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ニューノーマル時代に実践したい 心と体の新型疲れの防ぎ方

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監修/西多昌規先生(早稲田大学スポーツ科学学術院 准教授)

2020年のコロナ禍以降、新しい生活様式を総称するキーワードとして注目される「ニューノーマル」。その代表といえるのがリモートワークを中心とする働き方です。「毎日、満員電車で通勤する必要がなくなってストレスが減った」という声が聞かれる一方で、仕事と生活との境界線が曖昧になり、知らず知らずのうちに疲れをためてしまう人も少なくありません。このような時代だからこそ心がけたい疲労予防のポイントについて、早稲田大学スポーツ科学学術院 准教授の西多昌規先生にお聞きしました。

ニューノーマル時代の「新型疲れ」とは

ニューノーマル時代の「新型疲れ」とは

「疲れ」は、「痛み」や「発熱」と並ぶ「三大生体アラーム」といわれています。「全身がだるい」「体を動かすのがしんどい」「日中も眠くてたまらない」といった疲れの症状は体が発するSOSのサインの一つです。

ただし、痛みや発熱などに比べると、なかなか自分では気づきにくい面があるのも疲れの特徴といえるでしょう。もちろん、激しいスポーツをした後や育児、介護、ハードワークや残業が続くなど身体面も精神面も酷使するような状況のときには、エネルギーを消耗し、疲れをはっきりと自覚する人も多くなります。

しかし、コロナ禍で急速に普及したリモートワークを中心とするニューノーマルな生活や働き方においては、疲れの要因や疲れ方もこれまでとは変わってきているため、ますます疲れを自覚しにくくなっていると考えられます。新型疲れの主な要因として、次の2つが挙げられます。

  1. 1.体を動かす機会が減ったことによる、身体的なストレス
  2. 2.リアルなコミュニケーションが減ったことによる、精神的なストレス

一般的には体をたくさん動かしたほうが疲れるというイメージがあるかもしれませんが、体を十分に動かさないということも実は身体的なストレスとなり、疲れを蓄積する要因になり得るのです。

特にデスクワークなどで長時間座りっぱなしの状態を続けることには注意が必要です。腰痛の原因になったり、エネルギーの消費量が減ることで太りやすくなったりするなどのリスクもあります。さらに1日の座位の合計時間が長いほどがんで死亡するリスクが高まるという米国の研究結果も報告されています(※)。

※Gilchrist SC,et al.JAMA Oncol.2020 Jun 18;e202045.

また、人とのコミュニケーションもリモートで行う機会が増えています。自分の気持ちを言葉にして伝えたり、何気ない雑談で和んだりするといったことは、直接人と会って話すときに比べて圧倒的に少なくなりがちです。

「行きたくない飲み会に参加しなくてよくなった」「付き合いたくない人と無理に会わなくてもよくなった」など、従来の精神的なストレスが軽減される面が多々あるのも事実です。しかし、親しい人とリアルなコミュニケーションを取ることができない時間が長引くことで孤独感に襲われたり、仕事や生活に対するモチベーションが低下したりするなど、これまでにはない新たな精神的ストレスも生じているのです。

こうした要因による心身の疲れは「強い疲労感はないけれど、なんとなくスッキリしない」という状態になって現れがちです。

座りっぱなしはNG!1時間に一度は立ち上がる

座りっぱなしはNG!1時間に一度は立ち上がる

前述の「1.体を動かす機会が減ったことによる、身体的なストレス」を解消するためには、長時間座りっぱなしになるのを回避することが大切です。時間をとってトレーニングするといった本格的な運動である必要はありません。仕事の合間に1時間に一度くらい立ち上がって背伸びをしたり、屈伸をしたりするだけでも違うので、手軽な方法の一つとしておすすめです。できれば、ストレッチやスクワットなどの筋トレを行うと、なおよいでしょう。

外出時にエスカレーターではなく階段を積極的に使うようにするなど、日常での活動量を増やすのも効果的です。

さらに週に1回程度は汗を流すくらいの運動を行うと理想的です。定期的な運動を習慣にすることによって心臓のポンプ機能が強化され、血流が改善されると、仕事や家事などによる日常的な疲れもたまりにくくなる効果が期待できます。

なお、仕事の合間に体を動かすのと同時に、目にも休息を与えることを心がけましょう。パソコンのモニターやスマートフォンの画面などを至近距離で長時間見続けていると、目のピントを調整する働きをもつ毛様体筋(もうようたいきん)が凝り固まり、眼精疲労を引き起こす要因となります。ものが見えづらくなったり、目の奥が痛みやすくなったりするだけでなく、頭痛や肩こりなどの要因にもなるので気をつけましょう。

