頭痛・風邪・熱
【医師監修】片頭痛の症状と原因を徹底解説!
監修/飯ヶ谷 美峰先生(北里大学北里研究所病院 脳神経内科部長 病院長補佐(兼務))
頭のこめかみの辺りが繰り返しズキンズキンと痛む片頭痛。頭の痛みに加えて吐き気を伴ったり、光や音の刺激に対し知覚過敏になったり、症状も症状が出る頻度も人によってさまざまです。いわゆる「頭痛持ち」を自覚している人も多くいることでしょう。本記事では、片頭痛に特徴的な症状や原因、ほかの頭痛との違い、最新の治療事情について、北里大学北里研究所病院脳神経内科部長の飯ヶ谷美峰先生に伺いました。
概要・目次※クリックで移動できます。
片頭痛とは?その特徴と症状
頭痛の症状の出方や頻度は人によって異なりますが、ここでは片頭痛とは何か、および片頭痛かどうかを判断するポイントとなる典型的な特徴について説明します。
なお、「偏頭痛」という表記を見かけることがありますが、医学用語としては「片頭痛」という表記が正式です。
片頭痛の定義と有病率
片頭痛による頭痛は、日常生活に支障をきたす一次性頭痛(頭痛の原因となるような何らかの疾患がない頭痛)で、比較的頻度の高い疾患です。日本における有病率は約1,000万人、15歳以上では8.4%がこの頭痛に悩まされているという研究報告があります※1。女性に多いのが特徴で、男性の約3~4倍となっています※2。いわゆる「働き盛り(20~40代)※3」とされる年齢に多く発症し、日常生活への影響はもとより、仕事をしても生産性が上がらず、社会における経済的な損失も懸念されます。
※1:Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey. Cephalalgia. 1997 Feb;17(1):15-22.
※2:古和久典, 中島健二. 臨床神経2011;51:1147-1149
※3:「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021,医学書院,2021
片頭痛の典型的な症状と持続時間
片頭痛は、頭の片側または両側のこめかみの辺りにズキンズキンと拍動性の痛みが起こるのが特徴です。そのほかに吐き気を伴ったり、光や音の刺激に対し知覚過敏になったりすることもあり、視界にキラキラもしくはギザギザと瞬くような光の模様が広がる「閃輝暗点(せんきあんてん)」という視覚性前兆の後に起こることもあります。「片頭痛」はその名の通り、頭の片側が痛むとされていますが、実際には4割近くの患者さんが両側の頭痛も経験しています※4。
片頭痛発作が継続する時間は、4~72時間です※5。自然に30分程度でおさまる頭痛や、逆に4日以上続くような頭痛は、片頭痛ではないと考えます。また、片頭痛の頻度は人それぞれで、年に数回という人もいれば、週に2~3日と高頻度に見られる人もいます。
※4:一般社団法人 日本頭痛学会 「片頭痛/片頭痛の治療」(https://www.jhsnet.net/ippan_zutu_kaisetu_02.html別ウィンドウで開きます)を2024年10月4日に参照
※5:日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会(訳)『国際頭痛分類第3版』医学書院(2018)
片頭痛に伴う随伴症状と日常生活への影響
片頭痛の発作が起こると、普段であれば気にならない光や音、においに対して敏感になり、暗い静かな部屋でじっとしていたほうが楽に感じます。頭の痛みに加え、吐き気や嘔吐、中には下痢を伴う人もいます。
一度発作が起こると「動けない」「休みたい」と感じるほど重度の頭痛が生じ、体を動かすと痛みが悪化するため、仕事を欠勤したり、家事ができなくなるなど生活の様々な面で支障が出ます。そのため、頭痛が起きそうなタイミングや傾向を把握し、自分に合った対処法を見つけることが大切です。
片頭痛の原因と誘因
