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特集(季節のテーマ)

国内初!医師が処方する 「禁煙治療用アプリ」

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監修/正木克宜先生(慶應義塾大学内科学(呼吸器)助教)

タバコの健康被害は広く知られており、2020年4月には屋内での喫煙が原則禁止となりました。しかし、喫煙者にとって禁煙を続けることはなかなか難しく、一念発起して禁煙を試みても、再び喫煙してしまう人が少なくありません。こうした人への治療法として、医師が処方する禁煙治療用アプリが、2020年12月に国内で初めて保険適用されます。このアプリによってどんな効果が期待できるのか、慶應義塾大学医学部内科学(呼吸器)助教の正木克宜先生にお聞きしました。

喫煙は「ニコチン依存症」。意志だけではやめられない

喫煙が脳卒中、がん、心臓疾患などさまざまな病気のリスクになることはよく知られています。しかし、喫煙者は国内に約2000万人います。健康に悪いと知りながら、多くの人が喫煙をやめない・やめられないのは、「自分の意志でいつでもやめられる」と思っているからかもしれません。

しかし、喫煙の本質は、ニコチンという依存性をもつ物質に対する「依存症」です。依存性がある物質の摂取を絶った際には、一時的にイライラしたり、集中力が低下したり、不安になったりする「離脱症状」が起きます。そのため、どんなに強い意志の持ち主であってもやめられない場合も多いのです。禁煙を成功させるためには、まず「喫煙は単なる嗜好や習慣ではなく、ニコチン依存症という治療が必要な病気である」と捉えることが大切です。治療手段の一つとして、禁煙外来では、離脱症状の緩和効果のある禁煙補助薬(飲み薬やニコチンパッチ)を使った薬物療法が保険診療で行われています。

これまでの禁煙治療の課題をアプリで解決

禁煙外来では、原則として12週間に5回の診療で薬の処方とカウンセリングを行います。しかし、治療を中断してしまう人や、一度は禁煙に成功しても再喫煙してしまう人もおり、1年後に禁煙を継続できている人はわずか3割ほどにとどまっています。薬物療法は短期的な禁煙成功には役立つものの、長期的な再喫煙防止は難しいことや、カウンセリングが最大5回に限られ、医療機関によって診療体制や指導時間に差があることなど、禁煙外来での治療にも課題があるのが現状です。

こうした課題を解決すべく、近年、スマートフォンアプリを活用したデジタル療法が研究されています。禁煙と同様に継続的な行動変容や疾患への理解が必要とされる糖尿病では、すでに海外で治療用アプリが保険適用となっています。禁煙支援においても、いくつかの治療用アプリが海外で開発されていますが、これまでは30日間など短期間の禁煙継続効果を示す報告にとどまっていました。

今回、正木先生と舘野博喜非常勤講師、福永興壱教授を中心とする慶應義塾大学内科学(呼吸器)のグループと、2014年に佐竹晃太医師、鈴木晋医師が創業した株式会社CureAppは、ニコチン依存症治療用アプリを開発し、大規模な臨床試験を実施しました。標準的な禁煙治療に加えてこのアプリを使用したグループでは、半年後の禁煙継続率が63.9%となり、治療用プログラムの入っていない対照アプリを使ったグループ(禁煙継続率50.5%)よりも高くなりました(※)。さらに、治療効果は1年後まで保たれており、世界で初めてアプリの長期的有効性が示されました。このアプリは2020年8月に薬事承認を得ており、2020年12月に保険適用されます。治療用アプリとして、薬と同様に臨床試験で効果が科学的に検証された本邦初のケースであり、今後は医師が外来でアプリを“処方”することで病気を治療する、という選択肢ができることになります。

(※)Katsunori Masaki, Hiroki Tateno, Akihiro Nomura, Tomoyasu Muto, Shin Suzuki, Kohta Satake, Eisuke Hida, Koichi Fukunaga. A randomized controlled trial of a smoking cessation smartphone application with a carbon monoxide checker. npj Digital Medicine 2020;3:35.

