2)レーズンエクササイズ
「1粒のレーズンを食べる」という行動を、レーズンを手に取り、観察し、匂いや重みを感じ、口の中に入れ、舌で転がし、噛み切り、飲み込む……といったように細分化してそれぞれの工程を意識的に行い、身体感覚を丁寧に味わっていくエクササイズです。
レーズンに限らず、他の食べ物で行ってもかまいません。「昼食のお弁当のお漬物1つだけ」「おやつのチョコレート1片だけ」といったように、一口分だけじっくり食べるようにするのもおすすめです。これなら日常の中でも行いやすいでしょう。
このエクササイズを行うとゆっくり食べることになるため、食べ過ぎの防止につながります。結果としてダイエット効果が得られることもあります。
継続するためのヒント
上記のエクササイズはいつ行ってもよく、葉っぱのエクササイズは、電車の中やスーパーのレジの待ち時間などに行うのもおすすめです。「待ち時間=マインドフルネスの時間」とルールを決めてしまうと、覚えやすく、継続しやすくなります。
習慣として定着するまではつい忘れてしまいがちなので、スマートフォンのリマインダー機能を利用したり、待受画面にメモや画像を表示したりすると、マインドフルネスのことを思い出しやすくなるでしょう。
マインドフルネスは、習慣化して長く続けることで効果が得られます。イライラするときや気分が落ち込んだときはもちろん、特に問題がないときでも行うことで、気持ちが安定していきます。すきま時間をうまく使って、こまめに実践してみてはいかがでしょうか。
【伊藤絵美(いとう えみ)先生プロフィール】
洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長
臨床心理士、精神保健福祉士。博士(社会学)。慶應義塾大学大学院修了後、都内の精神科クリニックでカウンセリングを始め、精神科デイケアの運営、EAP(従業員支援プログラム)に従事。2004年、認知行動療法を専門とするカウンセリング機関「洗足ストレスコーピング・サポートオフィス」を開設。
忙しくて気ぜわしい。ストレスが多い。気分がうつうつする……。そんなときにおすすめなのが「マインドフルネス」です。Googleなどのグローバル企業で導入され、近年は日本でも注目を集めています。手軽に取り組めて、気持ちが落ち着くなどの効果を実感しやすいことから、幅広い層に広がっています。マインドフルネスで得られる効果や、すきま時間で簡単に実践できる方法について、臨床心理士の伊藤絵美先生に伺いました。