頭痛の原因はさまざまで、私たちの日常生活には頭痛の“トリガー”となる無数の要因があります。ここでは、片頭痛がなぜ起こるのかという体内のメカニズムと、何によって片頭痛が起こりやすいのかを説明します。
片頭痛の発症メカニズムと脳の変化
片頭痛がなぜ起こるのか、メカニズムは完全には解明されていませんが、主に頭部の血管、神経(特に三叉神経)が深く関わっていると考えられています。頭部には大小無数の血管が走り、頭痛が起こるときは、何らかの原因で血管が拡張して血管周囲の神経を刺激されて痛みを引き起こす物質が分泌され、激しい頭痛が起こると考えられています。
ストレス、睡眠不足、ホルモン変化…さまざまな片頭痛の誘因
ストレスは、片頭痛の誘因の1つです。不規則な睡眠(睡眠不足もしくは寝過ぎ)、女性では、月経周期に伴うホルモンの変動も片頭痛の誘因になることがあります。このほかにも、飲酒、光、音、においなどの刺激、天候など、さまざまなものが挙げられます。実際にどれが誘因になるかは人によって異なりますが、これらの誘因が複数重なり、片頭痛が生じると考えられています。
食事や生活習慣が片頭痛に及ぼす影響と予防法
アルコールは片頭痛の引き金になりやすいといわれます。中でも赤ワインは、頭痛が起こりやすい人は控えることをおすすめします。片頭痛の誘因として挙げられる食品もありますが、誘因となる食べ物だけで片頭痛の発作が起こるわけではないので、これを食べると必ず発症するということでなければ、あまり気にせずバランスよく食事をとることを心がけましょう。
むしろ、空腹や過度のダイエットも片頭痛の誘発因子になります。食事を摂らない(摂っても少量の場合)と低血糖状態になり、脳血管の周囲にある神経を刺激して片頭痛発作が起こりやすくなると考えられています。
先に述べたように、睡眠は長すぎても短すぎても片頭痛の原因となります。自分にとって適切な睡眠時間を探してみましょう。規則正しい生活リズムによってストレス解消や睡眠の質の向上につながり、片頭痛の予防に役立ちます。
片頭痛とほかの頭痛の違い
頭痛は二つのタイプに大別され、その一つが一次性頭痛です。頭痛そのものが疾患とされ、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛が挙げられます。もう一つのタイプが二次性頭痛で、脳腫瘍や脳出血などの器質的疾患が原因で生じる頭痛を指します。
緊張型頭痛、群発頭痛との症状の違い
緊張型頭痛は頭部をジワリと締め付けられるような鈍い痛みが続くのが特徴です。痛みは頭の両側で感じられ、圧迫感や締め付けられるような感覚を訴える人も多いです。ストレスや姿勢の悪さ、長時間同じ姿勢が続く状態から起こる筋肉の緊張が主な原因とみられています。多くの場合痛みは軽度から中等度で、何とか日常生活を送ることが可能な程度であり、動けず寝込む事態にはなりません。しかし、まれに慢性化して毎日のように頭痛がとれないようになると生活の支障は大きなものとなります。
群発頭痛は三叉神経・自律神経性頭痛の一つで、片方の目の奥が激しく痛むのが特徴です。1回の頭痛発作の持続時間は15分~3時間で、群発期に入ると、だいたい決まった時間に、ほぼ毎日、約1カ月にわたって頭痛が起こります。耐え難い強烈な痛みで、痛む側からのみ涙や鼻水がみられます。特徴的なのは、重度の痛みで動けない片頭痛と異なり、あまりの痛みでじっとしていられないのが群発頭痛です。
二次性頭痛との鑑別と片頭痛の診断基準
二次性頭痛は併発するほかの病気による頭痛を指し、脳腫瘍や髄膜炎、くも膜下出血、脳卒中といった、脳もしくは脳血管の病気の症状として生じる頭痛が最も問題になります。このほか、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎による炎症により三叉神経が刺激されて頭痛が引き起こされるケースや、感染症による発熱を伴う頭痛、頭部を強くぶつけた後の硬膜下血腫などの頭痛もあります。