米国眼科学会(AAO)では職場での眼精疲労を防ぐ人間工学に基づくヒントの一つとして「20-20-20ルール」を提唱しています。これは20分ごとに休憩し、20フィート(約6メートル)離れたものを20秒間見るというものです。遠くを見ることで目の緊張がほぐれやすくなると考えられています。

計画を立てて、オン&オフのメリハリを付ける

計画を立てて、オン&オフのメリハリを付ける

「2.リアルなコミュニケーションが減ったことによる、精神的なストレス」については、人と直接会うのがまだ難しい状況があるなど、すぐに解決できる方法はなかなか見つかりにくいかもしれません。

しかし、ずっと家に引きこもって誰とも話さずにいたのでは、精神的な疲労が蓄積する一方になる恐れがあります。可能な範囲内で外に出て、人と話す機会を設けたりすることも考えてみましょう。

また、コミュニケーションの目的に限らず、何かしらの予定やノルマなどを日常的に設けることも大切です。リモートワークは出社時に比べて自由度が高い傾向にありますが、それだけに明確な計画をきちんと設定していないと仕事が滞ることにもなりかねません。

特に予定がなく、仕事の時間の区切りがはっきりしない状態が続くと、気持ちの安らぐ時間が減る可能性があります。こうしたことがいつの間にか精神的なストレスとなり、心の疲れへとつながる可能性があります。こうしたことを意識して、自分の時間を確保して、好きなことをする時間をもつことを心がけましょう。

疲れを防ぐ基本は生活のリズムにあり

疲れを防ぐ基本は生活のリズムにあり

リモートワークで疲れをためこまないために、もう一つ重要なポイントとなるのが「生活のリズムを保つ」ということです。始業や終業のチャイムなどがない環境下では、1日の仕事を終わらせるタイミングを逃してつい深夜まで作業を続けるなど、歯止めが効かなくなりがちです。結果的に過重労働となり、疲れをためこむ要因となる例は少なくありません。

特に重要なのが朝の過ごし方です。睡眠や体温、血圧などの生命活動を決まった周期で変動させる「生体リズム」を調節する働きを担う「体内時計」は、朝の光を浴びることでリセットされ、一定のリズムが保たれています(※)。

(※)生体リズムと体内時計についてはこちらの記事もご参照ください。

朝は次のようなことを心がけましょう。

  • 毎日決まった時間に起きる
  • リモートワークの日でも、きちんと着替えて身だしなみを整える
  • 出勤しない日も仕事を始める前に、コンビニエンスストアへ買い物に行ったり、近所を散歩したりするなど、できるだけ外に出て光を浴びて体を動かすようにする

さらに次のようなことも意識するとよいでしょう。

  • 食事をできるだけ毎日決まった時間にとるようにする
  • 就寝1時間前はスマートフォンやパソコンを使わないようにする

過度の疲れを示すシグナルとは

過度の疲れを示すシグナルとは

なお、精神的な疲れが蓄積すると、うつなどの病気に進行する可能性もあります。次のようなシグナルが現れたら早めに対処することが大切です。本人が自覚しにくい場合もあるので、周りの目も大切です。

以前からこうした傾向があったわけではなく、以前はきちんとしていたのに顕著に変わってきたと感じる場合は注意が必要です。

まずは、自分の生活を振り返ってみましょう。ただし、あれもこれも改善しなくてはといったように自身にプレッシャーをかけることは避けてください。

SOSを感じたら、小さなことに意識を向けて、実行してみましょう。例えば、身だしなみを整えるだけでも気分が変わり、心的ストレスの解消にもつながります。

監修者プロフィール
西多昌規先生(早稲田大学スポーツ科学学術院 准教授)

【西多昌規(にしだ まさき)先生プロフィール】

精神科医(医学博士)。東京医科歯科大学卒業。国立精神・神経医療研究センター病院、ハーバード大学医学部精神科研究員、東京医科歯科大学大学院 精神行動科学分野助教、自治医科大学精神医学教室講師、スタンフォード大学医学部睡眠・生体リズム研究所客員講師などを経て2017年より現職。精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会専門医、日本医師会認定産業医、日本老年精神医学会専門医、日本臨床神経生理学会認定医(脳波部門)。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。『休む技術』(大和書房)など著書多数。

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