ニコチン依存症治療用アプリ(画像:CureApp社提供)

ニコチン依存症治療用アプリ(画像:CureApp社提供)

医師が処方する禁煙治療用アプリの特徴とは

すでに、医師の処方なしに無料でダウンロードできる禁煙支援アプリは多数存在していますが、医師が処方する禁煙治療用アプリはどのようなものなのでしょうか。

今回承認された禁煙治療用アプリの場合、12週間・計5回の診療と薬の処方に加えて、医師がアプリと自宅での呼気中一酸化炭素濃度測定器(モバイルCOチェッカー)を処方します。患者はスマートフォンなどの端末にアプリをインストールして使用します。外来診療の間の治療空白期間にアプリを使用するほか、12週目(5回目)の受診以降も24週目までアプリを使用し続けることで、日常生活での禁煙継続を支援します。

患者がモバイルCOチェッカーで測定した一酸化炭素濃度は、アプリのデジタル禁煙日記に自動で記録されます。また、ニコチン依存症に関する2~3分程度の動画などによって、禁煙に関する意識の変容や行動の定着を促します。さらに、アプリは自動応答チャット機能も備えています。吸いたくなったときに「ナースコール」をタップすると、利用者ごとの特性や禁煙進捗状況などに応じて「つらいですよね」「ガムを噛みましょう」などの具体的なアドバイスや励ましを受けることができ、喫煙衝動や離脱症状を乗り切る手助けをします。医師と直接やり取りする機能はありませんが、アプリの利用状況は医師用アプリにも共有されるため、医師側も診察の際に活かせる情報が増え、診療の質の向上につながります。

「我慢」ではなく「納得」できることが禁煙継続のコツ

禁煙治療の失敗因子として「若年での喫煙開始」という要素が知られており、意識しなくても日常生活に溶け込んで使えるスマートフォンアプリは、特に若年層へのアプローチとして期待されます。

一方、近年台頭する加熱式タバコの影響も気になるところです。加熱式タバコは紙巻きタバコと同様に有害物質を含んでいるため、身体的有害性が懸念されています。そして、加熱式タバコにも依存性物質であるニコチンが含まれていますので、加熱式タバコへの乗り換えはニコチン依存症の治療手段にはなりません。

禁煙の成功には、まず禁煙開始日を決め、その日からニコチンの摂取を断つこと、すなわち喫煙本数を0本にすることが大切です。そして、離脱症状を上手にコントロールしながら再喫煙を防ぐ必要があります。薬によってニコチンの身体依存性を抑えることができても、「我慢を続ける」というやり方ではいつか再喫煙してしまいます。薬で離脱症状を抑えている間に、タバコとニコチン依存症に対する理解を深めることで禁煙の意義を自身で納得し、吸いたい衝動に対処する方法を身につけることが重要です。この禁煙治療用アプリは、薬物療法の限界を補うものとして、禁煙導入のみならず再喫煙防止にも貢献することが期待されています。

監修者プロフィール
正木 克宜先生(慶應義塾大学内科学(呼吸器)助教)

【正木克宜(まさき かつのり)先生プロフィール】

慶應義塾大学内科学(呼吸器)助教、医学博士。2007年に慶應義塾大学医学部を卒業し、2015年に同大学大学院医学研究科博士課程を修了。済生会宇都宮病院呼吸器内科、英国・Guy’s & St Thomas’ Hospital アレルギー科での臨床研修を経て、2019年より現職。日本禁煙学会認定専門指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本呼吸器学会呼吸器専門医・禁煙推進委員、日本アレルギー学会アレルギー専門医、日本感染症学会感染症専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。禁煙支援、呼吸器・アレルギー診療の他、デジタル療法の研究や喫煙防止教育活動にも取り組む。

サワイ健康推進課公式Twitter

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