こうした器質的疾患による二次性頭痛ではないと除外診断した後に、一次性頭痛を鑑別し、片頭痛は診断されます。可能であれば、頭痛ダイアリーや頭痛記録アプリなどを利用して、症状や生活習慣を記録してみましょう。基本的な生活パターンや1日の行動記録は、自分の日常を客観的に振り返るきっかけになり、医師とのコミュニケーションの中で治療方針を決める際にも大いに役立ちます。
片頭痛と関連する疾患(うつ病、不安障害など)
片頭痛と関連する疾患としてうつ病や不安障害が知られています。片頭痛を訴える患者さんの中には、精神疾患を合併している人が少なくないといわれています。片頭痛による痛みや日常生活への影響が心身のストレスとなり、うつ病や不安障害のリスクを高めると考えられています。逆に、こうした精神疾患が片頭痛の頻度や重症度を高めることもあり、片頭痛の治療は、うつや不安障害の合併にも注意し、必要に応じて精神科医と連携して進めます。
片頭痛の治療法と専門医の重要性
「頭痛持ちだから」と頭痛が起こるたびに我慢したり、市販の鎮痛薬で対処する人も多いでしょう。しかし、頭痛によって仕事や家事など生活に支障がある、しばしば頭痛で寝込むことがある場合は、医療機関の受診を検討してみてください。頭痛によって市販の鎮痛薬を月に10日以上飲むような状態が3カ月以上続く場合も受診をおすすめします。
急性期治療薬と予防療法
片頭痛と診断されたら、生活指導とともに薬物治療を行います。医療機関では、市販の鎮痛薬とは異なる、片頭痛の病状に合わせた治療薬が処方されます。
片頭痛の頻度が高い、もしくは重症度が高く生活に支障が出ている場合は、予防療法を行うことがあります。ただし、治療、予防いずれにおいても、薬のみに頼りすぎず、生活習慣の改善やストレス管理といった根本的な対策も併せて行うことが重要です。
非薬物療法(認知行動療法、リラクゼーション法など)
片頭痛の治療法には薬物療法以外の選択肢もあります。薬を使わない治療を希望する人、薬物療法で効果が得られなかった人、妊娠中または妊娠の可能性がある人、薬の使用過多による頭痛の既往歴がある人には、認知行動療法がすすめられることがあります。片頭痛に対する考え方や行動パターンを見直し、ストレスへの対処法を学ぶ方法で心理療法の一つです。
医療的対処法ではありませんが、深呼吸や瞑想などのリラクゼーション法は、ストレスの解消や緊張状態の緩和に有用な面もあると考えられていますので、セルフケアに取り入れてみてはいかがでしょうか。
片頭痛専門医の役割と選び方、最新の研究動向
片頭痛の治療には専門医の役割が欠かせません。特に器質的疾患がなく、慢性的に頭痛が起こる人の多くが市販の鎮痛薬で頭痛に対処していますが、頻繁に鎮痛薬を飲み続けると、薬の使用過多によって頭痛を「こじらせた」状態になり、痛みが慢性化して治りにくくなるため注意が必要です。頭痛専門医や総合内科専門医、脳神経内科、脳外科を受診するのがおすすめです。日本頭痛学会Webサイトの認定頭痛専門医一覧(https://www.jhsnet.net/ichiran.html別ウィンドウで開きます)も参考になります。
ぜひ信頼できる専門医と協力して、適切な治療を受けていただきたいと思います。
監修者プロフィール
飯ヶ谷 美峰先生(北里大学北里研究所病院 脳神経内科部長 病院長補佐(兼務))
【飯ヶ谷美峰(いいがや みほ)先生プロフィール】
北里大学北里研究所病院 脳神経内科部長 病院長補佐(兼務)
1993年北里大学医学部卒業。小田原市立病院神経内科、北里大学病院神経内科などを経て、2006年より北里大学医学部神経内科学講師。2007年より北里研究所病院神経内科、2016年より脳神経内科部長。2021年より現職。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本神経学会神経内科専門医・指導医・代議員、日本頭痛学会専門医・代議員、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。頭痛の生活支障度票MIDAS日本語版の開発、頭痛記録アプリ「頭痛Click®」の開発などを行い、頭痛の診療および研究に長年従事している。